ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

大切なものをなくしてしまった心を癒す ペンギンの役割

 

ペンギン鉄道なくしもの係 』の

イラストブックレビューです。

 

電車での忘れ物を保管・管理する遺失物保管所は湯盥線の終点、海狭間駅にある。
無人改札の小さな駅で、担当者である赤い髪をした守保と、そして彼のかたわらには
一羽のペンギンがいる。なくしものをした人たちは、ペンギンと守保に驚きながらも、
自分の中にある本当の気持ちに気づき、向き合っていく。

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3両ほどの車両で走る湯盥線。その車両には、ペンギンが乗っている…。
この光景を見た人は二度見した後、周囲の人に同意を求めるようにあたりを
見回してしまうのではないでしょうか。この物語の登場人物たちもそのようで
ペンギンに気をとられたために、うっかりと電車に中に忘れ物をしてしまったり
するのです。

ある女性は、一年も前に亡くなったペットの骨壷を。
ある高校生の男子は、小学生の頃に同級生からもらったラブレターを。
ぐうたら専業主婦は履歴書を。

彼らの忘れ物自体がもう気になりますよね。骨壷持ち歩くの?なんで?
小学生の頃にもらったラブレターって!よっぽどすごい思い入れが?
ぐうたらなのに履歴書?相反してない?

…そうです。皆さん、何かしら現状で問題を抱えています。
例えば骨壷の女性は、ペットをなくしたことを認めたくない気持ちが表向きは
あるのですが、片思いしていた先輩が自分の親友と結婚して幸せに暮らしている
ことが、心にひっかかっています。

ラブレターの高校生は、引きこもりでネットゲームばかりしています。
コミュニケーションなんて何一つ気にせず、ラブレターまでもらった小学生時代が
自分の黄金期だと思い、そのラブレターをお守りがわりに持っていたのでした。

ぐうたら主婦は、夫に「妊娠している」と勘違いされ、訂正できないままにどんどん
自分の嘘が膨らんでいき、そして最後には夫との関係が変わるような結果が訪れて…。

なくしもの係の守保は、赤い髪をしていますが、華奢で優しそうな雰囲気です。
笑うと口がフニャっとあひる口になって、なくしものと自分の問題を抱えて硬く
なっている彼らの心を、柔らかくしてくれる効果があるようです。
ペンギンを甲斐甲斐しくお世話している様子にも、思わず笑みが浮かんでしまいます。

そんなペンギンと青年の姿を見たり、時には言葉をもらったことから、自分がなくした
ものと自分が本当に抱える問題や、自分が本当に望むことは何なのか、という事を
登場人物達は見つけていきます。自分をしっかりと見つめることで、明日へと歩き出す
一歩が力強いものとなっていくようです。

なくしたくないもの、大事なもの。時の移り変わりとともに、変わっていくもの、
変わらないもの。それらを時に思い出したり、また忘れたりしながら、前を向いて
歩いて行こう。そんな風に語りかけてくれるような、一歩踏み出す勇気を与えてくれる、
心温まる物語です。

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