ぬこのイラストブックれびゅう

ぬこのイラストブックれびゅう

雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

知識と語学と行動力でその食欲を満たすグルメエッセイ

旅行者の朝食  』の

イラストブックレビューです。

 

古今東西、おもにロシアのヘンテコな食べ物の薀蓄を傾ける
グルメエッセイ集。生きるために食べるのではなく、食べる
ためにこそ生きるをモットーに美味珍味を探索する。

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幼少期をロシアで過ごし、ロシア語同時通訳の第一人者
でもある著者が、ロシアやそのほかの国の変わった食べ物に
ついて調査し、たっぷりのユーモアで綴ります。

ロシア人が好む小咄。なぜか『旅行者の食卓』というフレーズが
出ると爆笑する彼らの謎が、長い間解決できずにいたところ、
それはどうやら同じ名前の缶詰が原因であることがわかり
ました。

そうして出張時にスーパーで探して求めた缶詰のお味は…
まずい!
というか、加工食品だって美味しいものばかりな日本のものを
食べ続けている自分にとっては、絶対手を出さないであろうと
いう代物です。それをすかさず求める米原さんの好奇心の
強さには感服します。現地のロシアの人ですらマズすぎてネタに
しているくらいだというのに。
味は今ひとつでもネタ的には美味しいですね。

また、ある時は高級食品キャビアについても触れています。
環境の変化により、チョウザメの数が減り、もちろんその卵である
キャビアも希少なものとなっています。一度卵を産んだら死んで
しまう他のサメと異なり、チョウザメは何度も卵を産めるという特徴を
持っているそう。そこで、腹を割き、卵を取り、腹を繋ぎ合わせて
海に戻してやれば、また卵を産むようになれる。

そこで魚の腹に取り付けられるファスナーをつけたというのが
画期的。そのファスナーは日本のかの有名なメーカーが
てがけていると。すごい話だなあ、なんて思っていたら最後に、
『っていうのは嘘』と一言。
往年のコントじゃないけどズコーっなってしまいました。
しかし、まことしやかに語られる異文化の世界ですから、
気持ち良く騙されてしまい、アハハと笑ってしまいました。
これもセンスあるユーモアゆえでしょうね。

そして、米原さんが長年にわたって探し回ることとなる
『ハルヴァ』なるお菓子。少女時代に食べて以来、同じ名前の
お菓子を何度か食べてもどうも違う。いろんな人にそのお菓子の
名前から形状、味などを語っていたところ、友人が買ってきて
くれたものが非常に近い味。
数十年かけて求めたこれぞという味わいがたったの二度!

しかもこのハルヴァというお菓子は、ヨーロッパから
中東など、少しづつ形状を変えながら広いエリアで作られている
お菓子だということが判明。形状が変化しながらも長く作られ、
食べ続けられているということは、やはり作るにも食べるにも
価値あるお菓子なのでしょう。お菓子の壮大な広がり具合には
ロマンを感じます。

米原さんの食べ物に関する好奇心、情熱には驚かされます。
そして、調査し、腹に入れ、文字に起こしていけるのは、その
食物のある国、文化、作られた背景に敬意を持っているから
なのでしょう。
それと並行して、日本食への強い愛情もひしひしと感じます。
長らく異国の地で過ごした米原さんだからこそ、強く持っている
部分なのだと思います。

インターネットであらゆることがすぐにわかる時代。
米原さんも、場合によってはインターネットから情報を得ることも
あります。しかしながら、この本は昭和の時代の、図鑑や図書館の
本から目に入る外国の、少しくすんだ色合いを頭に浮かべ
ながら、こんな食べ物なのか、風味や歯ごたえはこんな感じ
かな…と想像しながら読むような、ワクワクする読書時間を
提供してくれる、楽しいグルメエッセイです。