ぬこのイラストブックれびゅう

雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

あたりまえがめっちゃぜいたく

シリーズあたりまえのぜひたく。 

〔3〕(定番、国民食は玉子焼き。) 』の

イラストブックレビューです。

あたりまえのぜひたく。  ~定番、国民食は玉子焼き。~

あたりまえのぜひたく。 ~定番、国民食は玉子焼き。~

 

 

今すぐ食べたくなる、作りたくなる至福のコミックエッセイ。
ちょっとウルサイ担当編集者も思わず唸る料理の数々。

f:id:nukoco:20180325125834j:plain

幸せすぎるアジフライ、手作り白湯で鳥の水炊き、
春の香り全開の山菜スパゲティなど、秋から春にかけて
季節の素材をふんだんに使ったり、ほんのひと手間を
加えただけで、口にした時に思わず「んーー❤️」と声が出る
口福な料理たちが、作り方とともに出てきます。

お料理漫画を描く作者の、きくち正太さんと奥様が
さまざまな素材を手際よく、愛情を持ってお料理していきます。
秋田出身のご夫婦ということで、ハタハタや山菜も登場します。
特別な素材ではありますが、そのありがたみ感がハンパない!
山菜の美味しさが理解できなかった二十代の頃、秋田の
料理屋さんで出されたコゴミのおひたしの、あまりのうまさに
びっくりした記憶があります。

でもね、東京近辺で食べても同じ味には巡り会えないのです。
山菜が取れる現地で調理された、というのもあるのでしょうが、
きっと、この山菜のおひたしを作った料理屋のおかみさんが、
このきくち先生ご夫婦のように、素材のありがたみを感じて
美味しく調理しよう!美味しく食べよう!という気持ちを込めて
作っていたからなのだろうなぁ、と思います。

他にも、アシスタントさんたちへの夜食として作るすいとん
秀逸。鶏肉、人参、里芋、大根、ゴボウ、油揚げ、
長ネギを切ったそばからどんどん鍋に投入。
小麦粉、片栗粉、水を混ぜてこねる。
具材が煮えたら調味料投入!味付けはお醤油のみ!シンプルに。
こねた小麦粉を丸めて軽く平にしたら鍋に入れて行く。
最後に味の仕上げでもう一度醤油を入れて、芹、舞茸を入れてさっと
煮たら終了。

特に変わった作り方ではありませんが、出汁などを加えないことにより
野菜と肉などの具材から出た味、うまみが、強く感じられるのだとか。
それをしょうゆ味がまろやかに包むのです。

難しいことはしていないのに、なんかホッとして体に
染み込んでいく感じがするのは、子供のころおばあちゃんが
作ってくれた料理を連想させます。

こうして作られた料理を食べる描写がまたいい!
大きな口をあーん、と開けてはむっ、モグモグ。
「んー❤️ 」
続けてもう一口はむっとした後はすかさず酒!
「んーーー❤️」
実に美味しそうです!もうたまらん!

お料理上手なきくち先生ご夫婦は、素材の大切さ、ありがたさを
良く理解していて、その素材を最大限に美味しくいただくために
手間は惜しまないのでしょうね。
その姿勢には尊敬してしまいます。
あたりまえのぜいたく、とありますが、あたりまえこそが
有り難い、とても恵まれていることなのだなぁと感じさせてくれます。
また、日本にいるからこそ食べられるおいしいものたちが
こんなにもあるのだな、ということを教えてくれる、
おいしいコミックです。

 

クイズ感覚で思考力を鍛えよう

論理的思考力を鍛える33の思考実験』の

イラストブックレビューです。

 
 

 

思考実験とは、ある特定条件の下で考えを深め、
頭の中で推論を重ねながら自分なりの結論を導き出していく
思考による実験のこと。

f:id:nukoco:20180325125601j:plain

暴走したトロッコの先に5人の従業員がいる。
線路を切り替えれば5人は助かるが、切り替えた方の線路の先には
1人の従業員がいる。
あなたは線路を切り替えますか?
それとも切り替えずに、そのままにしておきますか?
そしてその理由は?

線路にいる従業員はどれも知り合いではありません。
声を出して伝えることはできず、あなたにできることは
線路を切り替えるか、切り替えないかだけです。
さて、どうしましょう。

切り替える、という選択をした場合。
5人の命は助かり、1人の命が失われます。
つまり、多くの命を助けるために、1人の命が犠牲に
なるのはやむを得ない、という考え方です。

切り替えない、という選択をした場合。
5人の命は失われ、1人の命は助かります。
こちらの考え方はこうです。
5人はもともとそうなる運命だったのだと。
他者が手を加えて本来助かるはずだった1人の命を
あえて犠牲にすることはない、というのです。
人の生死に積極的に関わらない、自分の意思によって、
自分の手によって人の命を落とすという行動を取らない、
ということです。

このように、必ずしも正解を求めるものではありません。
生きてきた環境や本人の性質によって、解釈や考え方は
いくつもあるからです。そうした考え方を知り、
新たな角度から物事を見ることや、これまでの自分の考え方と
違った方向から考えることで、新たな発想や解決策が
見えてくることがあります

こうした倫理観を問う問題がある一方で、数学的な問題もあります。
あるクイズ番組で、参加者は3つのドアのうち、1つを選びます。
当たりは1つで、あとの2つは外れです。
参加者が選んだ以外の2つのドアのうち、外れのドアを
司会者は開けました。司会者は問います。さて、選んだドアを
変更しますか?と。

正解の確率は、最初は3分の1です。
外れのドアが1つ開いたことで確率は2分の1に。
…ではなくて最初に選んだ以外の2つのドアが3分の2の
確率になるため、確率が上がるのです。
混乱しそうにもなりますが、図を用いて説明しているので
数学が苦手な人でもすんなり理解できるのでは。

倫理観を揺さぶる思考実験、矛盾が絡みつくパラドックス
数字と現実の不一致を味わう思考実験、不条理な世の中を
生き抜くための思考実験など、さまざまなタイプの
バラエティ豊かな実験を記載しています。
チャレンジすることで、自分はこういう問題は苦手、
あるいは得意だ、ということに気がつくかもしれません。

問題解決に、ディベートに役立つ論理的思考力を、ゲーム感覚で
身につけることができる本です。考え続けることで論理的思考力は
鍛えられ、新しい発見と適切な対応力へと繋がっていくのです。
論理的思考は苦手だからちょっと無理…と思う方ほど一度手に
取って見ることをお勧めします。

 

コーヒーとビールで生産性が向上する!?

朝のコーヒー、夜のビールがよい仕事をつくる 人生を変える飲む習慣』の

イラストブックレビューです。

 

いつも飲んでいるコーヒーとビール。
これらの飲み物で最高のパフォーマンスを発揮できる!?
コーヒーとビールに秘められたパワー明らかにし、
パフォーマンスの最大化を可能にするうまい飲みこなし方を
解説。

f:id:nukoco:20180325125316j:plain

朝にコーヒー、夜にビール。
サラリーマンならずとも多くの人が口にしている飲料。
こうした飲料が、毎日の仕事の生産性を上げるのに
役立つ、ということをご存知でしょうか?

コーヒーにはリラックス効果やダイエット効果がある。
そうした情報は良く耳にしますが、その理由を詳しく解説し、
効果を最大限に得られる飲み方を紹介しています。

コーヒーの香りによるリラックス効果とカフェインによる
覚醒効果を利用して、自律神経を上手に調節しましょう、と
本書は訴えています。
つまり、自律神経が整っている状態は体調や精神状態が
安定しているため、自分の能力を最大限に発揮できる、
ということなのです。
リフレッシュ効果を狙って飲むことはあっても、仕事の生産性を
上げるために、あえてコーヒーを飲む、という発想はなかったので
新鮮です。

一方で、朝起きぬけのコーヒーは、目覚めのホルモンである
コルチゾールを抑制してしまうため、逆に眠気やダルさを招く
場合があることや、朝食に菓子パンとコーヒーの組み合わせは
高血糖状態を招き、脳機能が低下する、といった注意も
喚起しています。

高いやる気と集中力をキープするために、計画的にコーヒー
ブレイクを取ることは質の良い仕事をするのに役立ちます。
イライラを鎮めるためにはソイラテ、ダイエットに適した
コーヒーの煎り加減など、さまざまな角度からコーヒーの
恩恵にあずかれる飲み方も解説しています。

そして、夏の友、ビール。
こちらのリラックス効果は言わすもがな、ですね。
どのお店のお客さんも「とりあえずビール」を幸せそうな表情で
飲んでいますから。そして、なんとビールには代謝をサポートする
成分もあるため、食事と上手に組み合わせることで
ダイエット作用にも期待できるということ。
ビールを飲んで痩せられるって本当ですか?最高じゃないですか!?

それから、ビールといえば痛風というイメージがあります。
しかしこれも飲み方によるもの。
実はビール自体にはプリン体の含有量はそう多くはありません。
しかし、大量に汗をかいた後にビールをガブ飲みし、プリン体
多く含む食べ物を多く摂取することでその危険性が高まるのです。
汗をかいた後にいきなりビール、ではなくビールを飲む前に
水分をこまめに補給し、プリン体の少ない食べものを組み合わせる、
などの対応で、プリン体一日トータル摂取量は調整できるのだとか。

他にも、太らないおつまみのルールや、二杯目以降が格段においしく
飲める秘訣など、美味しく楽しく効果的に飲む方法を解説。
体にも良い効果があるだなんて、ますますビールを飲むことが楽しく
なりますね。

食べものの50倍の速度で消化吸収される飲み物。
そして、毎日、何度も口にするものでもあります。
こうした日常の一部である「飲む」という行為を、心と身体の健康に
結びつけ、なおかつ仕事の能率までも向上できるということは
とても手軽ですぐに実践でき、かつ長く続けられるものだと
思います。すでに毎日飲んでいる、という人はさらにその効果を
意識しながら、時間帯や量を意識して飲めば、なおいっそう
良い仕事と良い生活習慣につながっていくのではないでしょうか。

成熟された人間だからこそ楽しめる 成熟された街

ポルトガル物語 漁師町の春夏秋冬 』の

イラストブックレビューです。

ポルトガル物語 漁師町の春夏秋冬 (KanKanTrip Life 1)

ポルトガル物語 漁師町の春夏秋冬 (KanKanTrip Life 1)

 

 

劇団天井桟敷の創立メンバーであり、脚本家・ライターの
青目海さんが、夫と共に20年を過ごしたポルトガルの小さな
漁師町オリャオでの、四季の暮らしぶりを写真と共に綴ります。

f:id:nukoco:20180325125011j:plain

青目さんがオリャオにやってきた当時、街には外国人が
ほとんどおらず、顔見知りになった近所の人でさえ、挨拶も
してくれなかったとか。そのくせ街へ出れば、住人たちにじっと見られている
という、何とも居ごごちの悪い、孤独な思いをしていたようです。

同じ通りに住んでいたイギリス人画家が、出会ったその日に
ディナーに誘ってくれ、そこには郊外に住む十人ほどの
外国人が集まっていました。これをきっかけに街での友人たちが
増えていきます。フランス、オーストリア、イタリア、ドイツ、
スイスなどさまざまな国の人たちが英語を共通語として、
慣れない街で心の拠り所を作っていったのですね。

春の市場には空豆グリーンピース、すみれの花束に薔薇など
目にも楽しい色鮮やかなものたちが並びます。
こうした市場で仕入れた新鮮な食材をたっぷりと使って、
おもてなし料理や、持ち寄りの料理、保存食などを作ります。

気取っているわけでもなく、ものすごく手の込んでいるようにも
見えませんが、野菜がたっぷりで色も綺麗なため、食欲をそそります。
ワインにも合いそうですし。
青目さんも、市場の野菜や、新鮮で豊富に手に入る魚類を
使って、おもてなし料理や作り置きを頻繁にしていたようです。
鯵のたたきに添えられたオレンジとハーブは色合いも良く
オシャレで、ポルトガルに来るまでまったく料理ができなかった、
という人が作ったものとは思えません。

夏には、この田舎の漁師町にも観光客が訪れ、賑わいを見せます。
あちこちに美しい花が咲くこの時期、その花が取り放題(?)のこの街で青目さんは
コクリコの花畑を発見します。そのあまりの美しさにたっぷりと
採って家中に飾り、楽しんでいると友人に警告され…。
そう、ダメなやつ(コクリコ=芥子=アヘン)だったようです。
のんびりとした美しい街に、マフィアの影がサッとよぎる、
裏の顔をちょっぴり覗かせた出来事でした。

夏が過ぎて、街が静けさを取り戻す秋。
たっぷりと採れるイチジクでジャムやコンポート作り。
ザブンザブンと降る雨音を聞きながら家に閉じこもって
過ごす冬には、編み物や手仕事をして過ごす。

こうして、20年もの時をこの街で過ごしてきた青目さん。
国際色豊かな友人を持つ環境からか、ポルトガル語
ついに会得することはなかったとか。
英語についても聞いている友人が頭が痛くなる、というほど
心もとない具合だったようです。

それでも長い時をこの地で過ごすことができたのは、青目さんの
人と、街との距離の取り方が良かったから、かもしれません。
50代に差し掛かろうかという彼女だからこそ、近づきすぎず、
遠からずという絶妙の距離感でもって、少しずつ少しずつ
土地と人に馴染んでいったのではないでしょうか。
その無理をしすぎない姿勢が、この街の光の強さと気だるい
雰囲気に良く合っているように思います。

成熟した人間だから楽しむことができる、成熟された街。
ポルトガルの小さな漁師町はそんな印象を与えてくれます。
表紙の美しいピンクの色の壁と鮮やかな黄色の花が、目をつぶっても
まぶたの裏に浮かんで来るようです。
明るい色彩と少しの影。歳を経た味のある人間に良く似合う、
そんな異国の街の空気と暮らしぶりを伝えてくれる素敵な本です。

対人関係療法の観点から考える自己肯定感

それでいい。』の

イラストブックレビューです。

それでいい。

それでいい。

 

ネガティブ思考クイーンの漫画家、細川貂々さんが、
精神科医で、対人関係療法の第一人者、水島広子先生に
会いに行くコミックエッセイ。

f:id:nukoco:20180325124751j:plain

人のことを妬んでしまう、コミュニケーション取るのが苦手、
自分にはできない事が多い…。
ネガティブ思考にかけては自信あり(?)な細川貂々さんが
水島先生に相談すると、返ってきた答えは「それでいい」でした。

スピリチュアル的、精神論的な「ありのままでいい」という本は
多くありますが、こちらは対人関係療法に基づいて自己肯定感を
持つところから対人関係のトラブル解決方までを解説しています。

『ツレが鬱になりまして』の原作者として、一躍有名になった細川貂々さん。
頑張り屋さんなイメージがありましたが、ネガティブクイーンだとは
知りませんでした。どうやら、子供時代に母親からそういった
価値観をうえつけられたようです。毒親と言われる類でしょうか。

仕事が順調な人が羨ましく、妬んでしまう。
期待に応えられない自分をダメ人間だと思ってしまう。
人づきあいが苦手。
大人しくて何でも聞いてくれそうだと思われる。

などなど、数々の悩みを持つ貂々さん。
それは、親から押し付けられた「人生にいいことなんて何もない、
だから絶望して生きなさい」(なんというひどい教えだ)という
価値感をベースに、必死に「あるべき姿の自分」「世間に
良しと思われる自分」を追い求めていたのが原因のようです。

自分に価値はない、という気持ちが根底にあるのであれば、
喜びや満足感も充分に得られることは難しいと思います。
自分の力でうまくいったとしても、たまたまだ、とか、相手が
よかったのだ、とか手放しで自分のことを褒めてあげられない
でしょう。

自分のことを認められないままの対人関係では、自分の本当の
気持ちを伝える事ができないですし、相手のことを理解するのも
難しくなると思います。

対人関係療法とは、病気は対人関係の中で起こり、また対人関係の
中で治るもの、という考えに基づいて行われる治療方法です。
この対人関係療法の観点から、貂々さんのネガティブな悩みを
解決していきます。

人との距離感や、自分は相手に対してこうあるべき、といった
考えが凝り固まってしまっている貂々さんに、ひとつひとつ
マンガと解説文でわかりやすく説明してくれます。

対人関係のコミュニケーションで起こるズレに
ついても解説しています。
間接的で曖昧な言葉、言葉を使わないコミュニケーション(態度)、
沈黙、などはズレが起こる原因となりやすいです。
これは家族などの身近な人にほどそんな対応をしがちなので
気をつけたいですよね。

例えば夫にイラっとする。まずその自分を認識する。
「自分、イラついてるなあ」と感じた上で、言葉を使って相手に
伝える。感情をぶつけるわけじゃないですよ!
こういう理由で嫌だから、こうしてほしい、とかしないで
ほしい、とか。
自分の例で言えば、余裕がある時は意識してできますが、テンパってくると
感情をぶつけてしまったりしています。
なんでしょうね、相手に対して甘えているのかもしれません。

付き合いが長くなればそんな風に考えながら相手と接する
ことを面倒だな、と思う部分も増えてきますが
ズレが重なっていくといつか大変なことになると思うので
ズレが生じないよう、心がけていきたいと思います。
対人関係や、自分のことに対してストレスを感じている方など
一度手に取ってみていただくことをオススメします。

 

ゆらゆらと揺れる水面の下で暮らすような

水声』の

イラストブックレビューです。

水声 (文春文庫)

水声 (文春文庫)

 1996年、わたしと弟の陵は、ママが死んだ部屋と、
開かずの間があるこの家に戻ってきた。
夢に現れたママに、わたしは呼びかける。
「ママはどうしてパパと暮らしていたの」。

f:id:nukoco:20180325124422j:plain

姉の都と弟の陵は2人姉弟。料理上手で朗らかな母と
いつもニコニコとしている優しい父親の4人家族。
1969年から1996年の30年間、姉弟の子供時代から
50代になるまでを描いた物語。

子供時代、都と同じ年の友達が毎年夏休みに
2週間ばかり一緒に過ごしたこと。
都と友達と陵の3人で飲んだジュース。
会社に勤めるようになってから、 地下鉄サリン事件
遭遇し、一歩間違えば自分が被害者になるところだった、
という経験を持つ陵。
時代を反映する出来事が各所に入り、そこが鮮やかな
色を持ってリアルに浮かび上がってきます。

そして、都が陵を見る目線が少しづつ変わって行く様子が
とてもこまやかに、描かれています。
弟として、生き物として、男として、特別と感じたり
男という存在自体が意味をなさないと感じたり。
こうしたある意味鋭いほど敏感な部分と、何かを
守るために頑なに、鈍感なまでに目を向けまいとする部分を
持ち合わせた都は、育ってきた環境が大きく影響しているのでは
ないかと思います。

開かずの間となっていた陵の部屋の壁には、いくつもの
落書きがあります。都と陵がふざけて書いたものです。
ちどり、たちばな、さんがいまつ、むかいばと、みます。 
どれも家紋であるところが象徴的です。
これは何を意味しているのでしょうか。

一家は仲が良いのですが、親子で血がつながっていなかったり、
父と母の関係も特殊です。彼らの生き様はゆらゆらと揺れる
水面の下で暮らすような、不安定さと心地よさを伴って
いるようです。壁に家紋を描いていたのは、家庭のフワフワとした
足元のおぼつかなさを埋め、しっかりとしたものを暗に望んで
いたせいなのかもしれません。
男と女が惹かれ合う理由をさまざまな角度から、
複雑な心の動きを伴って表現している静謐な物語です。

親子?友達?大好きで大切

ロボット・イン・ザ・ガーデン』の

イラストブックレビューです。

ロボット・イン・ザ・ガーデン (小学館文庫)

ロボット・イン・ザ・ガーデン (小学館文庫)


 
 

 

AI(人工知能)の開発が進み、家事や仕事に就くアンドロイドが
日々モデルチェンジする近未来のイギリス南部の村。
キャリアウーマンの妻エイミーと、仕事をせず親から
譲り受けた家で漫然と過ごす夫のベン。

ある日、夫婦が暮らす家の庭に、壊れかけた旧型の
ロボットが座っていた。名前はタング。
タングを治すために、ベンとタングはアメリカへと旅に出る。

f:id:nukoco:20180325124133j:plain

ベンとエイミーの夫婦は崩壊寸前。
獣医を目指して勉強していたベンは、挫折した後働くでもなく
再度勉強するでもなく、親の遺産でただ1日を過ごしています。
そんなベンにキャリアウーマンのエイミーは苛立ちます。
この夫婦のピリピリとしたやりとり!そしてベンの鈍感さよ!
こうやって夫婦はダメになっていくよね〜という見本のようです。

やがてエイミーは家を出て行ってしまいます。
残されたベンはタングといっしょに、タングを治すために
アメリカへと向かいます。時はアンドロイドが家事や仕事を
こなすというちょっと先の未来。さて、手伝いをしてくれる
アンドロイドはどんな扱いを人間に受けているのか。
この辺の描写がまことに興味深いです。

ある地域では大切な仲間として。ある地域では単なる
家電の一部のような。地域によって、またはアンドロイドと共にいる
人間によっても彼らへの態度は異なります。
アンドロイドに人権を認めるのか?という問題をソフトに
示唆しているようです。
日本は案外、すんなりアンドロイドの存在を認めるのでは
ないでしょうか。リアルドラえもーんとか言って、友達に
なりたい!という人は多そう。

ロボットのタングは、まるで小さな子どものようです。
つまらないと足をブラブラさせ、気に入らない事があると
キーキーと高い音を出して癇癪を起こす。
しかし、交わした会話から言葉を学習し、応用して使うという
まさに成長していく回路を持っています。

ニートで何もする気ねぇ、という体だったベンもひと目で
タングの事が気に入ります。男の子がロボットのおもちゃを
手に入れたような喜びだったのかもしれません。
何ひとつ自分で行動を起こしたり、考えたりすることのなかった
ベンが、タングのためにあらゆる行動を起こします。

出会った当初は通じてるのか通じてないのかよくわからなかった
ベンとタングもだんだんと意思疎通がはかれるようになってきます。
そうするとベンもタングが喜ぶために、タングのために何かしてあげたいと
考えます。完全に父親の心理になっていますね。
実際、よくやるなあと思うほどにベンはタングの面倒を
見ています。

物語の最初と最後ではタングはまるで別のロボットのようです。
自分のことしか考えられなかったのに、ベンやエイミーなど
大切な人の役に立ちたいと、行動を起こすようになったのです。
それはベンも同じ。ベンとタングは共に行動し、共に成長して
いったのです。二人の関係は親子のようであり、友人のようでも
あります。決まった枠では表現しきれないけれど、大好きで
大切。そんな2人の関係が伝わってくる、心がほっこりと
あたたかかくなる物語です。