ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

ちょっぴり怖いけど懐かしい 妖たちが泊まる宿

うつせみ屋奇譚 妖しのお宿と消えた浮世絵  』の

イラストブックレビューです。

 

調布の深大寺の近くには、子どもにしか見えない「うつせみ屋」という宿屋がある。
亡くなった祖父が住んでいた家に越してきた小学六年生の鈴は、祖父の霊にある事を
頼まれる。それは、浮世絵の中から出て行ってしまった「あの子」を捜して欲しい、
というものだった。

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浮世絵師出会った祖父も子どもの頃訪れたという「うつせみ屋」へ行けば、何か
わかるかもしれない。そんな思いでやってきた鈴を出迎えたのは、無表情だが
その落ち着いた様子が人に安心感を与える青年、晴彦。彼は、宿訪れる妖のことや
かつての祖父についてなど、様々な事を鈴に教えてくれます。

人ならざるものの存在は、人間の手によって勝手に生み出され、時代や環境とともに
解釈が変化していき、一度は神として崇められたりしたにも関わらず、やがて忘れ
られてしまうものもあります。人間に成り代わろうとするような、恐ろしい妖の中に
さえ、そんな人間の思いに振り回され、悲しい思いをしてきた者もいるのです。

鈴の祖父が描く浮世絵は、描かれたものが動き出すのだとか。それは、そうした
日の当たらぬ存在の者たち心を寄せた祖父の優しさが、筆の先から生命を生み出す
ことになったのかもしれませんね。

引っ込み思案で臆病な鈴。そんな鈴も、ようやくできた、大切な友達を守るため、
祖父との約束守るために、勇気を振り絞って行動を起こします。それは、自分の
迎える未来は自分で作り出すこと、結果を考えて弱気にならずに思い切って動いて
みること。鈴は今回の出来事を通じて、自分自身が大きく成長したことを感じて
いるに違いありません。

不条理なもの、弱いものを飲み込もうとする闇。それは怖いものですが、そうした
ものがあることで、光がより明るく、喜びは強く感じられるのかもしれません。
怖いけれどもどこか懐かしく感じるのは、心の底でそうした事を理解しているから
でしょうか。深大寺を訪れた際には是非とも「うつせみ屋」を探してみたいものです。

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