ぬこのイラストブックれびゅう

雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

センスある一冊。ジワジワきます。

ないもの、あります』の

イラストブックレビューです。

ないもの、あります (ちくま文庫)

ないもの、あります (ちくま文庫)

 

 

よく耳にするけれど、一度としてその現物を見たことがない。
そういうものがこの世にはあります。
たとえば「転ばぬ先の杖」。あるいは「堪忍袋の緒」。
こうしたこの世のさまざまな「ないもの」たちを古今東西より
取り寄せて読者の皆様のお手元にお届けします。

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クラフト・エヴィング商會なる著者が、これら
「ないもの」たちの商品紹介及び取扱の注意について解説しています。
「左うちわ」「相槌」「口車」「針千本」「思う壺」「助け舟」…。
どれをとっても、これまで目にしたことがないものばかり。

「転ばぬ先の杖」ってどんなものでしょう?
商品紹介にあるイラストはいたって普通の、ごくありふれた
杖のように見えます。その効果については

これさえ手にしていれば、決して「転ぶ」ということがありません。
場合によっては、この杖一本で「死」をまぬがれることだって
あるかもしれません。
とあります。

これは少しでも長く生きてみたいと思う人間の心にズバーンと
入ってくる商品ですね。自分も70代後半くらいになったら
欲しいと思うかもしれません。

と、思いきやこの杖を使用する際の大事なポイントはといえば
「どんなことがあっても常にいつでもついている」だとか。
無理でしょ!お風呂とか寝るときとか、両手を使うときは
杖はついていられないと思うんですけどー!!

さらに続く商品説明は実に含蓄を含んでいます。

まずは使用前に、本品の必要性についてよくよく考えてください。
いったん使用を開始されましたら、途中でやめることは出来ません。
人生と同じです。どんな時でも常に使用していただくことに
なります。これを少しでも怠りますと「転倒」「すっころび」
などの可能性が出てしまいます。重々ご注意ください。

まあ、そうそう都合のいいものは世の中には存在しないってことですね。
この展開は、日本昔ばなしや、童話を彷彿とさせるものが
ありますね。「赤い靴」なんて似たような話だったような。
素敵に踊れる靴だけど脱げない。脱げないからずっと踊ってる、みたいな。
怖いですねえ。

「他人のふんどし」なんてのもあります。
この商品の特徴は、決して本人のものにはならないということ。
愛着を覚え、使いこなし、自分の一部のように使いこなせたとしても
他人のふんどしは、永遠に他人のものでしかありません。

ふ…深い。
なんだか、人生の大先輩から「他人のふんどしを身につけて
いい気になってるんじゃないよ。自分の実力じゃないんだぞ。」
とお説教を受けている気分になります。

このように、商品自体が実際に存在したら、それはどんなものか
という説明も大いに楽しめますし、実際使ってみたらどうなるか、
使う際の注意がいわゆるオチなのですが、あちこちひねって
くれていて、もうジワジワと面白さが浸透していくのです。

商品のイラストがまた、なんていうかオシャレ…?
違う?雰囲気がある、ちょっと昔風な味のある絵です。
あ、そうだ、辞書とかの挿絵に載ってたようなそんな感じです。
わかりますでしょうか。わかりづらいか。

表紙から、中面から、デザインも文章もひねりにひねって
ウイットが効いていて、ホントにセンスある本だと思います。
こういうのが好きな方にはたまらなく響くのではないでしょうか。
手元に置いておいて、折にふれパラパラとめくってみたく
なる本です。