ぬこのイラストブックれびゅう

雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

シニカルでまっすぐすぎる女探偵

依頼人は死んだ 』の

イラストブックレビューです。

依頼人は死んだ (文春文庫)

依頼人は死んだ (文春文庫)

 

決して手加減をしない女探偵、羽村晶に持ち込まれる
事件たちは、切なくもあり、怖くもある。
死神に魅入られた女探偵の活躍が見事な連作短編集。

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念願の詩集を出版し、順風満帆だった婚約者の突然の
自殺に苦しむ、相場みのり。
検診を受けていないのに、送られてきたガンの通知に当惑する
佐藤まどかの死は自殺なのか、それとも他殺なのか。
妻を殺した元同僚が、自殺した原因は何なのか。

羽村の環境が大変すぎます。
まずはストーカーまがいの姉に、行く先々であらゆる邪魔を
されていたのですが、この姉が自殺したのです。しかも、彼女が自殺
する前に、羽村自身が二度もその姉に殺されかけているのです。
こういった状況から、定職に就くこともできず、財を成すと
途端にこの姉に持っていかれるため、貯金すらろくに持てないという
環境にいます。

そして、羽村の用心深さ、人を信用し過ぎず、ドライでシニカルな
目線を持ち続けているのは、こういった状況で育まれたものなのでしょう。
そのシニカルなセンスは、腹わたが煮えくり返るようなシーンでも
ウィットが効いていて、思わすクスリとしまいます。

高飛車な態度で高圧的な発言を繰り出す相手に対し、

つまらない冗談を言う男に限って、受けないと冗談にではなく
相手の性格にあると決めつけるのはなぜだろう。

と考える一文には思わず吹きました。いるなあ、こんなヤツ。
また、調査対象として、自殺した女性の元夫の話を聞くために、
元夫の勤務先である大蔵省に電話したが切られてしまいます。
しかし四度目の電話で会う事を承知してくれた相手に対し、

さすがに国家の将来を担う人材だけあって、変わり身が早い。

とこの一文。強烈に皮肉ってます。そのクールさがまた素敵です。
そんな風に、世の中を斜めに見ているような印象を受ける羽村ですが
自殺の動機の依頼となると執念深く調べています。姉の自殺の原因なんか
調べても分かるわけがない、と思いながらも、どこかで何か理由が
あったはずなのだ、と思う心が、他者の自殺の動機をとことん
調べさせるのでしょう。そんな羽村のまっすぐすぎる心が悪魔を呼び込んでしまいます。

羊たち沈黙に登場した殺人犯、レクターのように人の心を操る術を
得ているかのような男。最初の依頼人を死に追いやったこの男は
羽村の知り合いたちを次々とコントロールし、羽村すらもコントロール
されそうになります。その男の要求は自分の自殺の理由を明らかに
すること。

自分のせいで人が傷ついたり命を失ったりすることが許せない
羽村。自分の信念は曲げません。ですから、この男が目の前で
死ぬ事も許さないのです。そのまっすぐさが、事件の真実をどこまでも
追い求める行動力や思考力につながっていくのでしょう。

人が生き、死ぬ真実を見続けるのはヘビーなことです。
羽村はこのシニカルさで自分の心を防御し、まっすぐさでもって
真実を隠す壁をぶち破って行くのでしょう。
自分の痛みには強いが、身の回りの人が傷つくことにめっぽう
弱い、クールでシニカルな女探偵の今後の活躍に期待します。