ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

やり直したい、人生の分岐点はいつですか?

後悔病棟 』の

イラストブックレビューです。

 

 

末期の癌患者を担当する医師、早坂ルミ子は患者の気持ちがわからず、
不用意な発言をして周囲から怒りの感情をぶつけられることもしばしば。
ある日、病院の中庭で拾った聴診器を使うと、なんと患者の本当の気持ちが
聞こえてくる。さらに患者の希望に沿って「戻りたいあの頃」に戻り、別の
選択をした人生を、患者とともに見ることができるのだ。

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病気の不安から感情が乱れた患者に精神安定剤を出すとき。患者の母親が、
ルミ子に薬で気持ちが落ち着いたりするのか?と尋ねると

「効かない人もいますけど、試してみる価値はあります。効けば安らかな
気持ちでいけますから」
「えっ?」

患者と家族と同様に自分も「えっ」と声に出てしまいました。末期ガンで、
死を宣告された人間に対して「いけますから」は「逝けますから」に
聞こえるのも無理はないですよね。ていうかさ、その言葉のチョイスは
ダメだろう…。

そんなわけでルミ子は評判がよろしくないのです。愛想は良くなくてもいいですが
末期ガン患者とその家族としては、もっと患者の気持ちに寄り添い、心情を配慮
した発言をしてもらいたいのではないでしょうか。というか、語彙力がない先生
ですね、なんて穏やかに突っ込める心境じゃないですよね。

医師としてきちんと仕事はしているのですが、患者の信頼を得られないルミ子。
そんな彼女は病院の中庭で、聴診器を拾います。その聴診器で患者の心音を
聞こうとすると、なんと本当の気持ちが聴こえてくるのです。

死を目前にした、ルミ子が担当する患者たちは、皆後悔しています。
「あの時こうしていれば…」そう思っている患者に聴診器を当てると、「あの時」
まで戻り、そして新たな選択をした人生を見ることができるのです。

まずは、有名女優の南條千鳥の娘、小都子。全身に癌が転移し、先は長く
ありません。母が活躍する芸能界に自分も入りたい、と思っていたのですが、
母の強い反対により、それは叶わなかったのです。

不思議な聴診器の力で、芸能界入りしていた人生を見た小都子。
目を二重に整形し、オーディションを受け、合格。映画の主役の座を手に入れるも
七光りということでバッシングを受ける。落ち目の男優に利用され、不倫の噂を
流されたり、同級生に裏切られ、中絶の噂を流されたりします。

引退しようと決意するも、どこまでもついてくる人の目からは逃れることが
できません。そんな人生を送って欲しくない、自由に生きて欲しいという思いから
母の千鳥は芸能界入りを反対していたのでした。

早く死ぬのなら芸能界で仕事をしたかった、と捻れた感情を抱いていた小都子ですが、
母の気持ちを理解し、感謝の気持ちを告げます。そうして、安らかな気持ちで逝く
ことができたのでした。

ほかにも、何人かの患者が「もう一つの人生」を体験します。
彼らに共通していることは、満足とは思えなかった今の人生は、片面しか
見えていなかったということです。選ばなかった背景には、彼らを守ろうと
した人がいたり、無意識に何かを察知したという理由があったのです。

今の人生は自分が選んできた結果です。その結果が良いものなのか、そうで
はないものなのかを決めるのも、自分自身なのです。死期が迫っている患者に
とっては、これから先の人生をやり直すことは、難しいかもしれません。
しかし、これまでの人生に思いを馳せることで、いろんな力を得ながら、生かされて
いたのだということに気づくのです。

「生きている」「生きてきた」ということは、本当に様々な要素が絡んでいる
ということなのだなあと感じます。病気によってそのことを理解できたのだと
したら、死ですらも感謝の気持ちを得るために必要な要素なのかもしれないな、と
そんなことを感じた物語でした。

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