ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

「生類憐れみの令」に隠された真意とは

最悪の将軍』の

イラストブックレビューです。

 

 

生類憐れみの令を制定したことにより「犬公方」と呼ばれ、その悪名が今に語り継がれる徳川の五代将軍綱吉。その真の人間像とはどんなものであったのか。諸藩の紛争、赤穂浪士の討ち入り、大地震、富士山の噴火。次々と降りかかる災難に立ち向かう男の生涯を描く。

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教科書に載っている徳川綱吉。生類憐れみの令を制定し、犬猫を粗末に扱うとたちまち
重罪というムチャな法律を作って施行した将軍というイメージがあります。そんな生類
憐れみの令が生まれた背景はどのようなものだったのか、徳川五代目ともなる当時の世の中の様子、そして、綱吉本人はどのような人物であったのかを描く物語です。

綱吉は4代目将軍家綱の弟に当たります。次代将軍は甲府藩主である松平綱豊が有力と
されていました。やがて家綱が病のため身罷り、次の将軍を決める話し合いの中で、思いがけず綱吉を将軍に、という話が持ち上がります。

当時は病弱な家綱のもと、家臣たちが采配を振るいはじめ、己の思うままに国を動かし
ていました。そんな中、国の先行きを心配した新参の老中、堀田が綱吉を将軍に、と
発言します。病床の家綱からの書も受けていると。武よりも文を得意とする綱吉に、
国を治めるには力不足とそしる老中たちに、水戸藩主の光圀公がピシャリ。 その場を
収め、綱吉が次代の将軍となることが認められます。

綱吉は、先代将軍が亡くなった後の喪に服す期間を、それまでの慣例よりも長い期間を
設けたことをはじめとして、次々と「これまでのやり方」を変えていきます。例えば、
それまで交代制としていた役人の仕事も専任制としました。そうすることで一連の流れが良くわかり、責任感も生まれ、新たな対策を講じやすいというメリットがありました。以前は、ある程度の期間を過ぎると交代してしまい、引き継ぎがうまくいかなかったり、この期間までやればいい、という無責任な考えをするものが多かったのです。

その中でできたのが生類憐れみの令です。徳川の時代になってから、戦は無くなりまし
たが、親が子を捨てる、子が親を捨てる、そして職を失った浪人たちが人を斬る、など
といった事態が後を絶ちませんでした。人の命が軽過ぎる。綱吉はそのことを問題視し、生きるもの全ての命を大切にするべきだとして、生類憐れみの令を制定したのです。

プライベートでも子供のために犬を飼い、子が犬を可愛がる様子を見て目を細めている
綱吉は、妻と子供を愛する良き父親でした。正室の信子、側室の伝、そして綱吉の母、
桂昌院との関係はとても良く、風通しの良い間柄であったようです。特に、頭の回転が
速い信子との会話を、綱吉は楽しんだようです。

綱吉が五代将軍となってからは、夫婦はそれまでのように頻繁に会話を交わすことは無くなりますが、折に触れ将軍の様子を気遣う信子もまた、綱吉の意図を汲み取り、新しい大奥を築いていきます。天真爛漫な義母、桂昌院とのやりとりも、信子の知性と気遣いが的確で安心して見ていられます。タイプは違いますが、どちらの女性も魅力的です。

綱吉は穢れを嫌い、清くあろうとした人間です。時に厳しく、周囲にも同じように清く
あるように求めてきました。そのことが横暴であるとか、一方的であるというように
伝わるのは、その真意が末端まで達していなかったからのようです。勤めるうちに腹心の臣下を失い、仕事上での真意を言い合う相手がいなくなるという孤独の中で、ひたすらに国全体へ目を向けていたのです。

一方で、外国人を城に招き、気の利いたやりとりをして見せたりもします。未知のものを排除するのではなく、好奇心を持って、良いものは得ていこうという貪欲な部分見せたりすることも。真面目で固いばかりではないのだな、と意外な一面をみせてくれたりもします。

綱吉の時代には、諸藩の紛争、赤穂浪士の討ち入り、地震、富士山の噴火など世の中に
厄災が多く起こりました。その対処を見る限り、温情なくバッサリだなと思う部分もありますが、今後同じようなことが起きないように断ち切る、という意図を知れば、適切であったことがわかります。世間に伝わるのはその「バッサリ」の部分だけなのですが。そして災害に対しては、できうる限りの対策を講じています。

「最悪の将軍」と呼ばれた男は、誰に何と言われようが構わずに、民を守るということに心血を注ぎ、強い覚悟を持って江戸の礎の一部を作った人物でした。教科書からは見えてこない、時代の一部を築いた人物の生き様から、国を統べることの視点や心の有り様が見えてくる瞠目の物語です。

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瀬尾さんの手にかかると家族エッセイも物語風味に

ファミリーデイズ』の

イラストブックレビューです。

 

 

中学校の教師を務めてきた著者は40歳を目前にして予定外の妊娠&出産。やんちゃで元気いっぱいの娘、のんきでマイペースな夫とともに送る日々の生活や、かつての教え子や恩師たちとの交流を描く、心がほっこりと温かくなる家族エッセイ。

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結婚式では感動しきりの夫が涙を流し、横では新妻が教壇に立つ教師のごとく、場を取り仕切った挨拶をする。結婚してからは夫の朝の過ごし方に驚き、誕生した娘の成長に目を細め、時に不安にかられてネットで情報を探しまくる…。

あたたかな心の交流を書かせたら天下一品の瀬尾さんの、はじめてのエッセイです。
のんびりとした旦那さんと、教師としてテキパキする瀬尾さんの対照ぶり、加えてどちらに似たのか?というほど片時もじっとせずに精力的に動き回る娘さんの三人家族をいきいきと描きます。力の抜けた文体でありながら、人物それぞれがくっきりとした形を持って存在していて、彼らの鼓動や息遣い、熱量まで感じられるようです。

ナチュラルに過ごしているのになんだかおかしなことになっていて、クスリと笑ってしまうエピソードが散りばめられ、笑って心のガードが緩んだところに、目元がうるっときてしまうようなエピソードがスッと入ってきます。これはもう、物語の様相を呈していますね。それがちっとも嫌な感じがしないのは、瀬尾さんの、家族という近しい存在をじっくりと眺めているのに、一歩引いたようなフラットな視点を感じるからでしょうか。それでいて、冷たくなく、包み込むような広さと温かさを感じるという。

教師をしていた瀬尾さんならではの、教壇の上から生徒たちを眺めている、そんな目線なのかもしれません。生徒たる中学生への愛情もハンパないです。自分にとっては中学生とは自分自身の当時の記憶を含め「メンドくさい」イメージが大きいですが(もちろん可愛い部分もあるけれども)瀬尾さんは違います。不完全で不安定な彼らのちょっとした変化を、喜び慈しんでいるのです。

なんというか、人間というものが好きな作家さんであるのだなということをつくづくと
感じます。今日という日を見つめていると、昨日と異なる変化に気づく。子供はそうした変化が著しく、それが成長なのであり、著者が喜びや楽しみを感じる部分なのでしょう。

まっすぐと加速する子供の変化、緩やかな大人の変化、そしてそれそれが変化した上で
重なっていくグラデーションが、心地よく読む者に浸透していくのです。はじめての子育てでテンパり不安と緊張でトゲトゲしていた自分、自分の価値観を押し付けてくる大人にイラついていた中学生の自分に対して、いいんだよ、と頭をなでられているような、隣でニコニコと見守ってくれているような、そんな気持ちにさせてくれる文章です。

いい年になったおばちゃんの、そんな素直な部分を引き出してくれるとは、やはり凄腕の中学校の先生、いや、作家さんです。軽い読み心地ではありますが、笑いあり、涙あり、じっと余韻を楽しみたくなるような胸の震えありの、まるで物語のような一冊です。

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苦手なものに挑むことでそれまでと違う自分に出会える

サカナ・レッスン 美味しい日本で寿司に死す』の

イラストブックレビューです。

 

 

ある日、キャスリーンは「魚料理をするのがこわい」という日系アメリカ人女性に出会う。日系人でありながら、魚を恐れる自分に落ち込む女性に同情するとともに、魚料理が欠かせない日本に魚料理怖さ克服するヒントがあるのではないかと考え、キャスリーンは夫とともに日本へやってきた。苦手な魚と向き合い調理し、その性質を理解することで昨日までとは違う自分に出会えることを描いたエッセイ。

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「ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室」の著者であるキャスリーン・フリンが日本を訪れ、日本における魚の調理方法、魚に対する知識や文化を目にし、体験したことを綴ります。

きっかけはある日系アメリカ人女性が発した「魚料理をするのがこわい」という一言。
確かに、肉料理に比べて扱いが面倒なように感じます。雑に扱うと身がほぐれてしまい
ますしね。そして魚をおろすというのも敷居が高い。まるごと一匹の魚を買って自分で
おろしたのはもう何十年も前のこと…。そう、海に囲まれ、こんなにも多様な魚介類を
食べている日本人の私たちですら、自分で魚を調理することに対して、「ちょっと面倒
だな」などと考えてしまうのです。

フランスのル・コルドン・ブルーを卒業したキャスリーンですが、日本の魚の調理に
関しては驚きの連続だったようです。新宿のスシアカデミーで、魚を選ぶポイントから
下ろし方、締め方などの知識を学び、「マジックのようなテクニック」と評しています。講師が述べていた言葉が印象的です。

「魚の下準備を見ることで、生徒たちは食べ物に対して感謝する心を育みます。だから、よりちゃんと食べるようになるんですよ」と彼は言ったのだった。
「自分ですべてやらないにせよ、食べ物の準備にかかる手間を理解すれば、無駄にはできなくなるよね」

そして、移転前の築地も視察。猛スピードで行き交うターレと人、乱雑なようでいて
機能的に運営しているその様子をライブ感いっぱいに描きます。業者以外が入ることの
できないエリアで交わされるやりとりに、ワクワクします。本を通して社会科見学をしているようです。そして、アメリカでは食べるものだと認識されていなかったマグロを
アメリカからの復路便の飛行機で空輸できるようになった出来事など、興味深いトピックもはさみます。

見学の後、築地場外で食べた寿司に舌鼓…とここでトラブル発生。口腔内が人より狭い
キャスリーンは、なかなか噛みきれない生きたイシガキガイに悪戦苦闘。生の魚介類が
苦手な欧米人がまだまだ多いと思われる中での健闘ぶり拍手を送りたい。いやあ、大変
でしたね。

ある時は、知り合いの日本人男性のお宅にお邪魔して、夕飯をご馳走になります。
日本の魚焼きグリルを見て興奮するキャスリーン。これって日本独特のものなんですね。秋刀魚ご飯、秋刀魚の梅煮、刺身、里芋の唐揚げ、イカとゴーヤの炒め物、野菜の煮浸し、そして秋刀魚の寿司。作ってくれたクンペイとその家族の心と美味しい料理の味が、キャスリーンの心に深く染み渡っていきます。料理を通して、言葉以上に伝わるものがあることを教えてくれているかのようです。

こうして、日本であらゆることを吸収したキャスリーンは、自分の中で燻り続けていた
ことに、改めて目を向けます。大切にしていたものを失った悲しさに向き合い、悲しんでいる自分を認めてあげるのです。そうすることができたのは、苦手としていた魚に挑戦し、その性質や美味しく食べるための方法を学び、適切な下準備をすることで、新しい美味しさと「手をかける」ことを厭わない、今までと違う自分を得たことを感じられたからではないでしょうか。

キャスリーンから見た日本への視点は、私たち日本人が日頃何気なく口にしていた
魚料理の美味しさの意味や、そうしたものが食べられることのありがたさ、綿々と続いてきた魚に対する認識や文化を改めて気づかせてくれます。自分がそうした環境で育ったことに感謝を覚えつつ、自分ももっと魚と関わる機会を増やしていきたいと思わせて
くれるエッセイです。

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強くてしなやかな女子的生活に幸あれ

女子的生活』の

イラストブックレビューです。

 

 

アパレル勤務のみきは、おしゃれをしたり、インテリアに工夫をしたりして「女子的生活」を楽しんでいた。ある日、マンションの部屋の前に不審な男が座り込んでいて…。
マウンティング、モラハラ、毒親。次々と立ちはだかる強敵に、みきは立ち向かう。

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季節に合わせた柔らかい素材のブラウス、自慢の足を出したキュロット。メイクは洋服と合わせるか、流行の色にするか…。とあれこれと悩む、一般的な女性として日々の生活を楽しむみき。そんな彼女には、特に隠してもいないけれど、改めて公にもしていないことがあったのです。

と、ちょっと匂わせながら物語は進んでいきます。案外その「こと」はすぐに判明するのですが、そこからはて、みきはどのようにして日々を過ごし、人間関係を築いているのだろうか、そして家族とはどうなっているのだろうか、と次々と疑問が出て来るのですが、そうした面も話が進むにつれ、少しずつ判明してきます。

まずはマンションの部屋の前に座り込んでいた男は、かつての同級生、後藤でした。
友人の借金取立てのとばっちりを受け、家に帰れず、かといって実家にも戻れないので、泊めてほしいと言うのです。みきの「こと」を知った上で、後藤とみきは同居をはじめます。みきの後藤に対する友情というか、同情に近い状況ですね。

みきの日常は戦いにあふれています。合コンに出れば、手作り礼賛的な女子アピ最強な
女性に何故か気に入られ、挙句その女性の婚約者にマウンティングされ…
女子同士の分析、闘い方など、細やかに描かれていて、恐ろしさを感じます。いや、
全ての女子がそうだという訳ではないことはわかりますが、こういう好戦的な女子たち
も確かにいそうだよなぁ…と思うくらいリアルですし、体温を感じます。

状況判断の冷静さ、相手の出方を窺う狡猾さ、出過ぎず、かといって大人し過ぎず。
いろんな方向にアンテナが向く女性ならではのやりとりが満載です。みきの場合、
彼氏が欲しいと強く思っているわけではなく、どちらかというと、そうした女性の
生態を観察し、そこに入り込むことを楽しんでいるようです。

物語全体のベースとして、トランスジェンダーセクシャルマイノリティという問題が
あります。周囲からの好奇の目、無意識に発せられる差別発言。決して明るく歓迎され
る訳ではないその空気感に、読む側も息苦しくなってしまいます。

しかし、性別や恋愛観といったカテゴリによってその人間の人格を否定することは間違っている。そう考える人間が近くにいれば、まだ戦い続けることができるものなのかもしれません。ごちゃついてまとまりのない、でもきらびやかで気分がアガる。そんな女子的生活もまた、戦うためのパワーを蓄える大事な要素になるのでしょう。強くてしなやかな「女性的生活」に幸あれ。

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創造と芸術の女神が男に与え、そして奪ったものとは

『ばるぼら』の

イラストブックレビューです。

 

 

小説家、美倉洋介は、耽美派の天才として名声をほしいままにしていたが、自分の欠陥部を隠して生きてきた。ある日、新宿駅で奇妙な女、バルボラを拾い、同居をはじめる。アルコール依存症で自堕落なバルボラだが、美倉のミューズとして、その存在は大きくなっていく。やがて二人に別れの時が訪れて…。

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1973年から1974年にかけてビッグコミックで連載された手塚治虫によるゴシック・ファンタジーです。本書は1996年12月に上下巻として刊行された角川文庫を改版し、合本された新装版となります。

耽美な文章を書き、人気作家である美倉は、新宿駅で座り込んでいた、薄汚れた女性を
連れて帰ります。彼女の名はバルボラ。アルコール依存症で、自分勝手に振る舞う彼女と一緒にいると、不思議で奇妙な出来事が次々と美倉に起こります。

気に入ったデパートの女性店員の正体、美しい犬を連れた美しい飼い主との逢瀬、死んだはずのかつての恋人との出会い。神のいたずらか、美倉自身がもたらす幻影なのか。美しくも怪しい、非現実的な世界が展開していきます。

バルボラの存在により、創作意欲が掻き立てられた美倉には多くの仕事が舞い込み、その名声を利用しようと近づく者たちが後を絶ちません。中でも政治的に美倉を利用しようとする輩にバルボラは強い拒否を示し、絶対に政治に関わってはいけない、と美倉に告げます。そして、ある事件から、バルボラはヴィーナスであり、才能ある者に近づくのだ、ということを美倉は知ります。

薄汚いアルコール依存症女から美しい女性へと変身を遂げたバルボラに、美倉は結婚を申し込みます。しかしながら二人に別れが訪れるのです。

人間の生き方としては破綻しているバルボラの姿を見て、創作の意欲を刺激される美倉。そして、才能ある者には、あらゆる世俗的な罠が待ち受けています。バルボラはそうしたものから美倉を守ろうとしますが、守りきれない部分が出てきてしまうのです。

創作と芸術という世界はどのようなものなのか。溢れる才能というものは、神によるものなのか、それとも悪魔の仕業なのか。創作の世界ではなく現実の世界に目を向けた途端に、手をすり抜けていくミューズ。創作に携わる人々にとっての創作物は、そんな存在であるのかもしれません。

どこまでも深く、その世界を追求し、後ろを決して振り返らない。そうした覚悟はできているのか、とミューズは常に問いかけているようです。覚悟ができない者からはなけなしのアイデアまで根こそぎ奪っていってしまうのです。「芸術」という名の人間の深淵を、幻想的に、そして哲学的に描いた読みがいのある漫画です。


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信長という「光」の陰で生き、死んでいった者たちのドラマ

信長嫌い 』の

イラストブックレビューです。

 

目の前にあった天下を取れなかった今川義元、戦の魅力に取り憑かれた真柄直隆、ひたすら逃げ続けた六角承禎、将軍殺しの悪名とともに生きた三好義継、戦を好まず何よりも茶を愛した佐久間信栄、老体にムチ打って仇を狙う伊賀忍百地丹波、祖父の影を追い続けた織田秀信など、名将・織田信長に苦しめられた者たちが懸命に生きる姿を描いた群像劇。

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戦国時代のヒーロー、織田信長。もはや伝説のような神がかった発想と勝機を持った稀代の名将である人物です。その周囲にいた敵や味方はどのような人物たちで、どのように生き、死んでいったのか。彼らを描く事で、織田信長という人物、戦国という時代が浮き彫りになっていくような物語です。

織田に敵対する大きな対抗勢力であった今川義元。織田軍よりも規模が大きく優って
いますが、そこに油断が生じ、大きく数を下回る織田軍から予想外の攻撃を受け、敗れてしまいます。男同士のプライドやマウンティングが飛び交うやりとりに息苦しさを感じます。

戦でひと旗あげて後世に名を残す。そんな目標を抱いている人間もいます。この世に生を受けたタイミング、織田との関係性から長らく戦の現場に立つことのなかった真柄直隆は、どうにかして戦に出て、活躍したいと考えています。ともすれば勇み足になりがちな直隆の行動を息子の隆基が諌める、というパターン。そしていよいよ待望の戦の機会が訪れたとき…。

血筋を利用し、婚姻や人質を利用して家の存続を目指す。難癖をつけて戦に持ち込まれる、とにかく生きて逃げのびる。戦にはとことん向かないが、指示をする立場に生まれてしまった者の悲哀。かつて忍として名を馳せた頃を忘れられず、老人となった今、改めて織田信長の命を狙おうと再び訓練を始める忍び。亡き祖父、織田信長にそっくりだと言われ続け、その祖父の思いを理解しようと努力する孫。

それぞれにカッコ良かったり、滑稽であったり、悲しい人生を生きている姿が、熱を
持って描かれています。家の事情、上司からのパワハラや自身の思い込みなど、現代を
生きるわれわれにも通じるものが多くあります。彼らの共通点は、全力を尽くして生き、自分たちの生きる意味を知り、最後を遂げていったことです。

織田信長という強烈なカリスマに関わってしまったことで、人生が大きく変わることに
なってしまった彼ら。情けなかったり、諦めようとしたりと人間臭い部分を出しつつも、自分だからできることにフォーカスし、そこに全力を注ぎ込むのです。

教科書にもとりあげられることの少ないような彼らが、体温と息遣いを持って現れ、戦
という場以外の場所でも喜んだり苦しんだりしている姿を見せてくれます。それは、現代という戦の場を生き抜くわれわれにも、ヒントと勇気を与えてくれる。そんな物語です。


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複雑に絡み合った線が一気にほどける快さ

青光(ブルーライト) 』の

イラストブックレビューです。

 

青い電飾が死体のそばに撒かれているという連続殺人事件が、東京を震撼させていた。
同じ頃、作家であり、ブルーライト探偵社所長でもあるユナのもとに、女友達の秋子から助けを求めるメールが届く。一方、探偵社で依頼を受けた身辺調査が、連続殺人事件と奇妙なつながりを見せて…。

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アラフォー、バツ2の主人公、ユナ。小説家だけでも何とか食べていけるが、かつての
担当編集者であり、ブルーライト探偵社を立ち上げた相談役の高橋からの提案で、探偵
所長を務めることになったのです。1人目の夫は失踪、2人目の夫は事故死。ともすれば
塞ぎがちなユナを慮って高橋が采配してくれたようです。

探偵社に身辺調査の依頼が入ります。依頼者は著名なネイリスト、調査対象は婚約者の
男性。もと野球選手で現野球解説者、バツイチである彼の周辺を調べて欲しい、との
依頼でした。優秀な探偵スタッフたちが調査して特に問題はなかったようです。

そして、ユナのもとに届いた一通のメール。友人の秋子からで、タイトルに「助けて」
とあり、本文はなし。家族には旅行に行く、と言って出かけたようなのですが…。

一方、警察では都内で起こる連続殺人事件の捜査に手間取っていました。現場や
殺害された人間たちの関連性が見出せず、目撃情報もないため、苦戦を強いられて
います。そこへ、殺人事件とそっくりな描写がある小説があるという情報が入ります。

身辺調査、友人の失踪、連続殺人事件と、3つの舞台が進んでいきます。
それそれが緊張を伴う展開ですが、はて、これらはどのようにつながっていくのか?
と頭に疑問を思い浮かべながら読み進んで行く状態です。ところどころに、犯人の
ノローグなどが入り、そこは明らかになるのですが、事件全体を眺めてみると
どの犯人?となってしまうのです。ああああ、これ以上はネタバレになるので控えます。

事件の展開、少しずつ明らかになっていく関係者の過去や人間性。これだけ複雑に
絡み合っていながらも、読者を混乱させることなく、最後まで力強く引っ張っていく
描写はさすがです。そこが繋がってたのか!と謎が解明した瞬間の気持ち良いこと。

そして、ラストは事件が解決して終了、ではなく、登場人物たちがそれぞれに、これ
までの生きてきた人生で消化できていなかった部分を清算するような形。それが、
サスペンスミステリーでありながら、人の人生の一部を垣間見たような、深い感慨を
覚えさせてくれる物語です。


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