『あとかた 』の
イラストブックレビューです。
実体がないような男との、演技めいた快楽。
結婚を控え変化を恐れる私の身体に男が遺したものとは。
傷だらけの女友達が僕の家に住み着いた。彼女とは絶対に
体の関係を持たない。かけらが少しずつリンクしていく
6つの恋愛短編集。。
5年も一緒に暮らしてきた彼との結婚を控えた私。
同じ形を保つために結婚という形を取る。しかし、彼との間に
変化は容赦なく訪れる。そのことを考えると何とも言えない気持ちに
なり、身体の中から何かが滲み出してしまうような感覚を覚える。
そんな時に出会った男は、思いつきで喋り行動するようないい加減な
人間だった。男とは、都合の良いときに身体を重ねるだけの、
形などない気軽な関係であるはずだった…。
結婚を控えた彼との、輝いていた頃の互いを良く覚えていて、今の落ち着いた
関係も納得できるし、彼のことを大事だと思っている。でも、
次第に身体も心も関係性も変化していくことに納得しながらも
自分の身体の中から何か滲み出してしまうような気分になってしまう。
その滲み出した部分を埋めるのは、別の男。しかしこの男も
彼女と同じ空白を持っていて、それが二人を共鳴させたのかもしれません。
あと腐れない間柄だった二人の関係ですら、変化することに
女は愕然とします。二人とも客観的に自分を見ていますが、
それぞれのその視線の先にはっきりと相手を見てしまう瞬間が
あります。その瞬間に、相手のことを自分に焼きつけてしまうのです。
二人の関係は終わりを告げますが、通り過ぎてもなお、弱く光を発し、
小さな火が燻っているような、そんなチリチリとした痛みを感じる
恋愛の物語です。
他の五編の物語も、暗闇の中で淡く光る小さな火のような、そんな
思いを描いています。浮気相手、友人、滅多に会えない恋人。
決して口に出せないような関係もありますが、思いがけない瞬間に
愛がそこにあったのだということを気づかせてくれる、そんな
恋愛連作短編集です。