『にじいろガーデン』の
イラストブックレビューです。
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- 作者: 小川糸
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2017/05/19
- メディア: 文庫
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もうすぐバツイチになる泉は、六歳の息子、草介と二人で暮らしていた。
ある日、泉は女子高生の千代子が電車に飛び込もうとしていたところを
引き止める。そこから二人の交流が始まり、特別な感情を持つようになった
二人は、草介とともに「かけおち」しようと決意。ほどなく千代子の妊娠も
判明。田舎での、母二人、子供二人の生活が始まる。
レスビアンカップルの泉と千代子の出会いから、二人が恋人同士になり、
泉の息子の草介と家族となり、さらに千代子が産んだ娘、宝を加えた
家族を形成していく物語。章ごとに語り手が変わり、時も移り変わっていく構成。
第一章は、駆け落ちした先で始まる生活を泉目線で語り、第二章では、
ゲストハウスを始める経緯を千代子目線で、第三章はハワイで結婚式を挙げ、
家族で旅行を愉しむシーンを草介目線で、第四章はこれまでを振り返りながら
これからの家族を思うシーンを宝目線で描きます。
離婚寸前で落ち込んでいた泉と、レズビアンであることを親にカムアウトして
拒否された事から自殺しようとしていた千代子。極限状態で出会った二人は
強く惹かれあいました。深く傷ついた二人だからこそ、相手を大切にしたいと
いう気持ちが強かったのだと思います。
駆け落ちしよう、などと衝動的に行動する部分もありますが、二人は自分の気持ちに
正直に、声高に自分たちを主張することもなく、静かに、丁寧に、そして懸命に
生きています。そんな彼女たちが始めたのはゲストハウス。
傷ついた人が羽を休めることが出来るような、そんなひと息つける場所を
築きたい。そんな思いからでした。
時には激しい喧嘩もする泉と千代子。しかし、互いへの思いが強ければこそ。
子供たちもそんな二人を見て、優しく、健やかに成長して生きます。
田舎の町で穏やかに幸せな時間が過ぎていきますが、泉が体調を崩したり、
千代子の病気が明らかになったり、草介の仕事へのストレスが重なったり、
宝が高校受験しなおすことを決意したりと、なかなかに波乱万丈です。
それでも彼らは家族として互いに相手を強く思い、大きく包み込むように
愛している。充分にその愛を受けた彼らは、今度はゲストハウスに訪れたお客たちに
その愛を分け与えていきます。そんな彼らの思いが、行動から、言葉の端々からにじみ出る
ような、やさしさと愛に満ちた「家族」の物語です。