ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

インテリジェンスなコラムニストのアル中脱出記

上を向いてアルコール 「元アル中」コラムニストの告白 』の

イラストブックレビューです。

 

50代で人格崩壊、60代で死ぬ。
医師からそんな宣告を受けてから20年。なぜそこから抜け出せたのか?
抜け出せた先に待ち受けていたものとは。何かに依存している全ての人に
送るエッセイ。

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最近「依存」というワードが自分の中でやたらと引っかかるのらしく、
その手の書籍を見るとどんどこ買っています。なかでも「アル中」は
長らく興味を持っています。西原理恵子さんの元夫である鴨志田さんや、
漫画家の吾妻ひでおさん、小説家中島らもさんなど、クリエイティブで
破天荒、みたいな部分に惹かれるところもあったのかなと思います。

まあ、それは若い頃の感覚でして、今では「いつかそっちに行って
しまうのではないか?」という漠然とした不安を、関連書籍を手に取ることで
解消したいのではないかなと分析しています。

表面的な自分は「アル中じゃない」って思ってます。でもちょっと奥の方に
いる自分は「そうは言ってもね、予備軍でしょ?」とか思ってるわけです。
本書でも、著者は「俺はアル中じゃない」って主張しています。
最初はちょっと飲み過ぎかなあ、と思っていたのが、ある時から
俺は全然大丈夫とか言い出す。仕事の電話覚えていなくても、
飲み会の場所で人と揉めても大丈夫!飲みすぎてない!とか。
もはや大丈夫な要素はひとつもありませんね。

著者は、幻想や幻聴が出たことで、ようやく危険を感じて病院に向かいます。
そこでアルコール依存症の診断を受けるわけですが、それでも医者に対して
「あいつわかってねえな」とか思っちゃう。わかってないのは自分だって!
そうまでして酒飲む自分を擁護してしまうのが、アル中なんですね。
人間の心理って不思議ですね。体が壊れて行くのに、その原因となるものを
認めようとしないんですから。

訪れたお医者さんは心療内科で、基本的にアル中は診ないそうなんですが、
著者に対してこんな言葉をかけています。

「本来私は、アル中は診ないんです。というのも、アル中というのは治らないから。
久里浜にいたときも、何度診ても必ずのんじゃう。八〜九割は治らない。
だけどまあ、あなたどうやらインテリのようだから。」と。「もしかしたら
治る見込みがあるかもしれないから、診てあげることにする」とおっしゃいました。

インテリというのは、飲まない自分、飲まない世界を想像でき、かつ
そこへ向かっていける人のことを言うのかもしれません。
多くの人が治らないのは、飲んでいない時の世界に色をつけることが
できず、お酒を飲んだ時にだけ世界に色がつき、自分が受け入れられて
いるように感じてしまうからなのかな?そんな風に感じたのでした。

お酒を楽しんでいるうちはいいですが、お酒がないと楽しめない、となって
来た時は要注意です。お酒が入った世界はぼんやりと気分のいいものかも
しれませんが、お酒のない世界はクリアな美しさに満ちています。
そこを感じ取れなくなった時には、自分を疑ってみたほうがいいのかも
しれません。

著者の、クールでシニカルな目線の語り口に笑いつつ、アルコールで
喪ったものの寂しさや怖さなど、等身大の言葉で語っています。
アルコール依存症の人も、そうでない人も、アルコールの付き合い方に
ついて改めて考えさせてくれる一冊です。

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