ぬこのイラストブックれびゅう

雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

妖しく、恐ろしい 中世の黒魔術の世界

黒魔術の手帖 』の

イラストブックレビューです。

 

飯田橋の書店で澁澤龍彦没後30年フェア、
というのをやっていました。中世ヨーロッパの絵画や
黒魔術など、当時の絵画を表紙とした多くの文庫本がズラリ。
本を開いて見れば、懐かしのフォント…。
今より少し小さくて味のある文字と、ヨーロッパの古文書に
あるような、暗くちょっぴり怖いような挿絵。
昭和の頃はこんな本を読んでいたなあと懐かしく感じました。

自分が選んだのは『黒魔術の手帖』というタイトルの文庫本。
地球が回っていると主張すれば弾劾された時代に行われていた
カバラ占星術、タロット、錬金術、妖術、サバト、黒ミサなどの
オカルティズムにまつわるエピソードを紹介したエッセイ集。

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今でこそ、マンガや物語などで使われ、馴染みもある世界ですが
発刊された当時は珍しく、読者に強烈なインパクトを与えたと
いいます。三島由紀夫も『殺し屋的ダンディズムの本と嘆賞した』とか。
(この文庫の著者あとがきより。)

中世のヨーロッパにおいて、これらのオカルト的な技術は、医術に
利用されたり、キリスト教への背徳、個人の欲望の達成など、様々な
用途で使われてきました。錬金術師などは、実際に物質を金に変えた、
と記録されているものから、お金をもらってすぐ逃げた、といった
インチキなものまで史実を元に記載。…と言いますが、この記録だって
正確とは限らないという事、こうした記述がなされた背景などを
著者は冷静に分析しています。

圧巻なのは、悪名高きジル・ド・レエ侯についての記述です。彼は悪魔に
魂を売り、多くの子ども殺している事で有名です。黒魔術や錬金術にも
力を入れ、殆どの財産をこれらの研究に注ぎます。
ジャンヌダルクと接見したこともあり、かつては信心深く敬虔なキリスト教
であったジルが、フィレンツェの魔術師プラレチと出会ってから、血を求める
悪魔へと変貌を遂げたのです。

ジルが実際に行ったと言われる幼児殺害の描写が、まあエグいこと。
今でも充分に強烈なインパクトを与えてくれます。殺害シーンの後の
屍体の愛で方もすごい。こうなる前とのギャップが激し過ぎて、同じ
人間なのにこんな風になってしまうの?と驚きと恐怖でいっぱいになります。

黒魔術や錬金術などは、不思議な現象を解明しようとするというよりは、
生きながらにして別の世界への切符を手に入れるための方法だった
ようにも感じられます。そうして手に入れたいのは向かっていきたいほど
甘美な世界なのか、シラフではやっていられないほど辛い現実の世界から逃げ出したいのか。

どんな状況で、何を思い、占星術錬金術や黒魔術などに没頭したのか。
さまざまな興味が芋づる式に発生してくるエッセイ集です。
中世ヨーロッパ時代のオカルティズムに興味のある方にはオススメです。
しかし血なまぐさい描写が苦手な方は決して手にとってはいけません。うなされます。