ぬこのイラストブックれびゅう

ぬこのイラストブックれびゅう

雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

旅が天職の人もいるんですね

読書人が集う『シミルボン』にて、インタビュー記事掲載!

https://shimirubon.jp/columns/1691046 

 

旅屋おかえり 』の

イラストブックレビューです。

 

売れないアラサータレント『おかえり』こと丘えりか。
ひょんなことからはじめた『旅代行業』は、依頼人や出会った人達を
笑顔に変えていく。

 

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崖っぷちタレントの丘えりか。アイドルとしてデビューし、年齢とともに
仕事が減少。唯一持っていた旅番組も、スポンサーの敵対するメーカーの
商品を言ったの言わないので揉めたあげく、スポンサーが降りて、番組が
終了してしまう事に。もう脱ぐしかないのか…と絶望的な気分のおかえりに
舞い込んできたのは、娘の代わりに旅へ行って欲しい、というある女性からの
依頼だったのです。

北海道の田舎出身で、素朴で親しみやすい雰囲気を持つおかえりは、
さまざまな観光地を訪れ、名物に舌鼓を打ち、地元の人とふれあいます。
テレ東あたりの旅番組に、むかーしアイドルだったタレントさんがレポする
番組のイメージでしょうか。所属している事務所も小さく、タレントは
おかえり1人。あとは社長と事務員1人の計3人。たった1つの仕事がなくなって
しまってタレント生命に加えて事務所存続の危機となり、まさに崖っぷちです。

そこへ舞い込んできたのは、病気で体の自由が効かない娘の代わりに、旅へ
行ってきてほしいという依頼。たったひとりでカメラを持ち、リクエストである
桜咲く角館へと赴いたおかえりを迎えたのは、大粒の雨。
番組放送中は一度も雨に見舞われなかった、超晴れ女のはすが、こんな時に
限って…。そして山奥の温泉に入れば、桜咲く時期のはずなのになんと雪が!!

…とトラブル続き。しかし、おかえりの、ちょっとドジだけど天真爛漫な
明るさと多少の事ではメゲないタフさに、登場人物達が彼女に
対して救いの手を差し伸べてくれます。
その救い方加減も、旅人に対する距離感で、やり過ぎす、少な過ぎずで
絶妙です。こうしたコミュニケーション術は、観光地ならではのところが
あるのかもしれません。おかえりの、タレントとしての人なつこさと
比較すると、またおもしろいかもしれません。

旅の代行は、ただ依頼人が希望する場所に行くだけでは留まりません。
依頼人が本当に希望するものを理解し、それ以上のものを届けるのがおかえりです。
旅で得た経験や感情は自分のもの。それを他人に代行してもらっても得るものは
ないのかもしれません。それでも、おかえりが人に届けたいと思う旅先の風景、人々、
そして依頼人本人ですら気づいていないものを掴み取り、映し出し、そして
届けるのです。

旅という、ほんのわずかな時間をその地で過ごすこと。
だからこそ、その土地のあたたかさや、 宝物のような時間を持つことができる。
自分で感じるだけなく、依頼人に適した形でそれを届けることができる。
まさに旅が天職。そんな言葉がぴったりくる、感動的でいつまでも心に
残しておきたくなるような、そんな物語です。