『牛姫の嫁入り』の
イラストブックレビューです。
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江戸時代中期。派遣忍者業を営んでいる女忍びのコウは、旗本の加納家からある依頼を
受ける。それは下妻藩主・藤代家の末娘、重姫と加納家息子を引き合わせる「誘拐見合い」だった。重姫をさらうべく屋敷へ忍び込んだコウと相棒の守市が目にしたものとは。
美少女と評判の高かった重姫。ところが、いつからか人前に現れなくなりました。娘可愛さに、藩主が城の奥から姫を出さないのだという噂ですが…。一方、家が衰退の一途を辿り、連日遊びまくる息子に頭を抱える旗本、加納光政は、加納家存続のために噂の重姫と息子を誘拐見合いさせることを思いつき、派遣忍者の女忍びコウと、ちょっと抜けてる相棒守市のコンビに依頼します。
藩主屋敷に忍び込んだ忍びの2人が見たものは…。
牛のようにまるまると太った重姫でした。
誘拐に失敗してしまい、捕らえられたコウは藩主に取引を持ちかけます。期限内に重姫を痩せさせる。達成したら解放してほしいと。藩主の了解のもと、重姫のダイエット大作戦がはじまります。
鶏を捕らえる、掃除、洗濯…。反抗することなく素直にコウの指示に従う重姫。
コウとのやりとりの中で、重姫がなぜ今のような体型になったのかが次第に明らかになっていきます。お菓子を食べると父上が笑顔になるから…なんて、父親への慕情に思わずホロリとしてしまいます。根は素直で優しい重姫なんです。
体を動かすことで、お腹が空き、口に入れるものの味わいがよくわかるようになっていった重姫。そこにあるからといって、ひたすら食べ物を口に入れていた頃は味すらも感じなかったとか。幼い頃に母を亡くし、醜く太った自分になってから目を向けなくなった父。そんな寂しい気持ちを、お菓子で埋めていたのです。満たされない気持ちを食べ物で、という心理は現代人にも通じるところがありますね。
体はだいぶ動くようになったものの、期日までに痩せるのはやはり無理なのか?と読者がやきもきし始めたころ、お忍びで町へでかけた重姫とコウにある出会いがあります。それはなんと、誘拐見合いをしようとしていた加納家の息子だったのです。痩せる前に出会ったふたり、果たしてどうなることやら…。
忍びのコウは両親も身寄りもなく、また忍びである以上仕事の邪魔になるため家族を持つことは禁じられています。仕事に厳しく、自分に厳しいコウですが、重姫がもとから持つ素直な心、そして痩せていくごとに輝いていくような魂の美しさに、情が移っていく場面も。互いが持つ孤独や寂しさという部分が呼応したのかもしれません。
食べ過ぎによってついてしまった脂肪は体だけではなく、心すらも覆ってしまうよう
です。体を動かしてお腹空かせること。必要なものだけを、感謝して味わうこと。心が
感じることを素直に味わうこと。そんなシンプルなことを心がけていれば、美しさというものは自然と身体から発せられるのでないでしょうか。そんなことを教えてくれる物語です。