ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

世界最大のアヘン産地でアヘンを育てて吸ってみた

アヘン王国潜入記 』のイラストブックレビューです。

ミャンマーの北部に位置し、反政府ゲリラの支配区であるワ州。
アヘンの生産で生活が成り立っていて、常に政治的緊張感のあるこの地域に、
1995年、単身で乗り込んだ著者のルポルタージュ
芥子の種まきから採取までの7ヶ月間、現地で過ごした様子や実際にアヘンを
使った体験など、衝撃の事実を綴る。

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 少数民族が多数存在し、統治するのが困難とされるミャンマー
そのミャンマーの中でも中国との国境付近にあるワ州は、麻薬の「黄金の三角地帯」と
言われるエリアの一角に存在すします。平地が少なく、自分たちの食料を作る事すら
簡単ではない環境に住む彼らが手がけるのはアヘン。アヘンで得た利益を軍事費などに
投じているといわれています。

著者は学生時代に探検部に所属していたこともあり、誰も足を踏み入れたことの
ないような場所に行きたいと思い、この地を選んだようです。
そして、政治的なやりとりなどを中心とした上から目線のルポルタージュでは
なく、実際にアヘン原料である芥子の種まきから採取まで、現地の人と
生活を共にしながら作業を手伝い、そして芥子を育てている人々がどのような
暮らしをしているのか、同じ目線で見、感じたいと思ったのでした。

現在は国に反するゲリラ軍であり、かつては首狩り族であったというワ人。
血の気の多い、荒っぽい民族なのかと思いきや、礼儀正しくて物静かな
人たちだそうです。現地の人たちに入り込んで、芥子を育てる作業を手伝い、
途中マラリアにかかったり、ダニの襲撃に遭ったりと様々なトラブルに
見舞われながらも、住民からの信用を得て行きます。

著者は原因不明の体調不良に陥った時に、アヘンを吸わせてもらいました。
すると、不調感が無くなり、とても気分が良くなりました。モルヒネ
加工されれば薬なわけですから、正しい使い方と言えるかもしれません。
しかし、さすがは麻薬。その効果が抜けると途端にもとの不調に逆戻り。
本来は、麻薬の効果が効いているうちにじっくり体を休ませることで
回復につながっていくのですが、アヘンで体調が良くなった気がしてしまった
著者はそこからまた作業をしたり、近所のお宅へ飲みにいったりしていたので
全然具合が良くならない。で、またアヘンを吸う。完全に中毒です。

アヘンの収穫を手伝うと、収穫できた量の3分の1をもらえるそうです。
それを貯めていくと結構な量となり、売ればお金にもなるのですが
どうやって売ればいいんだ?って話です。おまけに著者は、体調が
良くなってからはアヘンを吸う量が増えたので、この手持ちのアヘンが
徐々に減っていくことになります。リアルなアヘン体験記です。

頭の隅では「いかん、もうやめよう」と思っているのに、目の前に
あるとつい手を出してしまう。制御不能になっていく、そして禁断症状などが
詳細に語られ、やはり手を出すものではないな、と思います。
ちなみに著者はこのワ州を出ると同時にアヘンの摂取を止めたので、
二、三週間の禁断症状ののち、すっぱりと手を切ることができたようです。

山の奥の、政府の介入の手が届かない、少数民族の素朴な人々。
学校も、病院もなく、特定の宗教もない。裸足で歩き回り、祝い事があれば
豚を絞めて皆に振る舞う。酒を酌み交わす。
世界の経済や社会から隔絶されたような、静かなこのワ州では、世界の一部が
強く求める白い花=アヘンを作っています。

高価格で取引される麻薬ですが、この集落は豊かさとは無縁です。
この集落に生き、この集落で死ぬ、という人たちです。
それはひと昔前の古き良きアジアの国を見るようなあたたかな気持ちにさせてくれますが、
一方で政府との対立という現代社会の暗い部分を併せ持つという、不思議な状況です。
麻薬を生産していてもこの集落ではほとんど吸う人がいないこと。
集落の人々はもうけていないこと。いろいろな歪みも見えてきます。

現代社会において麻薬は悪であり、存在してはならないもの。
しかし、実際にその麻薬を育てる人々がいる。その「善悪の彼岸」に
足を踏み入れた著者が見てきた真実をありのままに語ったルポルタージュです。

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