ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

漂う男の感性を見事に描いた恋愛小説

夏の情婦』の

イラストブックレビューです。

夏の情婦 (小学館文庫)

夏の情婦 (小学館文庫)

 

 

たやすく手に入れた女も仕事も、夏とともに通り過ぎていった。
一瞬の情熱、乾いたきらめきを描いた表題作のほか、透明で
軽快な青春小説集。

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大学を出てから定職に就けない二十六歳の「ぼく」は、学習塾の
講師という仕事を手に入れた。夏休みの間、午前中に子供たちの
勉強を見た後、太った女のもとへ行き、女を抱く。
ある日、女から別れを告げられた。

将来のビジョンなんて思いもつかず、今という時をさまよって
生きているような「ぼく」。親に悪いなあと思い、何となく新聞の
求人欄にあった塾講師に申し込み、面接の男と二言三言交わした
だけで採用。何ともお手軽に仕事をゲットします。

当の学習塾も、夫が定年後お店を経営していて、子どもも独立して
家にいないし、金と場所があるからやってみようかな、とユルイ
雰囲気で立ち上げた、老いた主婦が経営者。
そんな風にはじめた塾講師だから、教え方もユルイ。
でも、放り出す訳ではないし、子どもの質問にはたまにふざけたりも
するけれども、きちんと答えもする。

根っからどうしようもないわけではないのだけども、自分の向かう先も
付き合う女も決めたくない。責任を持ちたくないのか、型にはめられたくないのか。
役割が決定することによって生じる全ての物を面倒に感じているような様子。
それでも読んでいて腹が立たないのは、主人公の心のそこに深い諦めと
虚しさがあるからでしょうか。

やってることはゲスいのですが、そうした感情と若さのきらめきが絶妙なバランスで
描かれているのです。生き方の定まらない若い男性の心情を、
小道具などのモチーフや、季節、情景のシーンで炙り出していく、
見事な恋愛小説です。