ぬこのイラストブックれびゅう

雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

悪夢がよみがえる理由

ひなこまち』の

イラストブックレビューです。

    

ひなこまち (新潮文庫)

ひなこまち (新潮文庫)

 

 江戸の大店の一人息子、病弱な若だんなと妖たちが
町でおこる不思議な出来事の謎を解く、しゃばけ
シリーズの第11弾。

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長崎屋へ舞い込んだ一枚の木札。
そこには、『お願いです、助けて下さい』と書いてあった。
若だんなは力になってあげたいと思うのだが、
木札を書いた主は見つからない。
そのうち、若だんなのもとへ、困った事情を抱える者が
次々とあらわれて…。

斬り殺されそうになった噺家、売り物を盗まれた古着屋、
惚れ薬を欲しがるお侍。
今回も様々な人物が登場します。

斬り殺されそうになった噺家は、実は人間に化けた貘。
人間の悪夢を食べていた貘は、その夢の内容を
怪談話として落語で語れば、きっと怖がられるに
違いない、と考えます。

その考えは当たって、貘の落語は大人気。
その人気の噂を聞き、若だんなたちが落語を聞きに訪れたところ、
貘が覆面をかぶった侍に斬りつけられ…。

貘が人間に化けて落語をする!
考えただけでもワクワクしてしまいますね。
しかもこの貘ときたら、落語を話すのが好き、お客が
怖がっているのを見ると自分の話が良かったんだなと
うれしくなる。
そのくせ、お侍に斬りつけられたら怖くなってしまって
本来の仕事である人間の悪夢を食べることすらできなく
なってしまう。

なんという人間くさい妖なんでしょう!
弱っちい(笑)。
若だんなの周囲にいる妖たちは貘に対してあきれ顔ですが
若だんなは何とかして貘を助け、貘が仕事をしなくなったために
ファンタジックになってしまった(餅が喋るとか)江戸の町を
もとに戻すべく頭と身体を駆使して解決に臨みます。

若だんなの博愛主義は、江戸の平和に欠かせないのだと思います。
それは、若だんなが病弱だから。
いつも誰かの世話になっているため、常に誰かの役に立ちたい、
と素直に、そして強く思っているからなのです。
箱入り息子ゆえ、ということもあるでしょうが、なんとも
まっすぐに育っていて目元が緩んでしまいます。
ああ、これは親目線かしらん。

それから、今回は『ゆんでめて』の中の、もう1つの世界で登場した
河童の凛々しい女親分、禰々子も登場します。
神様の仕業なのか、単なる偶然なのか、パラレルワールド
登場した人物が登場するということは、このようにして
現実の帳尻合わせをしているのかもしれません。
できれば若だんなが心を寄せた女性もどこかで出てきて
欲しいのですが…。本作では残念ながら登場しません。

それでも気っ風が良くて男まさり、かっこいい禰々子は
そのままで、うれしくなります。
お世話になった河童のお礼にと、河童の秘薬を何種類か持って
きてくれます。

3日間起きていられる薬。でもその前に3日間寝込む。
起きていられるのはその後。
大怪我をしても一瞬で治る薬。でもその痛みは5倍になる。
惚れ薬。
幸せになる薬。どう効くかわからないから人生を賭けるつもりで。
などと、どうにも使い勝手が悪すぎて笑えます。

この惚れ薬を欲しがるのは、真面目なお侍さん。
妻に惚れているのだが、妻が突然尼になる、と言い出して
困っているという。
四角四面で融通が効かないお侍さんですが、とにかく
妻を失いたくないと必死です。

奥様も旦那様のことを好きでいるようですが、お家事情に
より、身を引くことを考えての発言でした。
お互いが好きなのに、気持ちが通っているのに、
2人が良いように行動することができない。せつないです。

ここで、河童の秘薬、幸せになる薬によって、ハッピーエンドを
迎えます。
結局、若だんなには1つも役に立たない薬でした。
若だんなは病弱ですが、そのぶん家族や妖たちから大事に
大事に思われて、これ以上に欲するものがないのでしょう。
己がある幸せな立場を理解している、そして自分のために
利益になることは希望せず、人のために役に立ちたい、と
そう思っている若だんなはやっぱり周囲の人や妖を
幸せにしていると思うのです。