ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

妖しくも美しい刺青に囚われた人間たちのドラマ

刺青殺人事件 新装版 』の

イラストブックレビューです。

 

大蛇の刺青を背中に入れた女性、絹枝に誘われ、彼女の家を訪れた元軍医、
松下研三が見たものとは。胴体のない死体、完全密室での殺人事件。袋小路に
迷い込んだと思われたその時、名探偵神津恭介の登場により、事件はまた動き出す。

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昭和十五年、その世界では有名な刺青師が、自分の3人の子供にそれぞれ刺青を
施しました。蝦蟇に乗る自雷也、蛇を操る大蛇丸、そして3人目の肌に刻まれたものは。

事件は昭和二十一年。戦後の風景が色濃く残る東京が舞台です。刺青を披露する
青競艶会の会場で、元軍医の松下研三は野村絹枝という女性に出会います。
その背中一面に覆われた大蛇丸に圧倒された研三。彼女から相談に乗って欲しい
ことがある、と持ちかけられた、誘われるままに彼女自宅へと訪れます。

ある建築会社社長の交際相手でもある絹枝は、一軒家に一人で暮らしていました。
誰もいない家の中、水の流れる音。音のする浴室へ向かいましたが、浴室の戸は
閉まっています。戸の隙間から覗いてみると、なんと人の腕が落ちていたのでした。

切られた頭と腕は発見されたものの、胴体は見つからず。
家の中には、切断したほどではないが、血痕は数カ所で見つかりました。そして、
風呂場のとは閉まっており、浴室の窓も同様で、その大きさもとても人が通れる
ものではありません。完全密室の状態です。警視庁の捜査課長兄に持つ研三は、
兄と共に事件の解決に尽力します。

ところが、容疑者はつぎつぎとあらわれても、彼らのアリバイは確実になって
行くばかり。その上、絹枝の交際相手は自殺と見られる形で死亡。研三は、
長年行方不明だった、絹枝の兄を探し出しますが、その兄もまた死体となって
発見されてしまうのです。

物語の終盤になって、ようやく名探偵、神津恭介が登場します。
一高が誇る天才が、兵役を終えて帰ってきたのでした。
彼は研三からの情報を聞いた後、容疑者たちと会話を交わし、そして最終決戦を
迎えます。それは狡猾な犯人との知力を尽くした戦いであり将棋の勝負にも
似ています。神津恭介の紳士的な佇まいと、多くの情報を瞬時に分析する優れた
頭脳が、陰惨な事件の中で一筋の光のように輝いています。

肌に針を刺し、花や生物を纏わせる刺青。
人が動くにつれその描写された生き物たちも動き、また人の状態によってその
色合いも変わります。人の一部であって、人ではない。しかし一度その魅力に
取り憑かれたものたちは自身をも破滅させてしまうのです。そんな刺青に
囚われた者たちが織りなす、読み応えのある人間ドラマです。

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