ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

ガッチガチの仕事人間が父親になるまで

『その時までサヨナラ』の

イラストブックレビューです。

 

【文庫】 その時までサヨナラ (文芸社文庫)

【文庫】 その時までサヨナラ (文芸社文庫)

 

 

別居中の妻子が、旅先で列車事故に遭遇した。
仕事のことしか頭にない悟は、奇跡的に生還した息子を
義理の両親に引き取らせようとする。

だが、亡き妻の親友だと言う謎の女があらわれ、
事態は思いがけない方向へと展開していく。
女の正体は何なのか。そして、事故現場から見つかった
結婚指輪の意味は。

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出版社に勤める悟は、担当する作家が売れっ子となり、
仕事も順調。自分にとって、嫌な態度を取る人間は、自分に対して
嫉妬しているのだ、と考えています。
実際、悟は仕事ができて、実績もあるので、視界が狭いというか
相手に対する思いやりや、相手の立場を考えるような思考は
ほとんど持ち合わせていないような仕事人間です。

そんな状況で、家庭を顧みることを一切しません。
奥さんがもう少し子供を見て欲しい、といっても聞かず。
とうとう呆れて奥さんと子供は、奥さんの実家に帰ってしまいます。

ここまで自分中心の男性っているのでしょうか?
何で結婚したのさ、って話です。
悟曰く、妻に無理やり結婚を迫られて、という事のようですが
それにしたって家族としてやっていきましょう、と約束した
相手に対する態度としては酷すぎます。

事故後、4歳の息子を引き取りますが、コンビニ弁当を
与えて、自分から何か話しかけたりお世話したりなんかは
一切なし。幼稚園の送り迎えもしない。
子供の面倒を見るために自分の仕事を調整する、という頭が
ないんですね。自分の夫だったら蹴り入れてますね。

そこへ、謎の女性が登場。
妻の親友というその女性のことを、息子がとても慕っています。
女性は、妻から夫と子供を頼む、と言われたのでやってきた。
あなたを父親として教育する、と主張し、料理や洗濯、掃除などを
教えようとします。

当然ですが悟は拒否。彼女を追い出そうとすると、息子が
精神不安定な状態に。それでも仕事が忙しい悟は、まだまだ
家庭を整える状況までは至りません。

そんな時に、仕事で重大なミスが起こります。
直接悟が犯したものではありませんが、言い訳ができない状況です。
これまで培ってきたものが一気に崩れ落ちていくほど。
これはつらい… でも自分のせいなんだぜ、と思ってしまうのは
母親の立場で読んでいるせいでしょうか。

ここから気持ちを入れ替えて、家事の教育を受け、息子との
距離も徐々に縮めていきます。
自分と仕事が中心の人がパラダイムシフトするには、天地が
ひっくり返るほどの事が起こらないと難しいんだなあと
思いました。それだけ集中して仕事してた、ってのも
あると思いますが。この出来事をきっかけに、悟も会社に対しての
スタンスが変わっていきます。

そして、悟を父親として教育しようとする謎の女。
これは、何となく正体がわからなくもないですけどね。
しかし、妻の友人とはいえ、突然家に上がり込んであれこれ指図するって
気味が悪いですよね。まあ、悟がそれを断固拒否できない理由は、
子供の面倒を見きれていないから。正体不明の女に頼らざるを得ない部分が
あったのですね。

妻が生前何を思っていたのか、何をしようとしていたのか。
そこが解明されたとき、はじめて悟は妻を家族として理解したのでは
ないでしょうか。それができたのは、悟が相手の気持ちを考えられるように
なったから。自分が変わったからこそ、相手の思いを理解できる
ようになったのです。

ラストは号泣…とまではいきませんでしたが、映画のワンシーンの
ような、深い余韻が残る、いい終わり方でした。

最近忙しくて家庭を顧みる暇がない、というお父さん。
子供の事を考えて欲しいし、忙しいお父さんの身体を心配しているのに
ちっとも話を聞いてくれない…、というお母さん。
どちらの立場からも、グッとくる、そして家族について改めて
考えさせられる物語です。