ぬこのイラストブックれびゅう

ぬこのイラストブックれびゅう

雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

奇妙でどことなくユーモラス。独特の世界観。

おはなしして子ちゃん 』のイラストブックレビューです。

編集

 

クラスでいじめていた女の子を、ホルマリン漬けの瓶が並ぶ理科準備室に
閉じ込めた。今度は自分が同じように理科準備室に閉じ込められ、ある標本から
話をせがまれた。表題の「おはなしして子ちゃん」のほか、奇妙でちょっぴり
ブラックで、どことなくユーモラスな10編の短編集。

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小学生だった「私」は、クラスでいじめていた小川さんを理科準備室に
閉じ込めます。「私」は、小川さんが、理科準備室の猿のホルマリン漬けを異様に
怖がっていたことを知っていました。 小川さんはその日の夜に発見され、
翌日から熱を出し、一週間学校を休みました。

そして登校してきたときにこんなことを言うのです。

ねえ、犯人はあんたちだってわかってるの。だって小猿は瓶から出られないんだもん。
出たいって泣いてた。でも出られないの、まだ。
【中略】
さみしくてさみしくてたまらないって。だからなにかお話をして、なんでもいいから
お話をしてってあの子、私にせがんだの。私、いっぱいお話をしてあげたよ。
知ってるお話はぜんぶ。それから、あんたたちのことも。でも、足りなかった。

小川さんは、今まで黙っていましたが、「私」やほかの人たちから自分がいじめられて
いることに気がついていました。今回、理科準備室に閉じ込められたのも、その
一つであるということも。ただ、小川さんが怖がっていた、ホルマリン漬けされて
いる猿が「話をして」とせがむというのはなんとも不気味な、奇妙な話です。

「私」は、あえて理科準備室へと向かい、小川さんが自分を閉じ込めるように
仕向け、その通りになります。すると、標本棚の方からか細い少女の声が
聞こえてきます。その声は、標本棚の一番下、ホルマリン漬けされた小猿から
発せられるのでした。

もっとこっちに来てよ。そしてお話をして。

背筋が寒くなるような状況ですが、「私」は動揺していません。むしろ、こうなることを
知っていて、敢えてこの場所に出向いたのだ、という空気すら醸しています。
実際、本をたくさん読む「私」は小川さんよりも、多くのお話をできるはずだ、
という自負も持っています。

話し相手はホルマリン漬けの小猿。その命はとうに失っているはずです。
しかし、話を聞いているうちに、小猿の様子に変化が訪れます。
瓶の中で座っていた姿勢でいたはずが立ち上がり、そして瓶の蓋を
開けようとして…。

ホラーとファンタジーが、絶妙なバランスで成り立っていて、そして「いじめ」
というブラックな要素も含んでいます。主人公が、小川さんをいじめ、今度は自分が
理科準備室に閉じ込められ、そして小猿と会話を交わす、という一連の流れの中で、
気持ちが動揺したりすることなく、外側から自分の行動を眺めているような冷静さを
持っていること、そして冷静さゆえの恐さのようなものを感じます。

この表題の「おはなしして子ちゃん」のほか、訪れる先々で周囲の人々が不幸に
なっていく女生徒と友達になる話、猿の頭と鮭の体をくっ付けて作られた人魚の
話、写す写真に全て霊が写ってしまう女性の話、意思を持った宇宙船の話、など
10編の話を収めた短編集ですが、どれをとってもものすごいオリジナリティです。

は?え?なんじゃこりゃ?と設定に度肝を抜かれながらも、気がつけばその
世界に引きずり込まれ、空気の匂いまで感じてしまいそうなほど。
それでいて、ユーモラスな部分もあり、うっすらと悲しさのようなものも
漂っていて、どうも一言では表現しにくい作品です。
何が出るのかわからない、びっくり箱のような楽しさもある短編集でした。

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