ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

その偶然は、ホンモノですか?

偶然屋 』の

イラストブックレビューです。

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親からの仕送りを打ち切られ、司法試験へのチャレンジを諦めた里美は
就活に苦戦していた。電柱に貼られた求人広告の会社に連絡を入れると、
面接場所として指定されたのはパチンコ屋だった。確立にこだわる油炭所長、
武闘派の女子中学生のクロエとともに、里美は「偶然屋」で働くことになった
のだった。

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 アシスタントディレクターならぬ、アクシデントディレクター。

そんな偶然屋で働くことになった里美。司法試験合格への道は閉ざされ、
就活試験はことごとく落とされるという崖っぷち状態です。
しかし、洞察力を持ち、機転も効く里美は、偶然屋の仕事をこなしていきます。
大学もいいところを出ていますし、弁護士になろうとしていたくらいなので
頭も良く、状況判断力にも優れた女性という印象です。

雇い主の油炭所長は、起こりうる状況にパーセンテージで表現し、確率を
大事にする男。偶然屋という職業柄、身についた考えなのでしょう。
そして、なぜか事務所に出入りしている、女子中学生の美少女、クロエ。
彼女はめっぽう口が悪く、里美を「おばさん」と呼び、状況に対してクールに
対応します。そして武闘派で戦いにはめっぽう強いという。
こんな個性あふれる面々で偶然屋での仕事が進んで行きます。

里美が単独でやってみることになったのは、ある女性と親しくなりたい男性
からの依頼。ケンカを仕掛けて、男性が女性を助けるという、ベタな設定です。
男性は、その後女性と付き合えることになったのですが、事態は思わぬ方向へと
進んでいきます。

個性豊かなキャラクターたちが、偶然を装ってクライアントの要望を叶えていく、
という痛快でクスッと笑える物語…というのは表面。裏面では、十数年前に
事故死した男子中学生の件をキッカケに、次々と起こっている不幸な出来事に
ある人物が関わっているというもう一つのストーリーが進行していきます。
そして、その不幸な出来事のひとつに、油炭所長が関係していることも。

ゆとり世代の里美を揶揄するような、軽快な会話が飛び交う一方で、ドロドロした
悪の種が蒔かれていくような状況です。キャラクターの明と暗、そして起こる
出来事の動と静のコントラストがおもしろいですね。

偶然というのは、作ろうと思えば作れるもの。優秀な頭脳と行動力を持つ者の
手にかかれば、それは見事な「偶然」と取られるでしょう。
自分の身の回りで最近起こったあの出来事。あれは本当に偶然だったのかな?
もしかしたら、裏で誰かが作為的に何かしてたのかも?

そして、偶然を装って何かしたいと思う人は、世の中にわりといるのでは
ないかなあ。自分だったら、好きな作家さんに本屋で会う、とか。
本屋でやってるサイン会とかでも会えるけど、それはお金出して必然的に
起こることですからね。思いがけず、好きな人と出会えるのはやはりうれしいですよね。

呑気な意見を書いていますが、これはミステリーです。
帯を見たらブラックユーモアミステリー、とありました。なるほど、これは
ピッタリだなあと思う物語です。

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