ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

セーラー服を着た美しきテロリスト

『屋上のテロリスト』の

イラストブックレビューです。

  

屋上のテロリスト (光文社文庫)

屋上のテロリスト (光文社文庫)

 

 一九四五年八月十五日、ポツダム宣言を受託しなかった
日本はその後、東西に分断された。
そして七十数年後の今。
彰人は、学校の屋上から飛び降りようとしたところを、
美しい少女に声をかけられる。
それはテロ仲間へのお誘いだった。

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日本がかの国のように東西に分断されたとしたら。
そんな意表をついた設定に驚かされます。
東京以西の西側はアメリカの援助を受け、民主主義のもと
経済発展が著しく成長。
一方北海道、東北を主とした東側はロシアが進出していた
経過もあり、軍部が発達した社会主義。経済発展については
西側よりも大きく遅れをとっており、この頃ようやく西側に
追いついてきたというところ。

謎の女子高生、沙希は、彰人にバイトの話を持ちかけます。
どんな危険な仕事も引き受けること、などと漠然とした言い方です。
彰人は死に魅せられています。バイトが終われば私が
あなたを殺してあげる、と沙希は言います。
それはとても魅力的な提案のように、彰人は感じたのです。

ドラマとか、映画のような背景とセリフなんですが
2人の落ち着いた様子がいいですね。
沙希は彰人を伴って、まずは現金輸送車を襲撃し、現金を強奪。
そして東側から核兵器を購入。東側の陸軍と交渉をしながら
西側へ核ミサイルを打ち込む準備を行います。

沙希の冷静かつ、楽しむような襲撃ぶりはかっこいいです。
そして、死に対して魅力を感じるといっても犯罪や軍隊は別で、実際
怖いんですけど…といった引き気味でありつつ必死に
沙希についていく彰人の、2人の対比もおもしろいです。

途中、キーマンと言える2人の老人が登場します。
この方々の活躍がまたいい。
若者の単純な怒りと行動と対比して、彼らの抑えた、でも
自分ができることで、自分なりに闘っているというその姿が
物語全体をピシッと引き締めているように思うのです。

沙希の行動力、交渉力などはとっても魅力的。
しかし、そうした能力を持った沙希という人間がどのように
出来上がったのか、その辺の描写が少々弱いように感じました。
それゆえ、テロの動機についても正論ですが、いまひとつ
足りないような。

しかしながら、舞台設定や、周囲の人物たちがとても良く
描かれているので全体としては読みやすく、楽しめる物語です。
使命感を持って戦う女子高生って、すんごく素敵です。
女子高生が国に殴り込みをかける、極上エンターテイメントです。