ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

イヌたちによる人間界への革命

ベルカ、吠えないのか? 』の

イラストブックレビューです。

ベルカ、吠えないのか? (文春文庫)

ベルカ、吠えないのか? (文春文庫)

 

 

キスカ島に残された四頭軍用犬。彼らを始祖として交配と
混血を繰り返し、繁殖した無数のイヌたちが国境も海峡も
宗教も越境し、戦争の世紀=20世紀を駆け抜ける。

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1943〜1991年までの43年間、イヌたちがどのような状況で
交わり、死に、そして生きてきたかを、イヌに語りかけるような、
時には質問するような、スピーディーな文体で綴ります。

ものすごい発想の物語で、なおかつ史実にも基づいているために
説得力も高いです。時の流れも43年間とボリュームがあるのですが、
一文一文が短くキレがあり、頭に入りやすいので、混乱せずに
読み進めることができます。

イヌたちは人間という主人を持ったり、持たなかったりします。
しかし、軍用犬として開発されたイヌや、オオカミと交配された
イヌたちは非常に頭が良く、自身が生き抜くため、または主人を
助けるために凄まじい能力を発揮します。

そしてイヌたちの生きてきた背景には、東西冷戦、民族紛争、
麻薬組織など激動する世界情勢があります。
軍用犬として、麻薬探知犬として、ソリを引くイヌとして、
その時代や場所ごとにに確実に優秀な仕事をこなしているのです。
そうした素地を持ったイヌたちが、本能レベルで状況を理解、判断し、
行動し、命を落としていくのです。

優秀なイヌは最強の武器となり得る。そしてそれを実行している
国や機関が実際は表に出ていないだけで、あるのではないか?
アメリカとロシアから始まる東西冷戦、共産圏でのソビエトと中国の
関係の変化、ベトナム戦争におけるアメリカ、ロシア、中国介入による
泥沼化…。そうしたきっちりと史実に基づく描写が、このイヌによる
革命=ペレストロイカをより現実的に感じさせてくれるのです。

歴史の足跡はイヌと共にある。そう言っても過言ではない、壮大な
スペクタクル。これはすごい作品に出会ってしまった。
そんなことを思わせてくれる物語です。