ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

死を待つ人間たちが集まる場所で起こる謎

死と砂時計 』の

イラストブックレビューです。

 

世界各国から集められた死刑囚を収容する終末監獄。
囚人たちが厳重に監視されたこの施設で起こる不可解な謎を、
牢名主の老人シュルツと、若き青年アランの二人が解き明かす。

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世の中の流れから、死刑を執行できなくなった国がほとんどです。
そうすると、刑務所では増える囚人たちを収容することができません。
そこで、お金を払って、ジャリーミスタン終末監獄へ死刑囚を引き受けて
もらうのです。

この終末監獄では、囚人の身体のどこかにマイクロチップが埋められていて、
囚人の行方がいつでもわかるようにしています。
看守が厳しく目を光らせているにもかかわらず、監獄ではさまざまな
事件が発生します。

囚人たちはいつ死刑を執行されるかわかりません。ジャリーミスタン首長が
どういった基準だかわかりませんが、この人間、と決定すれば四日後に執行
するというシステム。ですから、この施設の中の人間は皆等しく、四日後に死ぬ
可能性があるのです。

そういった極限状態にあると、さまざまな事件が起こります。
謎も特殊なら、その解答も度肝を抜くものばかり。死ぬことがわかって
いるわけですから、死ぬ気になれば何でもできる、というわけです。
びっくりするような解答ではありますが、いや、これくらいするかも
しれないよな、と思わせる絶妙な加減のトリックです。

囚人が死刑執行前夜に独房で殺されたのはなぜか。
囚人が人目につく満月の夜を選んで脱獄したのはなぜか。
墓守が埋めた死体を再び掘り起こし、解体したのはなぜか。
女囚が、男が誰もいない女子刑務所で身籠ったのはなぜか。

こうした奇怪な現場に呼び出されるのは、監獄での古株であり、知恵袋的な存在である
シュルツ老と、彼が助手として同行を求めるアラン青年。アランは語学が堪能で
あるため、監獄内で交わされるジャリーミスタン語を話せない囚人などの
通訳を請け負ったりしています。また、一般的な見解を述べる、ワトソンのような
役割もしています。

老人と青年のコンビは、看守に敬意を払いつつ、知的に謎を解明していきます。
しかし、アラン青年自身が刑務所に入る事となった事件について、自分自身で考えている
うちに、重大な事実を発見します。そして、尊敬するシュルツ老の正体についても。

荒っぽい囚人たち、乱暴な看守、独裁的な首長。
不穏な空気が漂う中、知的なコンビが監獄の謎を解いていく、一風変わった
ミステリです。本当に悪い人間とはどういう者なのかは、最後のページを
めくるまで断定できません。未来を持つべきでなかった者たちに訪れる未来とは
いったいどんなものなのでしょうか。
そう考えずにはいられない、読後に深い余韻を残すミステリです。

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