ぬこのイラストブックれびゅう

ぬこのイラストブックれびゅう

雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

下町で繰り広げられる男たちの熱いドラマ

下町ロケット』の

イラストブックレビューです。

下町ロケット (小学館文庫)

下町ロケット (小学館文庫)

 

 研究者への道をあきらめ、家業の町工場継いだ佃航平。
とあるトラブルから資金繰りに窮する事態に。
そこへ巨大産業が、工場で開発されたある部品の特許売却を持ちかけてきます。
しかこの部品には佃の夢が詰まっていたのです。

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ロケットエンジン開発という夢に敗れ、家業をそれなりにまわしていた航平は、商売仇の
大手メーカーから理不尽な特許侵害で訴えられてしまいます。
明らかな言いがかりですが、特許申請内容の不備な部分を上手に突いています。
かたや大手メーカー、こちとら下町の小さな町工場とあっては、
大人が小学生を捻り潰すようなもの。

その法廷でのやり方も歯ぎしりしてしまうほどイラっとします。
大手メーカーは、ジリジリと時間をかけて、町工場の資金が尽きるのを待つ作戦に出るのです。
しかし、佃は逆に別の特許から大手メーカーを特許侵害で訴えます。
結果が出るまでに町工場の体力が続くかどうか…。ハラハラします。

そしてまさかの大逆転!工場存続の危機から脱出したうえに、名誉も
取り戻します。
池井戸ワールドはわかりやすく勧善懲悪。
登場人物がそれぞれに自分のルールに従って、追い詰められながらも全力で
生きているから、ぶつかり合いも激しい。
それがまた、おもしろいのです!

下町でロケット〜?可能なのかな?手とこの本を手にした当初は思いましたが
エンジンの部品についての説明や、工場で働く従業員たちの熱い思い、
そして他企業が欲しがるその内容の素晴らしさに、否定しようのない
説得力を生み出すのです。

社長である佃はまっすぐ誠実に部品を研究開発し、工場の運営に取り組んでいます。
途中、特許の売却など、工場継続のために魅力的な提案がなされますが
首を縦に振りません。譲れない根っこの部分がハッキリとしているのです。
それを従業員たちと共有できた事で、事態は良い方向へと進んでいきます。

登場人物達とと共に悔しがり、悩み、そして歓喜の声を上げる。
そんな風に、池井戸ワールドへ連れていかれるのが心地良い、そんな作品です。

 

 

世界で3000万部売れるには理由がある

まんがでわかる 7つの習慣』の

イラストブックレビューです。

 

まんがでわかる 7つの習慣

まんがでわかる 7つの習慣

 

 スティーブンRコヴィーの7つの習慣を、漫画でわかりやすく解説。

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父親が残したバーを継ごうと、あるバーで修行をはじめた歩。
そこに訪れる客とのやりとりや、バーのマスターからの教えによって、
様々な気づきが歩に訪れます。

あらゆる自己啓発書の要素がぎゅっとわかりやすく詰まったのが
この7つの習慣であると思います。
じっくり読むとちょっと難しい本書を、マンガでやさしく、わかりやすく
紹介しています。

バーに訪れる客の嫌な態度に腹をたてる歩。しかし、そんな歩に
マスターは君に問題がある、ときつい言葉を投げかけます。
ここから導かれるのは1つ目の習慣、主体的である事。
客である相手の状況を理解できず、自分勝手にサービスを押し付け、
拒否されたことに対して怒るのは、接客スキルの不足によるもの。

環境や相手のせいにしていては、自分で解決することを拒否しているのと
同様です。
問題は常に自分の中にある。そんな姿勢で物事に取り組めば、トラブルが
発生しても状況にとらわれることなく、最適な解決方法を見つける事が
できるのだと本書は言います。

作中では様々な登場人物たちが、問題を抱え、7つの習慣に基づいて
解決の道を歩んでいきます。
その問題も、会社員として働いていた自分としてはあるある!という
事例がたくさんあり、共感しまくりです。

これらの習慣は日々の行動を振り返り、考えるのに有効です。
自己を自立し、他者を理解し、他者と共振して成功を手に入れる。
こうした事を具体的な言葉で、7つの習慣として提示しています。

夢に向かって猪突猛進自己啓発書も良いですが、こちらは周囲を見渡し
自分の足元も確認する、とてもバランスの良い内容です。
ちょこちょこと手にとって、少しずつでもこれらの習慣が身につくように
心がけたいです。

そうした意味でも、マンガなのは手軽でいいですね。絵もキレイですし
トラブルは必ず解決の方向に向かうので、見ていて良い気分になれます。
まずは手軽に『7つの習慣』を読んでみたい、と思う方にはオススメです。

もう誰にも止められない!世紀のビッグカップル 恋の行方は

ダーリンは71歳』の

イラストブックレビューです。

 

ダーリンは71歳 (コミックス単行本)

ダーリンは71歳 (コミックス単行本)

 

 ダーリンは70歳に続く第2弾。
71歳になった高須院長と、51歳になった西原理恵子の2人の
ブッとんだ日常ぶりを綴る。

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さすがサイバラ氏。と唸ってしまうバカップル漫画です。
カップルの性生活など、赤裸々な表現が飛び出してきますが
ネタなのかな。ネタなんだよねきっと。うん。
そう、今回も下ネタ満載でお送りしております。嫌いじゃないです。

今回は高須院長が尿もれとか、股間が穂先メンマやわらぎとかさんざんな
描かれよう…。それでも面白い作品を書くからって許してくれるなんて、
懐が深い彼氏だなぁと感心しきり。

サイバラ氏は、高須院長とのデートで飛行機のファーストクラスを利用したり、
高須院長定宿のニューオータニで、高級ルームサービス頼んだりして
いるんだけど、残ったホテルの食事をビニールに入れて持ち帰ったり、
ファーストクラスで出たパンを山ほど持ち帰ったりと、金持ちに感化される
事がないのですね。根が貧乏性というか。いつものサイバラ氏を感じて安心しますけども。

それから、お二人交際が週刊誌の記事に掲載されたいきさつが書かれています。
その時の二人の対応が大物過ぎて笑える。
この記事が出た時、これこそネタだろうと思っておりました。
それで、ダーリンは70歳が出版された時、やっぱりネタだったんだ!と
確信して、最近ではサイバラ氏は生きている事が全てネタなんだなと
再確認した次第です。本当にたくましいというか何というか。すごい人だ。

やっている事は、二人とも相変わらずメチャクチャですが、
しっかりと恋愛してます。高齢な彼氏なので少々介護っぽい要素も入りますが(笑)。
互いに、相変わらず相手の生きてきた歴史を認めて、まるごとやさしく包んでいるように思います。

長年友人だった二人がなぜ男女関係になったのか。
その辺の事が知りたいなあ。でもサイバラ氏の子供たちもまだ多感な年頃だから
まだ明らかにしないのかな?
そして、この近刊2冊も子供達も読むのかな?と考えるとちと心配にはなりますが。
進化する20歳年の差カップルに今後も注目ですね。

何度でも巡り合う、運命の人

ぼくは明日、昨日のきみとデートする』の

イラストブックレビューです。

ぼくは明日、昨日のきみとデートする (宝島社文庫)

ぼくは明日、昨日のきみとデートする (宝島社文庫)

 

 美大姓の僕は、電車で見かけた美少女に、意を決して告白。
思いがけずOKをもらって、その日から付き合うことに。

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まずは、この主人公の青年、地味な感じがいいですね。好みです。
ごく普通の、美大に通う静かな青年で、女性慣れしていない。
そこへ現れたのは、とびきりの美少女です。
知り合いでもない女性に声をかけるなんて、と自分でもびっくりするくらいの
衝動に突き動かされた、というのが運命的な何かを感じさせます。

ネタバレですが、2人は時が逆に進行する世界に生きています。
大学生として出会っているこの瞬間は、2人が同世代で生きていることが
できる、貴重な時間なのです。
ここを境にして、青年は歳ををとっていき、女性は若くなっていくのです。

ここのあたりの経過は、ミステリのようにも楽しめます。
あの時、ああいう態度をとっていたのはこういうことだったのか!と。

この謎が解明するのは中盤あたりですが、そこからが切ない。
男性側は、2人の関係が近づくにつれ、もちろん思い出を共有し親密さが
深まっている、と思っているのですが、女性は違います。
今日の思い出は記憶に残らず、どんどんはじめて出会う状況に戻っていくのです。

そんな状況なのに、なぜ彼女は付き合う事にしたのか?
そのためにどんな努力をしていたのか?
そして、その秘密を知った後の2人の関係は?
そんな事を考えながら、再度読み返してみるとまた新しい面白さを発見できます。

純粋な恋愛小説として楽しめる作品だと思いますが
個人的には、違う時の流れの中で、ほんの偶然から出会った二人が
時を超えて、場所を変えてちょっとずつ同じ世界を生きる、ということが
ドラマチックでとても面白いな、と思いました。

本人たちはタイムワープしていないけれど、『時をかける少女』を
連想させるような。恋愛小説はあまり…という方でも、こうした構成と仕掛けの
面でも楽しめる作品だと思います。

 

 

ミライを生きる君たちへ

ミライの授業』の

イラストブックレビューです。

 

ミライの授業

ミライの授業

 

 

京都大学客員准教授の著者が、中学生に向けて提言したミライの作り方。
なぜ勉強をするのか、といった問いかけからはじまり、未来を作る5つの法則を、過去の
偉人が達成した事柄と交えてわかりやすく解説します。

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14歳の君が生きるこの世界は、親の世代が子供の頃に夢にも思わなかった未来だと
著者は言っています。
確かに、40代の自分が小学生の頃は、黒電話でダイヤル式(プッシュホンもあったけど)、
テレビはブラウン管…。
それが手のひらサイズで持ち運べる電話になり、その中にテレビやゲーム、
辞書に百科事典、世界中の情報が入っているわけです。
そんな未来は全く想像していませんでした。改めて考えるとびっくりです。

世界を変える旅は『違和感』から始まる
冒険には『地図』が必要だ
1行の『ルール』が世界を変える

など、5つの法則を偉人の業績をからめて解説しています。
有名なフォードやコペルニクスなどが登場しますが、日本国憲法の草案づくりや、
日本とアメリカの通訳として活躍したベアテ・シロタ・ゴードンなど、はじめて
聞く名前もありました。

通常の偉人伝と違うところは、彼ら、彼女らが偉業を成し遂げた理由 をわかりやすく
解説している部分。たまたま発見したのではなく、とことん調査する事。
先入観にとらわれる事なく、客観的に結果を分析すること。
思い込みだけではだめで、聞く人が納得できる材料を用意すること。
より遠くに行くには、優れたチームが必要であること。

これは14歳に向けた自己啓発書です。
過去の偉人の行動から、決して彼らが特別な人物だからできたわけでは
なく、達成したのにはそれなりの理由があったことを理解する。
そして、先入観にとらわれない新しい発想と、その発想を納得してもらうだけの
説得力あるデータ、不足する経験値を補う仲間を見つける。
そのようにして新しい未来を作っていって欲しいのです。

もちろんかつて14歳だった人たち(自分も含む)にも有効です。
50歳にして第2の人生を歩き始めた伊能忠敬や、60歳を過ぎて世界闘争の
最前線に足を踏み入れた緒方貞子などの例もあります。
自分が変革者になれるかどうかは、自分が決意した瞬間に決まるのです。

…でもやっぱり、10代の人に読んでもらうのがいいかな。
大人はこれを読んで、10代に薦めるのが適しているかなと思いました。

育休後復帰予定のお母さん、ぜひ「旦那さん」に読んでもらおう

働きママン1年生 お迎え18時を死守せよ!』の

イラストブックレビューです。

 

 育児休暇を終え、職場復帰したママさんたちの奮闘ぶりを綴った
コミックエッセイ。

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これから職場復帰予定のママさん。
一体どうなるのかしら?と不安を抱えていることと思います。
こちらのコミックエッセイには、だいたいひととおりの困った
状況が綴られているのでないかと思います。

保育園の入園、子供の送り迎え、職場への復帰。
仕事が立て込んでいる時に限って子供が熱を出す、子供を充分に
面倒を見れない、家事も仕事も中途半端でストレスMAX状態。

まさにあるある〜。自分も毎年この冬の季節はヒヤヒヤしてましたもの。
風邪ひくと家族にリレー方式でうつっていくからとにかく熱は出さないように!
あったかくして!予防接種して!とイロイロ気を使ったものです。

ヒロインママさんたちは働くママンなんです。
だから解決方法も前向きに検討。仕事上のトラブルと一緒です。
家庭内でうまくいっていない部分がある。原因を探る。対策を講じる。
家庭運営プロジェクトなんです。これもよくわかる。

自分もそうですが、夫という共同経営者と担当を割り振りしないととても
やっていけませんでした。1人で何とかこなせる、また頑張っちゃうママさんは
要注意ですよ。本人が気がつかない間に相当なストレスがたまって修復できなく
なるところまでいってしまうこともあるかも…

この本を読んで『子育てしながら働いているとこういうこともあるんだな』と
事前に分かっていれば心強いですね。まあ、トラブルは起こらなかったらそれはそれで
いいことなのですが。

ママさんもそうですが、特にパパさんに読んでいただきたい。
子供はホントによく熱を出します。毎回ママさんが会社を休むのですか?
残業するのはパパさんだけ?ママさんは職場で困った立場になっていないかな?
産前に仕事で活躍していた方ほど、思い通りにならずに歯がゆい思いを
される事が多くあると思います。

会社を休んで子供の面倒を見れなくても、家事の手伝いや、休日は子供の面倒を
長く見るなど、ママさんをサポートする方法はいくらでもあります。
子供が小さい頃のそうしたママさんへの協力って、ずっと覚えているものです。
縁があって産まれた家族プロジェクト、順調に一つ一つ達成していきたいものですね。
そのためのテキストとして適した一冊です。

傷つき、裏切られた果てに待ち受ける運命

月の影 影の海』の

イラストブックレビューです。

月の影 影の海〈上〉―十二国記 (新潮文庫)

月の影 影の海〈上〉―十二国記 (新潮文庫)

 

 

月の影 影の海〈下〉―十二国記 (新潮文庫)

月の影 影の海〈下〉―十二国記 (新潮文庫)

 

 女子高校生陽子のもとに、ケイキと名乗る男性が現れ、陽子の足元に
跪く。そして陽子は異世界へと連れ去られる。
気がつくとたった一人で異世界を彷徨う陽子に、次から次へと妖魔たちが
襲いかかってくるのだった。

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十二国記』の本編となる衝撃の第一作。

プロローグとなる前作『魔性の子』では、この十二国記の世界観はチラッとしか出てきませんでしたが、
本作で十二国の全体像が明らかとなります。

わけもわからず、この世界に連れて来られた陽子。捕らえられ、連れていかれる
途中に、異形の獣に襲われます。持っている刀で次々と切り倒していく陽子。
それは自分の意思ではなく、彼女に憑依している妖魔が、彼女の手足を動かしているのです。

初めて見る世界、恐ろしい獣たち、元の姿と異なってしまった自分…。
必死に生き延びる陽子に、幻影が囁きます。『自分で命を絶ったら楽じゃん』。
そして、もとにいた世界を陽子に見せつけるのです。

傷ついた陽子を助けてくれた人もいました。しかし、裏切られました。
心も体ももう限界!というところまであちこちやられてしまうのです。
読んでいる方もつらい。ダメージ受けてるんだから今は襲わないで!!
と心の中で叫んでしまいました。

それでも、自分がここにいる意味を理解せずに犬死にはしない!と必死に
生きていきます。何回か助けてくれる人が現れます。
でも、信じているわけではない、利用するところは利用すればいいのだ、
と逞しく成長した部分を見せる一方で、そんな自分に嫌気がさすという、
純粋な部分も持ち合わせているのです。

裏切りは相手がした事。裏切られたって、自分が変わるわけじゃない。
この一言に、陽子の強さと清廉さが強く伝わってきます。

陽子に待ち受ける運命は、決して穏やかなものじゃありません。
でも、彼女の自分の弱さを認めた強さがあれば、その先は決して悪くならないのだと
思います。

一人の人間が異世界に放り込まれ、傷つきながら成長をしていく物語です。
と、一言で片付けるにはもったいないほど、世界観がとても魅力的ですし
その世界ホントにあるんじゃないの?と思ってしまうほどの、細部まで
リアリティに溢れる描写で、ホントに途中でやめることができずに一気読み間違いなしです。
時間があるときに読むことをオススメします。