『 14歳のバベル』の
イラストブックレビューです。
病院へ運びこまれた冬人は、夢うつつの意識の中で不思議な
光景を見る。見たこともない建物、変わった服装。彼らは何者で、何をしようとしているのか。地上消滅のカウントダウンが始まる。
日本で八年前にバイオテロが発生。この事件をきっかけに、日本全国各所に立入禁止区域ができました。人々は居住可能である都市部へと移住します。
携帯電話、インターネットなどの通信機器が使用禁止となり、人々は携帯を持たず、固定電話で会話をし、文書は全て紙に手書きをし、押印。そんなひと昔前の状況になったような日本が舞台です。
主人公は14歳の少年、冬人。八年前の事件をきっかけに、人混みに出ると気分が悪くなって嘔吐したり、気絶する、という症状が出るようになりました。学校へ行ってもほぼ一日中保健室にいる。そんな冬人を母親が神経質なまでに心配しています。
冬人はある日、街中で気を失い、気がつけばある病院の診察の
ベッドの上でした。朦朧とする意識の中で冬人の脳裏に浮かんだ景色は、見たこともないような施設と、そこにいる不思議な衣装を身に纏った人たち。夢なのか何なのか、判別のつかない冬人でしたが、彼らのことについて調べて行くうちに、とんでもないことが判明したのです。
それは、彼らが地下に住む古代シュメール人の末裔であり、地上に住む者たちとの入れ替えをはかっている、ということ。その壮大な計画を知った冬人はこれを阻止しようと動き出します。しかし、学校生活になじめず、母親にもはっきりと意見を言えない冬人には、少々荷が重い。
この地上消滅計画には、冬人の父親が勤めているビール会社のビールが大きく関連しています。冬人の父親も会社の施設に違和感を感じ、やがて冬人や、記者の鷹野と共に、この計画を阻止するべく動き出します。14歳という、微妙な年頃は、周囲の
状況が見えるようになり、自分の無力感を強く感じる時期なのかもしれません。
それは大人にとっても同じこと。
経験値が少し余計にある分、振る舞い方はわかるけれども、成長し続ける自分の子供や、予想外に発生した未知の出来事に対しては、少年と同じように無力な部分もあるのです。そうした無力な大人の姿を見せることも、少年の成長に関係するのかもしれません。
想定外の出来事に対して向かっていける力の根底は「愛」。
少年は、希望を感じられないこの地上だけれども、大切な人たちを守りたい気持ちで強い大人たちへと向かっていきます。冬人の父親も、記者の鷹野も。
大切な人たちがいて、その人たちを守るために己を奮い立たせているのです。冬人がこの世界を守ると決めた瞬間、世界は彼を応援するかのように動き始めます。壮大な設定と細やかな少年の心理とが美しく、その世界にグイグイと引き込まれる物語です。