ぬこのイラストブックれびゅう

ぬこのイラストブックれびゅう

雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

働くって、生きるって、いろんなことが絡まりあっている

とにかくうちに帰ります 』の

イラストブックレビューです。

 

今ひとつパッとしないフィギュアスケーターを応援するとき、
職場のおじさんが文房具を返してくれないとき、台風が来て
帰路の交通手段がなくなり、会社から歩いて家に帰るとき。強く、切なく
なるほどに家に帰りたい、と思うのだ。

f:id:nukoco:20181203135538j:plain

事務職として働くベテラン女性社員・田上さんは、なんでも気軽に頼んで来る
男性社員に対して、仕上げた書類を渡すタイミングを微妙に変えています。
そんな田上さんのことをすごいなあと眺めているのが後輩の鳥飼早智子です。

鳥飼早智子は、お気に入りの万年筆をなくしてへこんでいました。
貸した文房具がかなりの確率で戻ってこない間宮さんというおじさんの机に
あるのではないかと踏んでいるのですが、確証が持てないので、おじさん本人に
聞けず、モヤモヤして過ごす日々。頼まれた書類を捜索するついでに間宮さんの
机もあれこれ探してみたところ…。

また、ある時はちょっと気になったアルゼンチンのスケート選手を録画で発見した
鳥飼早智子。地味な選手だし、誰も知らないだろうなと思っていたら、事務職の
もうひとりの先輩、浄之内さんが知っていたのです。それもかなり詳しく。
しかし、浄之内さんが目をかけたスポーツ選手などは、大事な試合で負けたり、
チームを干されたり、ケガをして再起不能となったりしてしまうので、なるべく
自分が気になった選手のことは知らせたくなかったの出すが…。

こうした、一見どうでもいいだろ!と突っ込みたくなるようなお話が
続きますが、会社で働いている頃を思い出してとても懐かしくなりました。
ほかの誰かにとって、どうでもいいような出来事が、当事者にとっては
日々に起こっている出来事であり、それなくしては彼らは成り立たないのです。

会社で働く人たちのなんでもない日常。
仕事上でのやりとりやちょっとした衝突。昼休みの世間話。
人の気配がなくなった、いつもと違う様子のオフィス。

毎日の変わらない出来事は、ほんの少し普段と異なったアクシデントや
思いもよらなかった職場の人間の言葉や態度によって、新たな一面を
見せてくれるのです。そして、その新たな一面を自分の中に加えて、
ちょっぴりバージョンアップした自分になって明日を迎える。

家に帰りたいのは、そんな更新情報をじっくりと行うためなのかも
しれません。会社には色々な人がいる。平和な事も多いけど、驚くような
事もたまに起こる。生きていく事も、色んな人と関わり、トラブルや
予想外の出来事が起こるという点では同じでしょう。
働くって、生きるって、色んなものが絡まりあっているんだなあということを
思い出させてくれる連作短編集です。

にほんブログ村 本ブログへ
本・書籍ランキング

妄想好きに朗報!!ニヤニヤしながら引き寄せる!?

ありえない「妄想」でお金も恋も

引き寄せる! 』のイラストブックレビューです。

 

「引き寄せ」って難しい。そう思ったことはありませんか?
心に思っていてもなかなか願いが叶わない。
でも、間違いなく引き寄せることができる方法があります。
それはズバリ「妄想」すること。楽しい世界に浸りながら、
希望する世界を引き寄せる方法を解説します。

f:id:nukoco:20181203135252j:plain

 

読書が好きな方には妄想癖を持つ方が多くいる、と思うのですが
いかがでしょうか。自分も何を隠そう、妄想が大好物な人間です。
学生時代は片思いの人と仲良くなって恋人同士になるとか、
芸能人といい仲になって週刊誌にスッパ抜かれちゃうとか、
漫画家になって、インタビューを受けて雑誌に載るとか、
作家になって吉川英治文学賞を受賞して、お祝いのスピーチを壇上で
しているとか、なんとかかんとか。

そんな妄想好きな自分がアマゾンで発見したこちらの本。
『ありえない「妄想」でお金恋も引き寄せる!』という素晴らしいタイトルに
迷わずポチリ。お金も恋もいいですけど、何より『ありえない「妄想」』と
いう部分に惹かれました。ありえないってどんなの??人のありえない妄想って
すんごく知りたいんですけど!!という、ちょっとずれた目的で購入しました。

内容としては、引き寄せの原理から始まり、妄想がどのように引き寄せに
作用するのか、そして妄想の具体的なやり方を解説しています。

願望が実現した、少し先の世界はすでにある、という考え方。
その世界に自分が近づいて行くというよりは、その世界が自分に近づいて
来る、という事らしい。なるほど、それで「引き寄せ」なんですね。

自分の妄想力を駆使して、その世界をとことん楽しむことで、願望が
自分の方へ近づいて来ると。その妄想の方法とは、五感を使うこと。
いる場所や相手の姿は?匂いは?触れた時の感覚は?相手の声は?
いやあ、これ、好きな相手が自分に向かって喋ったり、触れたりして
くれるところを想像したら、きゃぁぁぁ、デュフフフフ、と身悶えして
転げ回ってしまうかもしれません。あ、自分だけでしょうか。

このキュンとしたり嬉しくなったりする事が大切。幸せを感じる事で
より引き寄せの力が働きやすくなるようです。とはいえ、無理は禁物。
潜在意識に「どうせ無理」という意識を植え付けてしまったら逆効果。
あくまで楽しく、幸せを感じられる状態で妄想すること。

著者の妄想も実例として出ています。恋愛やお金の妄想は、やはり
読んでいるこちらもニヤニヤして、なんだか気分が上向きになるようです。
そして、その語り口がユーモアたっぷり。
妄想しようと思っても、現実は問題ばかり。これをどうしたらいいのか…。

そんな時はまずは願うこと。頭に浮かんだことは叶うのです、と著者は言います。
しかしどうやったら叶うの?どういうふうに叶うの?という問いに
『知らん!』
と一言。叶える手段を考えてくれるのは宇宙なので、自分たちは
叶った世界を想像して幸せを感じること。ただそれだけ、なのですって。

楽しい妄想はそれだけで、心が豊かになりますよね。
子供の頃は、制限なしにいろんなことをあれこれと想像していました。
大人になると、いろんな価値観を身につけて、想像に制限を加えてしまい、
現実になるのは難しい、と考えるのをやめていたように感じます。

今再び、先入観や価値観を取っ払って、自由に、毎日がワクワクして
楽しく暮らしている自分、何者にも、どうにでもなれる自分を妄想して
みてはいかがでしょうか。ニヤニヤしながら、デュフフと浮かれながら
妄想した現実が叶うなんて、こんな素敵な事はないですよね。
妄想好きさんに特にオススメの、引き寄せ方法です。

にほんブログ村 本ブログへ
本・書籍ランキング

埼玉出身なんですけど、これって私の事でしょうか?

ここは退屈迎えに来て 』の

イラストブックレビューです。

 

都会からUターンした30歳、結婚相談所に駆け込む親友同士、
売れ残りの男子としぶしぶ寝る23歳、処女喪失に奔走する
女子高生。ありふれた土地で、ありふれた日常を送り続ける
8人の女の物語。

f:id:nukoco:20181203134932j:plain

道の両サイドに並ぶブックオフ東京靴流通センター洋服の青山
ユニクロしまむら西松屋スタジオアリス、ゲオ、ダイソー
ニトリ、コジマ、ガスト、ドン・キホーテマクドナルド、
パチンコ屋、アピタ、イオン。こういう景色を「ファスト風土」と
呼ぶのだそうです。自分の出身地である埼玉県も、そこかしこが
こんな風景です。田んぼもありますけどね。

この、どこにいっても見られるありふれた景色の中で、これまたありふれた
日常を送る8人の女たちを描いた物語です。
この物語はキーマンとなる男性、椎名が、なんらかの形で女性たちに
関わっています。

かっこよかった高校時代の、憧れの男の子として。
やがて夫となる彼氏として。
初恋の相手。恋人未満の優しい友人。
初体験をやり損ねた相手。兄。

登場人物たちから見た桐生は、ざっとこれだけの対象であるのです。
地元で人気のある、男からも女からもモテモテだった桐生。
彼は、いろんな時代に、いろんな人間と関わって今の桐生が
出来上がっている、という印象です。

そして、主人公たちが抱く思いは、代わり映えのない景色と毎日に
焦りや諦めを感じています。自分は子供の頃から地元に関して愛着は
なく、必ず違う場所で生きていく、と思っていました。地元で結婚して
自分の居場所を築いていく友人たちのことが理解できないなあ、と
若い頃は思っていたのです。

それはきっと、生まれ育った場所で定着された自分のイメージや、思い込みを全て
取っ払って、新しい環境や新しい自分に巡り合いたかったのかもしれません。
ま、どこで暮らそうが、自分がすっかり変わるわけでないのですが。
と、いうことにまだ気づかない世代の女性たちのお話なので、昔の
自分や友人たちとのやりとりを思い出して、なんだかしみじみとして
しまいました。あるある!こんなこと思ってたよ〜!って。

それと、子供の頃、人気者や憧れの存在だった人が、大人になって
出会ってみると、あれ?って感じることはありませんか。
逆に、高校までは地味だったのに、キラキラと輝いて自信に満ちた
大人になっていたり。

人間の優劣は、見た目や勉強、スポーツの出来、コミュ力が全てだった
学生時代。その頃のヒーローやヒロインは、自分が逆立ちしてもなれないもので、
だからこそ強烈に憧れるわけです。そんな彼らが年をとって、地元に戻り、
そこで生きていくことを決意する。彼らにとっては、その輝きがマイルドに
なったからこそ、逆に生きやすくなった部分もあるのかもしれません。

強い刺激はないかもしれないけれど、代わり映えのない日常を受け入れる
うちに、そこが自分のいる場所だと気づいたりする。
地元で暮らす、ということはそんなことなのかもしれないなあと感じます。
この、どこにでもあるような土地に住むというどこか卑屈な感情を抱く状況を
詳細に、そしてちょっぴりユーモアも交えて丁寧に描く物語です。

にほんブログ村 本ブログへ
本・書籍ランキング

絶望の淵で折れた羽を広げる蝶たち

アンチェルの蝶』の

イラストブックレビューです。

 

大阪で小さな居酒屋を経営する藤太のもとへ、かつての同級生、秋雄が
少女ほづみを連れて訪れた。ほづみを託された藤太は、戸惑いながらも
少女と心を通わせていく。ほづみがやってきたことをきっかけに、
25年前の陰惨な記憶、そして哀しい真実が明らかになっていく。

f:id:nukoco:20181203134605j:plain

 

親から継いだ小さな居酒屋を経営する藤太は、アル中寸前の無口で
愛想のない男。そこへ、中学時代の同級生で弁護士をしている秋雄が、
少女を連れて、藤太の店へやってきます。少女は、藤太の初恋の相手、
いづみの娘で10歳。
秋雄は強引にほづみを託し、店から出ていってしまいます。

翌日、秋雄の住むマンションで火災が発生。秋雄は行方不明との
ニュースが入ります。そんな状況から藤太とほづみの生活はスタート
したのです。

ガラの悪い酔っ払いを相手に、愛想のない商売を続けていた藤太には
少女の世話など想像もつきません。自分の不甲斐なさからほづみを
傷つけるような発言をしてしまったり、ギクシャクとした態度を
取っていた藤太。しかし、いづみを思い出させるほづみの明るさ、
前を向こうと頑張る姿に、自然とほづみの力になろうと気持ちが
変化していきます。

2人の生活が軌道に乗ってきた頃、ほづみの本当の父親だと名乗る
人物が現れます。そこから、知らなかった中学から高校にかけての
いづみの様子が明らかになっていきます。

藤太、秋雄、いづみの3人で過ごした小学高学年から中学時代の頃、
彼らはそれぞれに辛い思いをしていました。藤太は、アル中で
ギャンブル好きな父親から暴力を受けていました。
ほかの2人も、父親によって大事なものを傷つけられていました。
彼らが絶望の淵から、脱出しようとして取った行動とは。
そして、そのことで救われたのでしょうか。

ロクでもない親の元に生まれて、ギリギリのところで踏ん張ってきた彼ら。
彼らの親は、火災により命を落としますが、その後の彼らの人生は
どのようなものだったのでしょう。

辛い状況の中でも、一筋の光を放っていたいづみの存在。
その後、彼女がどのような人生を送ってきたのか、どのような思いを
持って生きてきたのかを思うと、とても苦しくなります。

子供は親を選べません。時に、親は子どもに「不幸」という烙印を押します。
自分が生まれてきたのは何のためなのか、生きていることに意味があるのか。
そんな十字架を背負いながら生き続ける彼らが見つけた、一筋の光。
細く、頼りないその一筋目指して、暗い淵から上がろうと、折れた羽を
広げ懸命に羽ばたこうとする彼らの姿に、生きて欲しい、と願わずには
いられないのです。

にほんブログ村 本ブログへ
本・書籍ランキング

日本の小さな島のセンス・オブ・ワンダー

 

『海うそ 』のイラストブックレビューです。

 

昭和の初め、人文地理学の研究者である秋野は、研究のため
南九州の小さな島、遅島へ赴く。かつて修験道の霊山があったその島の、
豊かで変化に富んだ自然と、人々の祈りの痕跡が秋野の心を強く捉える。
50年後、再び遅島を訪れた秋野が見たものは。

f:id:nukoco:20181203134259j:plain

 

秋野が研究の調査として訪れたのは、南九州にある小さな島。
本土とは異なる豊かな自然、鳥や獣たち、そして南国と北九州の文化が
融合したような家屋など、目にするものすべてが、秋野の心を捉えます。
婚約者が自殺し、心に傷を負った秋野は、研究に没頭することで、
答えの出ない問題に目を向けることを避けていたのかもしれません。

島で見られる、珍しい草花。鳥の鳴き声。増え続けている野生のヤギ。
崖の上からこちらをじっと見つめる鹿の黒く濡れた瞳。
少し歩けばじっとりと汗をかく、湿気の多い森の中。

前半は、この島の、鳥や動物たちの鳴き声、海からの風の音、スコールの
ような激しい雨音などが描写され、まさに人が住むための最低限の手しか
入っていない、豊かな自然の様子が描かれています。

中盤から後半にかけては、島の中でも人の手がかかったところが描かれています。
島の中に建つ住居の様式や、取り壊された寺院の後、かつて石切場であった場所。
連綿と続いてきた島の営みの中に現れる人間の足跡が、読む者の心の中にも
ポタリと落ちるインクのように染み込んでいきます。

そして、島の地域の名前や海から突出する岩、沼の名前など、島に古くから
伝わる言い伝えとともに、その名称がこれまでにどのように変化し、現在の
形に至ったか、ということに思索を巡らせます。

島の豊かな自然と、人間の手にはどうにもならない未知の力に畏れを抱く。
島の人々は、島の自然に、神に寄り添い島と共にそこに存在しているのです。
自然に逆らわず、その恵みにあやかり、静かに暮らす彼らは何か尊いもののように
感じられます。

50年後、再び島を訪れた秋野が目にしたものは、再開発のために山を
削られ、コンクリートで固める工事中の、変わり果てた島の姿でした。
秋野は絶望しますが、島の昔の様子を語るうちに落ち着いてきます。
50年前の状態ですら、変化の結果であったことを。そして、島は、
これからも変化し続けるのだということを悟るのです。

自然や人が営んできたものは、確実に今に生きる我々につながっています。
その流れの中の一つとして自分が存在しているのだということを
この物語は教えてくれます。そして、それはどこか懐かしく、恐ろしくもあり、
何故だかとても強く惹きつけられるのです。

にほんブログ村 本ブログへ
本・書籍ランキング

逃れられない血の絆がもたらす女たちの運命

熊金家のひとり娘  』の

イラストブックレビューです。

 

北の小さな島で、祈祷の家系に生まれ育った中学生の熊金一子は、
自身の成長に恐れを感じていた。共に暮らす祖母と、自身の「血」から
逃れるべく島を出た一子。男の子を産めば、この「血」から解放されると
思っていた。しかし一子が産んだのは女の子だった。明生と名付け、
男の子のように育てる一子だったが。

f:id:nukoco:20181203133943j:plain

中学3年生の一子が育ったのは、北にある小さな島です。
その島で住民から「神」と畏れられる、巫女のような存在の祖母と
共に暮らしていました。多感な少女は、性行為について嫌悪感を
示しながらも頭の中から離れないような日々を過ごしていました。
彼女自身に生理が来ると、それまでの自分が解放されたように感じ、
窮屈な子ども時代と島のすべてから離れる決意をします。

こうして島を離れた一子は、職場を転々としながらも結婚して子どもを
授かります。何か悪いことが起こると、バチが当たったのだ、という
強い観念から離れられない一子。幼い頃から祖母の話を聞いてきた一子は
こうした自分を縛る鎖は、女系一家に生まれ育った自分が男の子を産めば
断ち切れると信じていました。しかし、生まれたのは女の子だったのです。

明生と名付けられた娘は、男の子として育てられます。
しかし、一子は二人目の子どもを妊娠したことで、明生に対して女の子として
生きていっていいのだということを伝えます。
男の子に生まれなかったために、自分の存在価値を疑い、悩み苦しむ明生は
中学の修学旅行で失踪事件を起こします。

一方、妹の愛子は産まれた時から女の子として充分に可愛がって育てられます。
しかし、父親の背後に血まみれの男がいつもぶら下がっているのが見えるため
父親が姿を見せると恐怖のあまり号泣するようになります。
祈祷の血は、愛子に強く出たのです。

やがて、母親である一子が行方不明になり、姉妹は父親のもとで数年暮らしたあと、
家を出てバラバラに暮らします。

女系の祈祷一家という家に生まれて、閉鎖的な環境で育った一子。
男の子に生まれなかったために、自分の存在価値を見いだせない明生。
母に出ていかれてから、流されるままに生きて行く愛子。

それぞれが、母の陰に怯え、そして強く求めています。
母がいなくなったのは、自分のせいなのか。そして、母の悪い部分は
自分の血の中に流れているのだろうか。母を思う気持ちは、彼女らを
鎖のように縛り、やがて思考も行動も停止させてしまうのです。

子どもにとっての母親というのは、肉体や精神の一部を担うほど
大きな存在なのだということが理解できます。
中途半端に関係を断絶すればするほど、その一部は濃く淀み、頑丈な
鎖となって子どもを縛り続けるのかもしれません。

一子は出ていった後、娘たちに向けて手紙を書いていました。
それは自身の過去と娘たちに対する詫び、そして娘たちを気にかける内容
でした。明生と愛子はこの手紙を読んで、何を思ったのでしょうか。
自身のこれまでの人生をよくぞメチャメチャにしてくれたな!と
思うのでしょうか。案外、二人は、
「なんだ、幸せだったんじゃん。良かったよね。」と微笑み合って
いるのではないかな。

強く重い鎖なのだけど、やはりそれは温かく、解放され難いもの。
母親の愛情ってそんなものなのかもしれません。

にほんブログ村 本ブログへ
本・書籍ランキング

話題のエッセイストが偉人伝から学んだこと

すべて忘れて生きていく 』の

イラストブックレビューです。

 

小さい頃から親に「早くしなさい」と言われ続けてきた著者が
見つけた真実とは。日常に潜む出来事を、ユーモアたっぷりに描いた
エッセイのほか、一見真面目なようでいて、やはり著者の視点が
反映されている書評集、奇妙な味わいの短編小説二編を収録。

f:id:nukoco:20181203133631j:plain

著者の北大路公子という人はなんというか、ちびまる子ちゃん
そのまま大人になったような雰囲気を漂わせています。
それじゃダメだろ!とツッコミをいれたくなる行動や妄想は、我々世俗に
まみれる人間たちを「きちんとやらねば」といった強迫的思い込みから
解放してくれるのです。人が不快と思わない、絶妙なラインは著者の
筆力と笑いのセンスゆえでしょうか。

冒頭の、親に「早くしなさい」と言われていた公子少女は、親に「ぼんやりさん」
と呼ばれていたことが不本意だと言います。学校へ行く前に、前日に読んだ本の
続きを布団の中で読んだり、着替えの途中で椅子に座ってグルグルまわったりして
いたけれども、次に取る行動を考えながらそんな寄り道をしていたので、すぐに行動する
人間よりも、やるべきことについて長い時間考えていたのだと。
だから決してぼんやりなんかしていないのだ!と。えええ・・・。

人からぼんやり見えるとしても、気にすることが頭にあったらリラックスすること
はできない。だから着替えの途中で椅子をグルグル回しながら、靴下履かなくちゃ、
などと考えなくてもいい。靴下を履かなくても死にはしないのだ、と心に
置くことが大切です、と言います。正論なんですが、テーマといい、展開といい、
どうもふざけてる感が否めない(笑)。
小学生が、屁理屈こねて大人に文句を言っているみたいな面白さがあります。

そして著者が子供の頃に好んで読んでいたという偉人伝。
こんなにも頑張っている人がいるのだということに気がついた著者。
素晴らしいことに気づいたね、と読み進めてみれば「だから私は頑張らなくていい」
という結論になった…ってオイ!何でやねん!

と、こんな調子で書評も手掛けています。
こちらは本の内容を自身の出来事と絡めて綴っており、もちろん笑えるものもありますが
まじめに綺麗にまとめているものもあります。爆笑エッセイ専門かと思いきや
さすが作家、短いページの中に世界をぎゅっと詰め込んでいて、ヘェ〜と
新鮮な驚きに包まれます。

この著者の物語小説を読んでみたいなあと思っていたところ、巻末に
二編の短編小説が。子どもの頃に、大人から聞かされた怖い話から
想像を巡らせた事が、大人になってから現実となって起ってしまった
ような、不思議で奇妙な余韻を残す物語です。

おビールと相撲とぐうたらが大好きで、子どもの心を失わずに持った
ピュアでユーモアたっぷりの北大路公子。ユーモアたっぷりのエッセイから
深い余韻を残す、現実と幻想が混じったような世界観を描いた短編小説まで
著者の幅広い魅力をたっぷりと堪能できる作品集です。

にほんブログ村 本ブログへ
本・書籍ランキング