ぬこのイラストブックれびゅう

ぬこのイラストブックれびゅう

雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

人間と妖怪の距離が切ない物語

座敷童子の代理人』の

イラストブックレビューです。

編集

 

 

 

 

 

 

product.rakuten.co.jp

 

 ヒット作が出せず、作家生命も危うくなってきた妖怪作家、緒方貴司。
座敷童子が出るという遠野の旅館「迷家荘」に逗留し、執筆活動に励もうと
したところ、妖怪たちが次々と現れて…。人間と妖怪のあたたかく、そして
ちょっぴりせつない物語。

f:id:nukoco:20190126175720j:plain

 

作家生命をかけた作品を創り出すべく、遠野にある、座敷童子が現れるという
旅館へ長期滞在することにした作家の緒方。旅館の近くまで来た時に、不思議な
少年と出会います。それ以来、なぜか河童や狐などの妖怪たちが見えるように
なった緒方は、彼らの力を借りて旅館に起こるさまざまなトラブルを解決して
いきます。

客室でのお土産の紛失、体調を崩した料理人の代わりにやってきた、迷家荘の
元従業員の妖怪に対する嫌悪、なにかとちょっかいを出してくるお稲荷さんの狐。
座敷童子に守られているはずの旅館なのに、何故かトラブル続き。
お客も思うように入らず、経営は苦しい状態です。

それでも、風呂の調子が悪ければ河童が出向いて調節してくれたりと、
妖怪たちも人間のことを憎からず思ってくれているようで、概ね協力的です。
そして面白いのは、妖怪が見えるのは緒方だけ。
旅館の仲居であり跡継ぎでもある和紗と、緒方と妖怪で部屋にいて、妖怪が
お菓子を食べています。すると、妖怪を見えない和紗には緒方がお菓子を
食べているように見えるんだとか。人間の脳が、理解するものしか認識しない
ために、そういった事態になるようです。不思議ですね。

物語後半、先輩の仲居である幸村さんが、ある神様のもとへ嫁入りすることになりました。
人間としては、余命いくばくもない身体。和紗に仕事のあらゆることを教えてから
命を全うしたいと神様にお願いして延命してもらっていましたが、その期限も
もう尽きてしまったのです。

そこで緒方が考えたのは、妖怪と人間とを集めて披露宴を行う、ということでした。
妖怪のほうはあまり乗り気ではない様子。そして幸村さんの父親は、半信半疑ながらも
娘の望むことならば、と披露宴を行うことには協力の姿勢を見せてくれました。
心もとないメンバーで始まろうとした披露宴は、果たしてどうなるのか。

妖怪や神様など、人ならざるモノと、人間とは決して相容れない関係です。
相手のことが見えないのは、互いに特別な感情を持ったり、行き過ぎた干渉や
お節介を働かないようにするためなのかもしれません。神様や妖怪が自分の
味方だからって、おかしなことをお願いするのは考えものですしね。

この作品は、妖怪の姿を見、意思疎通できる緒方が、妖怪のメッセージを
他の人間に伝えます。これくらいの距離感が、一般的な人間と妖の適切な
距離なのではないでしょうか。普段は妖怪たちと軽妙でコミカルな会話を
交わしている緒方。ですが、人間と物の怪は違うものだよ、違う世界で
生きているんだよ、というメッセージが伝わってきます。だからこそ、
少し離れたところから感謝したり、大事に思ったりすることが大切なんだなあと、
そんな事を感じた物語でした。

にほんブログ村 本ブログへ
本・書籍ランキング