ぬこのイラストブックれびゅう

雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

心に沁みる 食卓の景色

ぶたぶたの食卓 (光文社文庫)』の

イラストブックレビューです。

ぶたぶたの食卓 (光文社文庫)

ぶたぶたの食卓 (光文社文庫)

 

 

見た目は愛らしいぬいぐるみだが、中身は心優しき中年男・山崎ぶたぶた
彼が作る料理は、どこか懐かしく切ない思い出の味だ。
大好きだった祖母が作ってくれたチャーハン、遠い夏休みの記憶を喚び
起こすかき氷…それらが、傷つき疲れた人々の心をときほぐし、新たな
一歩を踏み出す勇気を与えてゆく―。
心の奥をほんのりと温めてくれる、傑作ファンタジー。

f:id:nukoco:20170625163750j:plain

ぬいぐるみが主人公、必ず食にまつわる物語、というしばりがありながら
シリーズはもう20冊近くも出ている。
こういったファンタジーものも嫌いではないので、買ってはみたものの
まさか10冊以上買い続けるとは思わなかった。

このぬいぐるみのぶたぶたさん、見た目がほんとにかわいいぶたのぬいぐるみ。
そして中身が節度ある、とてもやさしい中年男性なんです。いいですね。

料理にまつわる物語ですから、まずはぶたぶたさんが何か料理を作ります。
その料理する姿を見て登場人物は驚き、周囲の人がナチュラルに彼に
接している事に2度驚き、そしてかわいい見た目に反してとても常識的な
思いやりのある中年男性であることに3度驚くわけです。

これはどの話でもパターンとして出てくるのですが、不思議と飽きない。
きっと登場人物の年齢や性別、生きてきた環境が違うために、ぶたぶたさんを
見た反応も千差万別だから、ということなのでしょう。

今回のぶたぶたさんはさすらいの料理人よろしく、料理教室の講師をしたり
カフェのマスターをしたり。

なかでも印象に残ったのは、祖母が作ってくれた思い出のチャーハンの話。
若いOLがふと入った中華屋で思い出の味に出会う。このチャーハンの味を
提供してくれたのは・・・ ぶたのぬいぐるみ。

ぶたぶたさんにチャーハンのレシピを教えて欲しいとお願いしたところから
祖母の空白の期間が明らかになってくる。そして、祖母がOLの彼女と、彼女の家族を
広く、心から大事に思っていた事も。

心のちょっぴりひりつく部分を、やさしく手当てしてもらっているような
そんな気分にさせてくれるファンタジー。
20代のOLから50代のサラリーマンまで、幅広い年代に楽しめる作品です。

「また作って!!」と言われるおやつたち

おやつですよ―くり返し作るわたしの定番レシピ集』の

イラストブックレビューです。

おやつですよ―くり返し作るわたしの定番レシピ集

おやつですよ―くり返し作るわたしの定番レシピ集

 

 

この本のおやつは、実際の作業時間が15分前後の簡単なものばかり。
寝かせたり冷やしたりする間は、お風呂に入ったり本を読んだりして、
日々の暮らしの中で気楽に作れるお菓子のレシピ集。

f:id:nukoco:20170625163517j:plain

お菓子本ではベストセラーとなった『まいにち食べたい“ごはんのような”
クッキーとビスケットの本 』の著者であるなかしましほさんが手がけた
手軽なおやつのレシピ集。

A5版というやや小さめの判型ですが、時代に流される事なく長く売れて
いるレシピ本て、意外とこの大きさだったりします。その昔は、レシピ
の文字組みが3段だったりして。

その流行を追わない、そしてお菓子そのものもスタイリングも素朴で
懐かしく、作り方もシンプルというのがとても好ましい。
個人的に甘いものは好きではありません。
しかし、お菓子づくりは焼いた後や、冷やした後の形状の変化が楽しいので
結構好き。でもレシピ的に甘すぎるとやはり食べ切れなくて・・・

こちらのレシピは、砂糖の量もそんなに多くはないと思います。
口の中に甘ったるい風味が残るのが嫌なのですが、さっぱりと
いただけるものも多いかと思います。

個人的には粉のおやつの項が好きで、全粒粉のパイ、バタークッキー、
たまねぎビスケット、モカロールにチャレンジ。
子どもたちはうんうん、と言いながらもくもくとたいらげていました。

それぞれのレシピについて、ちょっとしたエピソードがついていて
こちらも楽しい。中でも、思い出のおやつで母親がこんなときに
作ってくれて・・・ なんて話が出るとほっこりします。

そしてスタイリングが全体的にセピアっぽい。暗くはないです。
落ち着いていて、午後の日差しがダイニングに伸びているような
なんとも懐かしい雰囲気。

手にとって眺めているのも良し、食べたいレシピに挑戦するも良し。
肩肘張らずにのんびりと、作る楽しみも感じられるレシピ本です。

がんばれ書店員!素直にエールを送りたい

書店ガール (PHP文芸文庫)』の

イラストブックレビューです。

書店ガール (PHP文芸文庫)

書店ガール (PHP文芸文庫)

 

 

吉祥寺にある書店のアラフォー副店長理子は、部下亜紀の扱いに
手を焼いていた。協調性がなく、恋愛も自由奔放。
仕事でも好き勝手な提案ばかり。一方の亜紀も、ダメ出しばかりする
「頭の固い上司」の理子に猛反発。そんなある日、店にとんでもない危機が……。
書店を舞台とした人間ドラマを軽妙に描くお仕事エンタテインメント。

f:id:nukoco:20170625163043j:plain

 

書店員のお話、というのはいろいろとあると思うのだけれど
この『書店ガール』は、自分にとって共感度がすごく高い。
副店長、新人、アルバイトなどなど、特に誰にというわけでは
ないが書店という職場、それぞれの立場、働き方・生き方に
深く納得してしまうのです。

もと出版社勤めとしては、比較的版元寄りの目線で見て
おります。書店営業も経験しましたが、この業界、好きじゃ
なきゃやってられませんよ!

新刊が毎日どしどし入ってきて、棚の入れ替え、返品業務、
受注発注で体は使うわ、お客様には気を使うわ。

気力・体力共に大変なお仕事でもありますが、売上が出せず
ビルから撤退の危機・・・ というのは某新宿紀伊国屋書店
南口店を思い出します。

それでも副店長、理子はなんとかしようと奮起するわけです。
そんな事情を知らないはねっかえり娘の亜紀との衝突も見ものです。
イデアを豊富に持ち、実行するパワーを持つ亜紀、そして運営側
から冷静に判断し、時にストップをかける理子。

女性ならではのかんぐりも多少発生しますが、それでもいやな印象を
受けないのは、共に『本が好き、書店が好き』という強い気持ちを
持っていることがビンビンと伝わってくるから。

こういう気の強いパワフルな子が部下にいると、面倒だけど
おもしろい企画をどんどんやれそうだな、と思わせてくれるので
どちらかといえば理子に気持ちが近いかな。年代も近いし。

そして2人を隔てる壁がとっぱらわれた時。
ともにプロジェクトを達成した同志として、深い絆が生まれます。
困難な仕事を乗り越えた後ほど、信頼度が高まりますよね。
そこが感じられるのもいいんです。

たまに、つらいのに、なんでこんなことやってるんだろうと
思うこともあるけれど、障害があるからこそ自分がこの仕事が
『好き』ということに気付けるんですね。

『がんばれ諸店員!』と素直にエールを送りたくなる、
そんな物語です。

読んだら速攻 行く店と日にちを決めよ

東京無敵のビールめぐり』の

イラストブックレビューです。

東京無敵のビールめぐり

東京無敵のビールめぐり

 

 

 誰もが愛する正統派のビアホールから銭湯帰りの一杯、
各国ビール飲み比べ…
東京でとにかく美味いビールを飲める場所30軒を巡る!

f:id:nukoco:20170625162707j:plain

 

暑い季節は外で飲むのが好き!

寒い季節には、暖房がガンガンに効いたお店で
ビールをぐいっとやるのも好きです。

こちらは東京都内でビールがおいしいお店をイラストエッセイで
紹介しています。

ビアホールに居酒屋、ブックカフェに地ビールを出して
いるお店まで。その形態は多種多様です。

ライオン銀座店なんかも載っています。自分は東京に住んで
20年以上になりますけれども、まだ行った事がない!
銀座ではないですが住まいのわりと近くにも店舗が
あるというのに!!

老舗ビアホールのおつまみメニューはポテト!ソーセージ!
肉!ピザ!・・・と『ビール持ってこーい』となるものばかり。
イラストでも本当においしそうなんです。

そして、何よりビールがね。注ぎ方にさすがのこだわりが
あるとのことなのでぜひ飲んでみたい!

ほかには下町酒場めぐりと称して居酒屋を紹介しています。
ここで『赤星の法則』というものが。サッポロの赤星ラベル
ビールを置いている店には基本的に美味いものが置いてあるそうな。
赤星ラベルとは、熱処理ビールのこと。現在ではほとんどのビールが
『生』でありろ過方法をとっているため、熱処理はしていない。
熱処理を加えているビールはキリンクラシックラガー
こちらのサッポロ赤星ラベルくらいらしい。ろ過していないので酵母のうまみが
残るようです。

うーん、美味いビールに美味い酒。最高の組み合わせですよね。
思わず長居してしまいそう。

こんな魅力的なお店が、2人のイラストレーターの食欲&飲みたい欲を
そそるイラストと、詳細な説明で紹介されています。
ビール自体の説明や、各国ビールの銘柄、そしてビールと組み合わせたい
おつまみなど、ビール好きなら喜ぶ情報が盛りだくさん。

ちょっと友人に連絡して、暑気払いの計画立てようかしら。

ヤクザは人々を癒す楽園を作り出すことができるのか?

プリズンホテル〈1〉夏 (集英社文庫)』の

イラストブックレビューです。

プリズンホテル〈1〉夏 (集英社文庫)

プリズンホテル〈1〉夏 (集英社文庫)

 

 極道小説で売れっ子になった作家・木戸孝之介は驚いた。
たった一人の身内で、ヤクザの大親分でもある叔父の仲蔵が
温泉リゾートホテルのオーナーになったというのだ。
招待されたそのホテルはなんと任侠団体専用。人はそれを
「プリズンホテル」と呼ぶ―。

f:id:nukoco:20170625162319j:plain

この本は、読み終わるまでにすごく時間がかかった。
その理由は最初のくだり、作家である木戸孝之介が身の回りを世話
してくれる女性と、愛人に対する仕打ちがひどいため。
気にいらないことがあると、すぐに殴りつけるのです。
その気に入らない理由も自分勝手すぎるし。

強烈な不快感を覚えて、どうも先に読み進めず全体の3割ほど
読んだ後、3ヶ月ほど放置。
最近ようやく手にしてまた読み始めたら、これがまたおもしろいこと!

ヤクザが運営するヤクザだらけのホテルに放り込まれた、実直・誠実な
元一流ホテルの支配人、そして一流のフランス料理人。
彼らはおかしなホテルに放り込まれた事に戸惑いを感じつつも、自分の
仕事を全うしようと努力します。

ホテルの宿泊客や新たにホテルの従業員となった者達、いわゆる堅気と
そうでない人たちのやりとりがズレており、
微妙な可笑しさを発生させて、つい笑ってしまうのです。

中盤以降は、木戸孝之介よりもこうした周囲の人々との人間模様に
焦点が当てられていたので読み進めることができたようです。

それから、興味深いのはヤクザの礼儀。いわゆる「仁義を切る」という
挨拶についてもきっちり描写されていて、なんだか戦国時代の武将たちが
戦いに挑む前に互いに挨拶をしている姿のようだなと思いました。

アクの強い登場人物たちがところ狭しと動き回る様子は、舞台を見ている
ようで一気に引き込まれます。
ただ、本当に木戸孝之介がクズすぎて好きになれない(苦笑)。
でもそれこそが作家、浅田次郎の罠にまんまとはまっているわけなんですがね。

彼はクズになってしかるべく過去を持っています。
2巻以降では徐々に、彼なりに更正していく描写がでてくるようです。
どこまで彼に共感できるかが作家の腕の見せ所でしょう。
もちろん、私は単純なので、すっぽりはまってしまうとは思うのですが。

すばらしく楽しい、エンターテイメントヤクザ小説です。
2~4巻までは正月にでもゆっくり読むか、それとも年末までに
夜中お酒を飲みながらじっくり読むか・・・
うれしい悩みです。

最悪な状況下での最適な結末

ラスト・ウィンター・マーダー (創元推理文庫)』の

イラストブックレビューです。

ラスト・ウィンター・マーダー (創元推理文庫)

ラスト・ウィンター・マーダー (創元推理文庫)

 

 

 連続殺人鬼を父に持つジャズが、ニューヨークで起きた
新たな連続殺人事件に巻き込まれる、シリーズ完結作。

f:id:nukoco:20170625161845j:plain

ニューヨークでの殺人犯を突きとめ、犯人に銃で撃たれたところを
父親に助けられるジャズ。親子の最終決戦へのゴングが
鳴り響く。

傷を負い、殺人事件の容疑をかけられたまま、ニューヨークから
最終決戦の場へと向かうジャズ。

痛手を負っている自分の体、そして何よりも、最愛のガールフレンド
コニーにまで傷を負わせてしまったショック。
心も身体もボロボロになりながらも、殺人事件の連鎖を止めなければ
ならないというジャズの信念は、人を殺す悪魔のささやきを常に
耳にしながら、それをふりきろうとする必死の行動なのだろう。

そして、ジャズの幼い頃のぼんやりとした記憶。
この正体を知ったときに、『ああ、神様!』と思わず天を仰いで
しまう。

こちら側に必死にしがみついている彼の最後の砦が、もろくも
崩れる瞬間がそこにはある。それでも彼は、こちら側にいようと
いう意思を捨てなかった。それは、悪魔との取引に彼が勝った
瞬間なのだ。

その意思の選択は、殺人者としての教育を受けた生い立ちを
考えれば、彼を高く評価するべきだ。たとえ、それを選択するに
ともなった行為によって誰かが生死に関わる事態を迎えたとしても。

子供の頃の記憶というものは、かくも人を深く傷つけるものなのか、
とため息が出る。サイコパスである連続殺人鬼である父親、彼は
息子に殺人教育を施しながら、彼なりに息子を愛していると
いうことがひしひしと伝わってくる。と、同時に、このようにしか
愛せないのか、と同時に困惑もする。

ラストはハッピーエンドとは言えないかもしれない。
しかし、最悪な状況のもとで、最適な結末を迎えたと言えるだろう。
主人公のジャズの肩をたたいてあげたい。
かける言葉は見つからないけれど。

作家とともに時を紡ぐお菓子たち

作家のお菓子 (コロナ・ブックス)』の

イラストブックレビューです。

作家のお菓子 (コロナ・ブックス)

作家のお菓子 (コロナ・ブックス)

 

 

 谷崎潤一郎吉行淳之介野坂昭如、大村しげ、ナンシー関
水木しげるなど、作家たちが愛したお菓子と、それにまつわる
エピソードを紹介。

f:id:nukoco:20170625161506j:plain

なかでも印象的だった記述は大村しげという随筆家の章。
章のタイトルは『甘いもの嫌いが選ぶ京ならではの甘味』。

本人の文章のなかでも

『わたしはいまでも甘いもんはきらいで、お菓子が大好き
というから、笑われる。それでも、ほんまのお菓子は、
甘さを殺して、殺して作ってあるので、少しも甘いことはない。
のど越しがようて、あとにあずきのかおりがほーっと口に残る。』

この表記に強い共感を覚えたのです。私も甘いものは苦手。
でも『さっぱりと甘くておいしいもの』は好き、というめんどくさい
感覚の持ち主なのですが、大村しげさんがわかりやすく
言葉にしてくれました。

そんな彼女が好んだのは味噌松風に焼き芋、胡麻が香ばしい
せんべい、さっぱりとした水仙ちまきに羊羹ちまきなど。
味噌の風味が効いていたり、素材のほのかな甘みが上品に
漂ってくるような、そんなお菓子たちです。

中でも、吉野の葛と砂糖を原料とし、笹の葉で包んだ後、いぐさ
で巻いてゆがくという『水仙ちまき』と、さらに小豆を加えた
『羊羹ちまき』は、死んだ後には必ず供えて欲しい、というほど。

写真からも柔らかな舌触りが伝わってくるよう。
あんこも好きではないのだけれど、これはちょっと食べてみたい
と思わせる文章と写真です。

他にも、洋菓子や和菓子、家族や本人が作った手作りのお菓子など
作家に愛され、ともに時を過ごしてきたお菓子たちが紹介されています。

仕事の合間のリフレッシュに、または仕事を始める前の儀式として、
様々な用途で食べられています。
水木しげるやなせたかしのそのお菓子への思いは、仕事への
ストイックさも同時にあらわしていて感慨深い。

どの作家さんも、食べ物を大事にしているなあ、と
いうことが伝わってきます。
お菓子が出てくるわくわく感、口に入れる満足感。舌触り。
あらゆることを感じて、味わって食べていたのだな。

作家さんの生き方や人生に思いを馳せつつ、お菓子を味わえば
また違った味わいを体験できそうです。