ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

ヤクザは人々を癒す楽園を作り出すことができるのか?

プリズンホテル〈1〉夏 (集英社文庫)』の

イラストブックレビューです。

プリズンホテル〈1〉夏 (集英社文庫)

プリズンホテル〈1〉夏 (集英社文庫)

 

 極道小説で売れっ子になった作家・木戸孝之介は驚いた。
たった一人の身内で、ヤクザの大親分でもある叔父の仲蔵が
温泉リゾートホテルのオーナーになったというのだ。
招待されたそのホテルはなんと任侠団体専用。人はそれを
「プリズンホテル」と呼ぶ―。

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この本は、読み終わるまでにすごく時間がかかった。
その理由は最初のくだり、作家である木戸孝之介が身の回りを世話
してくれる女性と、愛人に対する仕打ちがひどいため。
気にいらないことがあると、すぐに殴りつけるのです。
その気に入らない理由も自分勝手すぎるし。

強烈な不快感を覚えて、どうも先に読み進めず全体の3割ほど
読んだ後、3ヶ月ほど放置。
最近ようやく手にしてまた読み始めたら、これがまたおもしろいこと!

ヤクザが運営するヤクザだらけのホテルに放り込まれた、実直・誠実な
元一流ホテルの支配人、そして一流のフランス料理人。
彼らはおかしなホテルに放り込まれた事に戸惑いを感じつつも、自分の
仕事を全うしようと努力します。

ホテルの宿泊客や新たにホテルの従業員となった者達、いわゆる堅気と
そうでない人たちのやりとりがズレており、
微妙な可笑しさを発生させて、つい笑ってしまうのです。

中盤以降は、木戸孝之介よりもこうした周囲の人々との人間模様に
焦点が当てられていたので読み進めることができたようです。

それから、興味深いのはヤクザの礼儀。いわゆる「仁義を切る」という
挨拶についてもきっちり描写されていて、なんだか戦国時代の武将たちが
戦いに挑む前に互いに挨拶をしている姿のようだなと思いました。

アクの強い登場人物たちがところ狭しと動き回る様子は、舞台を見ている
ようで一気に引き込まれます。
ただ、本当に木戸孝之介がクズすぎて好きになれない(苦笑)。
でもそれこそが作家、浅田次郎の罠にまんまとはまっているわけなんですがね。

彼はクズになってしかるべく過去を持っています。
2巻以降では徐々に、彼なりに更正していく描写がでてくるようです。
どこまで彼に共感できるかが作家の腕の見せ所でしょう。
もちろん、私は単純なので、すっぽりはまってしまうとは思うのですが。

すばらしく楽しい、エンターテイメントヤクザ小説です。
2~4巻までは正月にでもゆっくり読むか、それとも年末までに
夜中お酒を飲みながらじっくり読むか・・・
うれしい悩みです。

最悪な状況下での最適な結末

ラスト・ウィンター・マーダー (創元推理文庫)』の

イラストブックレビューです。

ラスト・ウィンター・マーダー (創元推理文庫)

ラスト・ウィンター・マーダー (創元推理文庫)

 

 

 連続殺人鬼を父に持つジャズが、ニューヨークで起きた
新たな連続殺人事件に巻き込まれる、シリーズ完結作。

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ニューヨークでの殺人犯を突きとめ、犯人に銃で撃たれたところを
父親に助けられるジャズ。親子の最終決戦へのゴングが
鳴り響く。

傷を負い、殺人事件の容疑をかけられたまま、ニューヨークから
最終決戦の場へと向かうジャズ。

痛手を負っている自分の体、そして何よりも、最愛のガールフレンド
コニーにまで傷を負わせてしまったショック。
心も身体もボロボロになりながらも、殺人事件の連鎖を止めなければ
ならないというジャズの信念は、人を殺す悪魔のささやきを常に
耳にしながら、それをふりきろうとする必死の行動なのだろう。

そして、ジャズの幼い頃のぼんやりとした記憶。
この正体を知ったときに、『ああ、神様!』と思わず天を仰いで
しまう。

こちら側に必死にしがみついている彼の最後の砦が、もろくも
崩れる瞬間がそこにはある。それでも彼は、こちら側にいようと
いう意思を捨てなかった。それは、悪魔との取引に彼が勝った
瞬間なのだ。

その意思の選択は、殺人者としての教育を受けた生い立ちを
考えれば、彼を高く評価するべきだ。たとえ、それを選択するに
ともなった行為によって誰かが生死に関わる事態を迎えたとしても。

子供の頃の記憶というものは、かくも人を深く傷つけるものなのか、
とため息が出る。サイコパスである連続殺人鬼である父親、彼は
息子に殺人教育を施しながら、彼なりに息子を愛していると
いうことがひしひしと伝わってくる。と、同時に、このようにしか
愛せないのか、と同時に困惑もする。

ラストはハッピーエンドとは言えないかもしれない。
しかし、最悪な状況のもとで、最適な結末を迎えたと言えるだろう。
主人公のジャズの肩をたたいてあげたい。
かける言葉は見つからないけれど。

作家とともに時を紡ぐお菓子たち

作家のお菓子 (コロナ・ブックス)』の

イラストブックレビューです。

作家のお菓子 (コロナ・ブックス)

作家のお菓子 (コロナ・ブックス)

 

 

 谷崎潤一郎吉行淳之介野坂昭如、大村しげ、ナンシー関
水木しげるなど、作家たちが愛したお菓子と、それにまつわる
エピソードを紹介。

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なかでも印象的だった記述は大村しげという随筆家の章。
章のタイトルは『甘いもの嫌いが選ぶ京ならではの甘味』。

本人の文章のなかでも

『わたしはいまでも甘いもんはきらいで、お菓子が大好き
というから、笑われる。それでも、ほんまのお菓子は、
甘さを殺して、殺して作ってあるので、少しも甘いことはない。
のど越しがようて、あとにあずきのかおりがほーっと口に残る。』

この表記に強い共感を覚えたのです。私も甘いものは苦手。
でも『さっぱりと甘くておいしいもの』は好き、というめんどくさい
感覚の持ち主なのですが、大村しげさんがわかりやすく
言葉にしてくれました。

そんな彼女が好んだのは味噌松風に焼き芋、胡麻が香ばしい
せんべい、さっぱりとした水仙ちまきに羊羹ちまきなど。
味噌の風味が効いていたり、素材のほのかな甘みが上品に
漂ってくるような、そんなお菓子たちです。

中でも、吉野の葛と砂糖を原料とし、笹の葉で包んだ後、いぐさ
で巻いてゆがくという『水仙ちまき』と、さらに小豆を加えた
『羊羹ちまき』は、死んだ後には必ず供えて欲しい、というほど。

写真からも柔らかな舌触りが伝わってくるよう。
あんこも好きではないのだけれど、これはちょっと食べてみたい
と思わせる文章と写真です。

他にも、洋菓子や和菓子、家族や本人が作った手作りのお菓子など
作家に愛され、ともに時を過ごしてきたお菓子たちが紹介されています。

仕事の合間のリフレッシュに、または仕事を始める前の儀式として、
様々な用途で食べられています。
水木しげるやなせたかしのそのお菓子への思いは、仕事への
ストイックさも同時にあらわしていて感慨深い。

どの作家さんも、食べ物を大事にしているなあ、と
いうことが伝わってきます。
お菓子が出てくるわくわく感、口に入れる満足感。舌触り。
あらゆることを感じて、味わって食べていたのだな。

作家さんの生き方や人生に思いを馳せつつ、お菓子を味わえば
また違った味わいを体験できそうです。

「気合」と「愛」で作る家族のごはん

ぬおお飯』の

イラストブックレビューです。 

ぬおお飯

ぬおお飯

 

 イラストレーター、きくちいまさんが
7人家族のごはんレシピをイラストエッセイで紹介。

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仕事に家事に子育てに、忙しい毎日を過ごすお母さん。
家族の健康のためにも、なるべく食事はちゃんと作りたい!
でも時間がない!!!

こんな状況のお母さんはたくさんいらっしゃるかと思います。
私も仕事をしていた頃は、保育園にお迎えに行って帰ってきて
30分でご飯にせねば!!とまさに『ぬおお』という気合いで
夕飯の支度をしていました。

きくちいまさんも、そんな働くお母さんの1人。
自分のご両親、旦那様、きくちいまさん、子供が3人と合計7人家族。
この7人分の食事を毎回作るのですか… スゴイ。
5人分でかったるいなーとか言ってる場合じゃないですね。

こちらはSNSでの発信内容を本にまとめたもの。
ツイッターやブログから本になったものは、時が立つとあまり興味を
感じなくなることが多いので、あえて手を出さないようにしていました。

しかし、この本はまずタイトルに惹かれ、中身をパラパラめくってみて
食と食材と家族への愛に溢れている本だなあと感じました。
レシピやコミックエッセイは『なんども手にとって繰り返し読むのか?』
というのが自分の購入基準なのですが、これはバッチリ!

おかず、野菜もの、ごはんもの、小さいおかず、スイーツの
5つのカテゴリに別れています。
食材がかぶった、食材が足りないから何かカサ増しを…
など、楽しい家族のエピソードとともに紹介してくれます。
37000人ものひとがお気に入りしたという、伝説の
レンチンクレープレシピも!

子供の頃、母親が『材料なくてあるものだけで作ったんだよ』
と言って出してくれたごはんがおいしくて、『いつか作ってくれた
やつ、また作って!』てねだったら、母親も覚えてなかったっていう。
そんな昔の事を思い出したりする、ほっこりごはんレシピ集です。

芸術の女神に愛された者たちの日常とは

最後の秘境 東京藝大:天才たちのカオスな日常』の

イラストブックレビューです。

最後の秘境 東京藝大:天才たちのカオスな日常

最後の秘境 東京藝大:天才たちのカオスな日常

 

 芸術界の東大。それが『東京藝大』。
その内部に作家が潜入したルポルタージュ
芸術家たちのカオスな日常が明らかに。

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狭き門をくぐりぬけ、芸術を学ぶべく訪れたその世界は。
工場のような広さを持ち、あらゆる器具が揃った作業場。
工業、木工、絵画など学部も多岐にわたり、その作品たちも
一言で表せないような、独特なものも多い。

学長いわく、『日本の芸術は君たちが牽引していくのだ』そうで
そういう意味では先駆的な取り組みも珍しくないようです。

個人的におもしろいなあと思うのは、その期待を裏切らない
変人ぶりを発揮している方が多くいるということ。
『作り出す』ということがイコール生きる事につながって
いる。創作と社会的に生きる事は必ずしも一致していないというか。
作ること、表現していくことを突き詰めていくと、社会的活動は二の次になる。

一方で冷静に将来を見据えて、在学中から活発に活動している
学生たちも多数いるという事実。これは音楽に取り組む方に
多いようです。音楽の道へ進む人たちは、学生のうちに勉強だけでなく実践の場を
こんなに経験していくものなのだということをはじめて知りました。
それに関わる活動にお金もかかるし、その見た目の華やかさの影で
一日休むと取り返しがつかないため、毎日の練習を欠かさない
努力を続けているということも。

それから学部の多さや、その先にある仕事の種類の多さについても驚きました。
本人やお子様で芸術方面に才能がありそうだ、興味があるという人は
ぜひ読んでみてほしいです。芸術の世界は奥も深いが幅も広い。

芸術に興味がない人でも、軽妙なタッチで描かれたおもしろおかしな
登場人物たちや、一般大学とはことなる構内の様子は充分に楽しめます。
幅広い年代に楽しめる、良書だと思います。

激流の中でも決して自分を見失わず

 

『あきない世傳金と銀〈2〉早瀬篇 (ハルキ文庫)』の

イラストブックレビューです。

あきない世傳金と銀〈2〉早瀬篇 (ハルキ文庫)

あきない世傳金と銀〈2〉早瀬篇 (ハルキ文庫)

 

 

店の立て直しをはかるため、女衆でありながら
店の若旦那と14歳で結婚することになった幸。

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店のお金まで使い込み、店を傾けさせてしまう若旦那。
女衆あがりが、という周囲の目線にめげることなく、
自分のやることは商品の知識を得ること、と前を向いて
真っすぐにすすむ幸。

結婚とはいえ、傾きかけた店で決して恵まれた状況とは
言えません。その中で長く会えなかった母と妹が式の
ためにやってきて再会し、良かったと涙を流すシーンには
こちらも思わずもらい泣き。

純粋に娘が幸せで良かった、という喜ぶ母。綺麗な姉を見て
憧れる妹。ここでキッパリと生まれた家と決別したというか
はっきりとした溝ができたように思います。
あちら側とこちら側、といったような。

それは幸が自分の生き方に覚悟を決めたから。
逃れられない状況ではあるけれども、『あきらめ』ではなく
自分で選んだのだ、という意思を持つところがすごい。
だからこそ、その後に起こる出来事にもくじけることなく向かって
いけるのでしょう。

14歳から16歳という、女性としても次第に花開き、変化して
いく時。幸にとっては未知の世界へと踏み出していくことに
なります。

第1作に続き、幸が精神的にも身体的にも成長している姿が
しっかりと感じられることがとても嬉しく感じます。
第2作の今回は、最悪の事態は免れたがまだまだこれから
波乱が巻き起こる予感を感じさせる終わり方です。

江戸時代の大阪の商人、という全く馴染みのない環境に
これだけ共感できるのは、やはり作者の腕なのかなあ、と
思います。この作品とは長い付き合いになりそう。
そんなうれしい予感がします。

 

 

えんえんと、ダラダラと至福の家呑み

ゆるつま: 今夜はうちで、ゆるゆる晩酌』の

イラストブックレビューです。

ゆるつま: 今夜はうちで、ゆるゆる晩酌

ゆるつま: 今夜はうちで、ゆるゆる晩酌

 

 

思いついたらすぐに、気楽に作れる、
カンタンだけど、ちょっぴり気のきいたつまみが90品!

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家呑みの最大のメリットは、ゆっくりと自分のペースで
飲める事。足元が多少おぼつかなくても、こぼさず注ぐことが
できればいつまでも飲んでいられるのです。ああ幸せ。

まずは豆苗のしゃきしゃきサラダ、豚バラソテーのゆずこしょう
ソースをぐいっとビールで!!
おなかが満たされたらペースを落として明太豆腐ディップと
アンチョビ白菜でちびちびと白ワインを。
もうおしまいにしようかな~と迷いつつ、最後に黒こしょう
バニラで赤ワインをゆっくりと一杯。

あああ たまらず飲みたくなってきた(笑)。

多くのメニューが切ってあえる、切って炒めるといった
簡単な工程でささっと作れます。
それでいておもてなしにもOKな「使える」メニューが
多いです。

巻末には、お酒の種類別おつまみメニューの索引が。
これがまたいい。このつまみをあの酒で…
と想像するだけで幸せ。

特に、日本酒に合うつまみが個人的にツボで
本当においしそう。なのに悲しいかな、日本酒は飲めないのです。
でも歳とったから体質変わったかしら?
ちょっと試してみようかな。でも意外とおいしく感じて
飲む量が増えても困っちゃうな…

そんなうれしい悩みも出てきちゃったりする、
なかなかにくいヤツなのです。
とりあえず今日はスパークリングに合うメニューで
行ってみよ~っと。