ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

準備が整った者に『運のいい日』はやってくる

運のいい日』の

イラストブックレビューです。

 

運のいい日 (創元推理文庫)

運のいい日 (創元推理文庫)

 

 連続殺人鬼を父親に持つ少年の物語『さよならシリアルキラー』の前日譚。
ガールフレンド、コニーとの出会いから付き合い始めの頃、親友ハウイーと
コニーと3人で出掛けたハロウインパーティーなどの青春物語、そして
ロボズノッドの保安官、G・ウィリアムがビリーを捕らえる物語など、
四つの物語が入った短編集。

 

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コニーとジャスの出会いや交際が、とてもみずみずしく描かれています。
殺人鬼を父親に持つジャスは、コニーに対して一歩引いた態度。
最初、それと知らずに付き合いはじめたコニーは、事実をネットで発見し驚きます。
そのことをジャズに話すと『楽しかったよ、ありがとう』と別れを宣言されてしまうのです。

ここからのコニーはすごい。『逃げないでよ』『何様のつもり』と、ジャズの
腕をつかむ。そして、他人と距離を置くジャズにとって最適な方法を
考え提案し、なおかつ実行に移すのです。なんという行動力!!

ジャズが影なら、コニーは光。しかも影が一切映らなくなるくらい、
ピッカピカに照らしてくれます。親友ハウイートとともに、この二人はジャスが
深い闇に落ちていくストッパーとなってくれる大事な存在なんだなということが
よくわかります。

そしてもうひとつ、老保安官ウィリアムが、連続殺人鬼ビリーを捕らえる物語。
ウィリアムは奥さんを亡くして、なんとも味気ない生活を送る日々。
体に気を使わない食べ物、身の回りにも気を使わず…。
奥さんが大好きだったんだね…。気の毒になってしまいます。

そして、数十年殺人事件など起きたことがないこの田舎で、女子高生の
行方不明事件が発生。次に別の女性の死体が発見されました。

連続殺人事件の可能性は。残された証拠が持つ意味とは。
老体に鞭打って、ウィリアムは必死に考えます。自身の保安官選挙で
地元紙にネガティヴキャンペーンを張られ、精神的にも疲弊。
もういいんじゃない?充分頑張ったよ、と声をかけたくなるほど。

しかし、その苦境の中で光を見出します。それは、苦しみながらも
事件のことを考え続けていたために、点と点が繋がり、線になった
瞬間だったのです。まるでその結果を得るために今までの苦しみがあったかの
ようにも思えます。

逮捕劇も緊張感みなぎる描写です。この逮捕劇でのやりとりに、ビリーは
サイコパスであるということがひしひしと感じられて本当に怖いです。
こんな人間と対決するもんじゃありません。

ウィリアム、大丈夫かしら?と心配になりましたが、その不健康な体が
連続殺人鬼を捕らえるにあたって役に立った模様。
緊急時、何が役に立つのかわからないものですね。

不器用な、仕事一筋の老保安官が捕らえた連続殺人鬼。
それはこれまでの経験値と分析力、そして行動力が揃ったために訪れた
『運のいい日』だったのです。