『ポルトガル物語 漁師町の春夏秋冬 』の
イラストブックレビューです。
ポルトガル物語 漁師町の春夏秋冬 (KanKanTrip Life 1)
- 作者: 青目海
- 出版社/メーカー: 書肆侃侃房
- 発売日: 2017/06/18
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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劇団天井桟敷の創立メンバーであり、脚本家・ライターの
青目海さんが、夫と共に20年を過ごしたポルトガルの小さな
漁師町オリャオでの、四季の暮らしぶりを写真と共に綴ります。
青目さんがオリャオにやってきた当時、街には外国人が
ほとんどおらず、顔見知りになった近所の人でさえ、挨拶も
してくれなかったとか。そのくせ街へ出れば、住人たちにじっと見られている
という、何とも居ごごちの悪い、孤独な思いをしていたようです。
同じ通りに住んでいたイギリス人画家が、出会ったその日に
ディナーに誘ってくれ、そこには郊外に住む十人ほどの
外国人が集まっていました。これをきっかけに街での友人たちが
増えていきます。フランス、オーストリア、イタリア、ドイツ、
スイスなどさまざまな国の人たちが英語を共通語として、
慣れない街で心の拠り所を作っていったのですね。
春の市場には空豆やグリーンピース、すみれの花束に薔薇など
目にも楽しい色鮮やかなものたちが並びます。
こうした市場で仕入れた新鮮な食材をたっぷりと使って、
おもてなし料理や、持ち寄りの料理、保存食などを作ります。
気取っているわけでもなく、ものすごく手の込んでいるようにも
見えませんが、野菜がたっぷりで色も綺麗なため、食欲をそそります。
ワインにも合いそうですし。
青目さんも、市場の野菜や、新鮮で豊富に手に入る魚類を
使って、おもてなし料理や作り置きを頻繁にしていたようです。
鯵のたたきに添えられたオレンジとハーブは色合いも良く
オシャレで、ポルトガルに来るまでまったく料理ができなかった、
という人が作ったものとは思えません。
夏には、この田舎の漁師町にも観光客が訪れ、賑わいを見せます。
あちこちに美しい花が咲くこの時期、その花が取り放題(?)のこの街で青目さんは
コクリコの花畑を発見します。そのあまりの美しさにたっぷりと
採って家中に飾り、楽しんでいると友人に警告され…。
そう、ダメなやつ(コクリコ=芥子=アヘン)だったようです。
のんびりとした美しい街に、マフィアの影がサッとよぎる、
裏の顔をちょっぴり覗かせた出来事でした。
夏が過ぎて、街が静けさを取り戻す秋。
たっぷりと採れるイチジクでジャムやコンポート作り。
ザブンザブンと降る雨音を聞きながら家に閉じこもって
過ごす冬には、編み物や手仕事をして過ごす。
こうして、20年もの時をこの街で過ごしてきた青目さん。
国際色豊かな友人を持つ環境からか、ポルトガル語は
ついに会得することはなかったとか。
英語についても聞いている友人が頭が痛くなる、というほど
心もとない具合だったようです。
それでも長い時をこの地で過ごすことができたのは、青目さんの
人と、街との距離の取り方が良かったから、かもしれません。
50代に差し掛かろうかという彼女だからこそ、近づきすぎず、
遠からずという絶妙の距離感でもって、少しずつ少しずつ
土地と人に馴染んでいったのではないでしょうか。
その無理をしすぎない姿勢が、この街の光の強さと気だるい
雰囲気に良く合っているように思います。
成熟した人間だから楽しむことができる、成熟された街。
ポルトガルの小さな漁師町はそんな印象を与えてくれます。
表紙の美しいピンクの色の壁と鮮やかな黄色の花が、目をつぶっても
まぶたの裏に浮かんで来るようです。
明るい色彩と少しの影。歳を経た味のある人間に良く似合う、
そんな異国の街の空気と暮らしぶりを伝えてくれる素敵な本です。