ぬこのイラストブックれびゅう

ぬこのイラストブックれびゅう

雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

「生きている」と「死んでいる」の境界は?

チベット、ナクチュ。外界から隔離された特別居住区。
ハギリはアネバネと共にチベットを訪れ、その地では今も
人間の子供が生まれていることを知る。
生殖による人口増加が、限りなくゼロになった今、何故彼らは
人を産むことができるのか?!

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人工生命体、ウォーカロンと人間の物語第2弾。

科学の力によって、半永久的な命を手に入れた人間。
工場で生産される、完全な人工生命体であるウォーカロン

長く生きる事ができるのはどちらも同じ。
それでは、その区別とは?
そして致命的な損傷がなければ何度でも蘇生できる人間。
「生きている」と「死んでいる」の境界はどこにあるのか?

難しい言葉を用いることもなく、近未来の科学の話が
すんなりと頭に入ってきます。設定もしっかりしているので
「うーん、確かにそういうことありそうだ」といちいち
うなずきながら読みました。

今回は第2弾ということで、子供が生まれているという秘境へ
主人公のハギリ博士が出向き、攻撃に合う、といったシーンが中心。

護衛のウグイとアネバネが活躍します。ウグイは人間ですが
徹底的に職務を全うしているため、遊びの部分はなく、冗談も
通じることなく、ただ仕事に専念しています。

そのウグイも、ハギリ博士が話す冗談がわからずに困惑してみせる様も
人間くささがちらっと出て、ニヤリとしてしまいます。かわいい。

5部作の2作目ということで、まだまだ物語の途中。
続きが気になるところで終わってます。さすがですね。

人間の、寿命の長短による生命に対する考え方の違い、
人間と人工生命体の命の価値の違い、
いろんな面からの生命の倫理観が問われる作品。

ハギリ博士のとぼけたキャラクターが、物語を重くさせすぎずに
いい味出しています。しかし彼も研究者としての悩みをかかえているところが
また共感を呼ぶのです。きっと過去偉大な結果を残した科学者たちも
そういった不安や悩みをかかえていたのだろうなと思います。

重さと軽さを絶妙なバランスで整えた、科学エンターテイメント小説。
あと3冊、どのような展開で結末を迎えるのか楽しみです。

 

 

 

「伝える」「伝わる」広告デザイン術

心理学的視点に基づいて広告を分析し、ビジュアルに秘められた、
人の決断や行動、考え方に影響を与える33の手法について、
豊富な実例図版を用いて解説。広告業界関係者はもちろん、
一般消費者にもわかりやすい言葉で綴ている。

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新聞を見るときは真っ先に広告欄。
小学生の頃からそんな習慣があったような気がします。
何しろ大きくてインパクトのあるフォントに、大胆な構図の写真。
子供ながらにワクワクしながら見ていた記憶があります。

何の偶然か、大人になって少々広告に関わる仕事をしたことで
いっそう広告にについて興味を強く持つようになりました。

見る側から伝える立場へ変わった時に、いかにして購買者層へ
訴えるか、特に強く伝えるべき部分はどこなのか、デザインに
集中しすぎて伝わらないという事態になっていないか…など
考える部分がたくさんあり、難しくも面白い仕事だなあと
感じた事を覚えています。

さて、こちらの本は仕事を辞めた後に購入したもの。
広告、デザイン系となると面白そうだなと勝手にアタマが解釈したのか
気がついたらアマゾンでポチっていたものです。

広告が示す表現による、消費者の心理的効果を33のパターンを
用いて解説しています。
これは制作側はもちろんのこと、消費者としても楽しめるのでは
ないでしょうか。

ネット広告に出てたダイエットサプリ買っちゃった。
雑誌に出ていた高級美容液買いたくなった。
テレビのCM見てたせいか、あのお菓子につい目が行く。

これらは、制作側が消費者に対して説得力を強めるためのテクニックを
緻密に計算し、そして実行した結果、成果が出た、ということになります。

ダイエットなら結果を『煽られている』と感じることはありませんか?
あとビフォーアフターも。これらもテクニックです。
デザインとテキストのサンプル例を用いて分かりやすく解説しています。

消費側からすれば、『あ、これはあの効果を使っているのだな』と
ワンクッション置くことで、無駄な買い物をしてしまうことへの抑止効果
となるかもしれません。

個人的には、自分の書評用に描くイラストや、文章までも使えるなあと
思っています。表現と効果、決して広告だけにとどまらないと思うのです。

もし、私のイラストや書評が何だか意識に残って気になる…と思う方が
いるとしたら、それはこの本のテクニックによるものかもしれません。

 

「人を動かす」広告デザインの心理術33

「人を動かす」広告デザインの心理術33

  • 作者: マルク・アンドルース;マテイス・ファン・レイヴェン;リック・ファン・バーレン
  • 出版社/メーカー: ビー・エヌ・エヌ新社
  • 発売日: 2016/10/01
  • メディア: Kindle
  • この商品を含むブログを見る
 

 

女が去った後、男に残された影

「ドライブ・マイ・カー」「イエスタデイ」「独立器官」
シェエラザード」「木野」他全6篇。
女が去った男たちを最高度に結晶化しためくるめく短篇集。

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村上春樹の短編集。共通テーマは、いろんな形で女に去られた男たち。
10代から50代まで、さまざまな年代の男たちが登場します。

中でも個人的に印象に残った話は「シェラザード」。
シェラザードは、定期的に訪れ性処理含め身の回りをしてくれる
事務的な関係の女性が、寝物語にしてくれるあらゆる話がテーマ。

自分の前世から多感な時期に起こしてしまった事件。
本当なのか、作り話なのかわからない、ファンタジーと現実が
入り混じる彼女の語りは心が惹きつけられます。

個人的な話は一切なく、事務的なかかわりであることを互いに
心がけているが、ある話をした後から彼女の個人的な面がわずかに顔を
覗かせて、二人の関係にほんの少し変化をもたらす。

周囲からセッティングされた間柄で(おそらく派遣のような)、
本人同士にはなんの確約もない。相手の名前も住まいも知らない。
明日から一切関わりがなくなってもおかしくない。

そんな関わり方でも、人と人の間には何かつながりのようなものが
発生すること。彼女についての情報は何の確証もなく、時がたてば
どんな顔なのか、声なのかも忘れてしまうに違いない。
それでも何かしらの形で、男に影を落とし刻み付けていく。
女にとって男とはそういうものなのかもしれません。

短編ではありますが、深い余韻を残す、どっしりとした話ばかり。
心の琴線に触れる部分が多かったためか、読み終わるとぐったりと
疲れてしまいました。
雨の日に、自分の内面と向き合いながらじっくりと読むのに適した
本だと感じました。

村上春樹の短編集。共通テーマは、いろんな形で女に去られた男たち。
10代から50代まで、さまざまな年代の男たちが登場します。

中でも個人的に印象に残った話は「シェラザード」。
シェラザードは、定期的に訪れ性処理含め身の回りをしてくれる
事務的な関係の女性が、寝物語にしてくれるあらゆる話がテーマ。

自分の前世から多感な時期に起こしてしまった事件。
本当なのか、作り話なのかわからない、ファンタジーと現実が
入り混じる彼女の語りは心が惹きつけられます。

個人的な話は一切なく、事務的なかかわりであることを互いに
心がけているが、ある話をした後から彼女の個人的な面がわずかに顔を
覗かせて、二人の関係にほんの少し変化をもたらす。

周囲からセッティングされた間柄で(おそらく派遣のような)、
本人同士にはなんの確約もない。相手の名前も住まいも知らない。
明日から一切関わりがなくなってもおかしくない。

そんな関わり方でも、人と人の間には何かつながりのようなものが
発生すること。彼女についての情報は何の確証もなく、時がたてば
どんな顔なのか、声なのかも忘れてしまうに違いない。
それでも何かしらの形で、男に影を落とし刻み付けていく。
女にとって男とはそういうものなのかもしれません。

短編ではありますが、深い余韻を残す、どっしりとした話ばかり。
心の琴線に触れる部分が多かったためか、読み終わるとぐったりと
疲れてしまいました。
雨の日に、自分の内面と向き合いながらじっくりと読むのに適した
本だと感じました。

 

女のいない男たち (文春文庫)
 

 

 

本当に実用的な“使える”レシピ本

時間のない時ほど役立つアイディア料理と
材料の上手なくりまわしのポイントを紹介。

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ただいま〜と帰ってきてから次々と手際良く、しかも彩りよく
バランスの良い食事をサッと作って出せたら…

台所に立つ人ならば良く考える事ですよね。
ただ実際は、おお!もうご飯作る時間じゃないか!
とりあえずボリュームを出して、家族喜ぶ肉多めで、と。
我が家の場合、その場しのぎで作るご飯は、どうも野菜や豆製品、
海藻類が不足してしまいます。

それと、適量がわからない。我が家は、夫が異様に肉を食べるので
彼が満足する量の肉を用意するとなると、5人家族で1回の食事につき
800〜1000グラムくらいになることも。

ちなみに子どもは中学生、小学生、年少女子なのでプラス自分で合計
500グラムもあれば充分。残り300〜500グラム食べる夫に誰か食べすぎだ!って
言ってやってください。

本書には、家族構成による食材の必要摂取量の目安もあり、これがわかりやすい。
サンプル例を見ると、肉・魚は4人家族(夫婦、中学男子、小学女子)で、1日に
550グラム。1日に、ですから。やっぱうちはもう少し減らしたほうがいい。

ほか、野菜が圧倒的に足りていなかった様子。これは軽くショック。
気をつけてとっていたつもりだったのですが。というか、推奨される量の野菜を
毎食刻むのか、と思うだけでウンザリします。

しかし、ここが自分のウイークポイント。あらかじめ野菜をゆでておく、つけておく、
そして次の手間への貯金として切って 冷凍しておく、など。
そうした一仕事が、野菜メニューを増やすことにつながっていくのですね。

その手間貯金、毎回しているわけではないのだけど、やってみると確かに
気持ちに余裕が生まれます。素材をもう一つ足してみようとか、もう一品作れるなとか。
子どもにつまみ食いさせる心のゆとりも出てくる。
最近スタンダードとなっている『作りおき』も、ここを目指しているわけですものね。

初版は1990年。20年以上販売され続けている料理書はなかなかありません。
ページを開けば、レイアウトや写真は昭和っぽいテイストが漂っているのですが
(平成3年ですけどね)中身はどうして、最前線のレギュラー選手ですよ。

肉や魚の作りおきおかず、 野菜おかずのバリエーション、たれ・ソース
など、長く使えて役に立つ情報が盛りだくさん。

家族の健康に対する考え方、料理する自分に役立つ一手間、実際の作りおき料理まで
本書作り手が読者のために役に立ちたいという気持ちがひしひしと伝わってくるのです。

長い付き合いになりそうなので、そろそろ紙のカバーからビニールカバーに
掛け替えようかな。

 

 

魔法使いの台所―まとめづくりと手早い料理で夕食用意が30分

魔法使いの台所―まとめづくりと手早い料理で夕食用意が30分

 

 

やりたくないことをやらない勇気

好きなことだけをして生きていく。
「自分には無理」と思っていませんか? でも、本当は誰でも自由に
生きることが可能なのです。もちろん、お金に困ることもなく。

「“努力=報われる"ではない」「好きなように生きることに罪悪感
を感じる必要はない」「やりたくないことをやめる」など、実践で
きる具体的な方法がつまっています。

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『がんばっても報われない』衝撃的な一文で始まる本書。

40年以上生きていれば、頑張らなくてはいけない場面はいくらでも
ありますよ。仕事は結果を求められて首が締まる思いがしていたし、
そんなときに限って子供が熱出してお迎えコール入って冷や汗出るし、
夫は残業で帰って来ないし。

頑張っていた時は、眉間にシワが寄っていたでしょうね。
常に時間に追われて、子供にも申し訳ない気持ちでいっぱいでした。
収入はそれなりにありましたが、仕事を頑張ることに次第に違和感を感じるように
なりました。そこから数年悩んだ後に退社。現在に至ります。

現在は本を読み、書評とイラストを書く毎日をすごしています。
こうなると日々感謝しかありません。
退社を決断した自分にありがとう(まずそこかい)、賛成して協力してくれる
家族にありがとう、退社を認めてくれて、長年働かせてくれた会社に
ありがとう。

実際に表題の通り(と思われる)生活をしている状態で購入した本です。
現在も充分にありがたい生活を送っていますが、まだまだ得られるものは
得たい! お金も、より充実した人生も手に入れたいのです。強欲ですね。

本書内の『他人に迷惑をかけていい』『嫌な人になろう』といった項目は
実践するのはなかなか難しい。でも、その迷惑加減だとか、嫌な人加減を
少しづつ領域を広げていったら、自分を開放していけるのかな。

開いていれば、入ってくる。なるほど、とストンと胸に落ちます。
若い頃は他人に対して全開だったんですが、大人になるにつれ少しづつ
閉じてきて、今は開いているのは30%くらいかな。

人生も折り返しに入ったことですし、だんだんと開いていって、
困った人なんだけどつい手助けしちゃう、と思ってもらえるような
おばあちゃんを目指したいと思います。

 

 

「好きなこと」だけして生きていく。

「好きなこと」だけして生きていく。

 

 

こういうの、読んだ事あります?

バーと競馬場に入りびたり、ろくに仕事もしない史上最低の私立探偵
ニック・ビレーンのもとに、おかしな依頼が来る。
調査に乗り出すうちにいくつもの奇妙な事件に巻き込まれていく。
死神、浮気妻、宇宙人等が入り乱れ、物語は佳境に突入する。
伝説的カルト作家の遺作にして怪作探偵小説が復刊。

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これは、すごい作品ですね。
なんというか、「これでもか」というくらいに、ものすごい口汚い言葉が
飛び交います。あの、中指立てて吐き捨てる言葉とかはほんの序の口。
あまりの言葉の応酬に、最後まで読みきることができるのかしら?
と少し不安な気持ちに。

しかし、その後に起こる奇妙な出来事の連続に、言葉づかいのほうは
次第に気にならなくなってきます。
非現実的な出来事に対し、皮肉なことにひどい言葉で日常にあることを
気付かせるという。

ニック・ビレーンが起こす行動の結果の数々に、次第に悲しみというか
青い透明感が漂ってきます。なんやかんや言っても仕事はしようと
してるじゃないか~ でもこうなっちゃうの?というような気の毒さ。

迎えるラストは一転して真っ赤。
「生きたい」というメッセージが強く伝わってきます。

読後感は、「意表をつかれた」。
アメリカの、口汚い探偵の、非現実的な依頼を受けて実行する、という
ハチャメチャな話なのかと思いきや。言葉の影に、悲しみや生きる事への
強い願いなどをが隠されていて、文学のようだなと感じました。
すごいガサツな男が、本当は繊細だった、みたいな。

かといって、ニック・ビレーンにキュンとはしないんですけどもね。
ラストはどうなったのか?と考えさせられ、でもしっくりとした
答えを未だ見つけることができず。

数年後に読んだら、その答えを見つけることができるのかもしれません。
自分にとって記憶に残る、印象的な1冊となりました。

 

 

パルプ (ちくま文庫)

パルプ (ちくま文庫)

 

 

EU圏内の旅で見つけた国民性と未来、そして役割

NHKで放送された関口知宏の鉄道旅シリーズ。

2015年、オランダ、ベルギー、オーストリアチェコの4カ国の鉄道を巡った。
車窓を横切る美しい風景、人々との出会い。
関口の飾らない人柄が映し出される人気番組を書籍化。
道中で、関口が肌で感じたことや歴史から学んだこと、
あらゆる視点から旅した国々を振り返る。

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表紙のイラストに惹かれて購入。
手書き、イラスト、色鉛筆。あたたかさを感じる扉には、つい手が伸びてしまいます。

この4カ国、私にとっては実に馴染みがありません。
オランダ、ベルギーは、夫が以前仕事で出張にいったことがあり、チョコレートを
お土産に買ってもらったことと、出張期間中、実家の母親を召喚して2人の娘の
面倒を見てもらい、ここぞとばかりに残業しまっくたのが関連する思い出。

夫のほうも、オランダは乗り換えで立ち寄っただけ、ベルギーは食べるものが
なくてサンドウィッチばかり食べていたとか。
いわゆるファストフードみたいな店はなかったようです。

仕事で行った人はそんな感想でしたが、ツーリスト的にはどのような国なのでしょう。

どの国も陸続き。他国に支配された歴史を持っています。
国土面積は小さめ。それぞれ国ごとに問題を抱えています。
その国民性はオープンだったり、クローズ気味だったり、ポジティブだったり
ネガティヴだったり。

鉄道で続けていける国々でこれだけ違いが出るのも面白いと思います。
島国日本で、占領されることなくずっと日本、周りは日本人だらけ、という
環境では、こうした国々のことを理解しようとするのは難しいのかなと。

著者の良いところは気負いがなくて、わからないことを素直に認めているところ。
もちろん、訪れる国についての勉強はされているとはおもいますが、先入観なく
現地での出来事を楽しんでいるように見えます。

そして、感じた現地の人々や土地に情景から自分、日本人、世界の中の日本に
ついて思いを巡らせています。

社会学者から言われると『そうは言ってもねえ』なんて言いたくなるところですが
この方の真摯な言い回しには納得させられるところがあり、うんうん、と
頷いてしまいます。

海外旅行に行くと、レジャー施設を訪ねて美味しいもの食べて買い物して帰る!
というパターンが多かったのですが、これだけの情報と考えを見つけ、残せる
というのはすばらしいし、あこがれます。
そうか、イラストの旅紀行描いてみたかったのか、と、自分の願望を新たに
発見できたのも嬉しい限り。

多くのことを発見し、感じることができるように感性を磨いておこう!
そんな思いにさせてくれる一冊でした。ああ、海外旅行に行きたい。