ぬこのイラストブックれびゅう

ぬこのイラストブックれびゅう

雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

変わりゆく江戸を描くほろ苦い人情小説

多くの読書人が集う『シミルボン』に、インタビュー記事を掲載

していただきました!自己紹介や本好きになったきっかけ、

書評作成時に心がけていることなどをお答えしています。

よろしかったら見にきてください爆  笑

https://shimirubon.jp/columns/1691046 

うずら大名 』の

イラストブックレビューです。

 

正体不明の『大名』と、泣き虫の村名主が江戸を
揺るがす難事件に挑む。

 

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白い鶉(うずら)を連れた美丈夫の男、有月は、なんと隠居した
大名だった。引退するにはまだまだ若いようだが…。
一方、村名主となった吉之助は、子供の頃から泣き虫。怖いことや
つらいことがあると、いい大人になった今でもすぐに涙が滲んでしまう。

2人はかつて同じ道場で学んだ身。共に自身の未来はどうなるのかと
不安におののく子供たちであった。大人になった2人が、うずら
佐久夜を引き連れ、江戸を騒がす事件の解決に挑む。

しゃばけシリーズで名を馳せた著者が手がけるのは、変わりゆく江戸を
描いた、ほろ苦い人情物語。しゃばけシリーズと違って、全体的に
緊張感が漂います。

舞台となるのは江戸時代。大名は財政不足にあえぎ、一方江戸の人口が
増えたことで多くの野菜を作るようになった農家は、大名に金を貸す
ようになる程、豊かになります。立場と暮らしぶりが必ずしも一致しない
世の中になってきていました。

そこへ流れてきたのが、侍の身分を金で買えるらしい、という噂。
身分を売買するなど、有り得ないという認識は多くの人間が持っては
いるものの、逼迫した侍が多くいることも事実ですし、農民の身分から
侍へと変わることができるのなら…と思う、お金を持った農民がいるのも
事実。

それと、江戸時代では生まれた瞬間に運命が決まっていたことが大きい。
長男に生まれれば家を継ぐことができますし、次男坊も長男に何か
あった時のために大事にされます。しかし、三男坊以降は己でどう
生きていくかを決めなくてはならず、しかも安泰な道はありません。
それは大名の子供であっても例外ではないのです。

事件は、稼ぎもできず、嫁をもらうこともできず一生を送るしか
できない、未来に何ひとつ光を見出すことのできない者たちが
偽りでも、わずかでも光を見たかったゆえに引き起こしたもの。
今よりも簡単に人が死んだ時代、短い一生で自分が何をするのか。
身分に縛られて、寂しく味気ない人生を送るのか。それとも
華やかに見える場所を求めていくのか。

美丈夫だけどいじめっ子気質の有月と、情けないけど優しく責任感の
強い吉之助。彼らも実は、事件を起こしたものと遠い立場にいるわけでは
ありません。しかし、彼らは環境が変わったところで、生き方は
変わらないように思えるのです。それは今の自分に覚悟を決めて
生きているから。置かれて場所で自分の役割を全うしようという決意が
あるから。

斬り合い、殺人などピリっとした雰囲気の中、佐久夜の存在が
可愛らしく、そして事件の解決にも活躍していて、いいスパイスに
なっています。なんと巾着鶉といって、自ら巾着袋の中に入ります。
飼い主の呼ぶ声で袋に入ったり出たりするのです!飼い主はうずら入りの
巾着袋を持ち歩いてそうです。お出かけにも連れていくなんて、いいなあ。
そんな飼い方するんですねえ。

変わっていく世の中にしっかりと立つ男たちを描いた物語。
佐久夜の鳴き声『御吉兆ー!』が、彼らに良いことを運んで来ますように。