ぬこのイラストブックれびゅう

ぬこのイラストブックれびゅう

雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

アイドルの眼に映る世界に希望はあるのか

武道館 』の

イラストブックレビューです。

恋愛禁止、スルースキル、炎上、特典商法、握手会、卒業…。
アイドルを取り巻く言葉の先に見えてくるものとは。アイドルと自分自身は
同じはずなのに、自分自身であることは許されない。アイドルという十字架を
背負った少女たちの物語。

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アイドルグループ「NEXT YOU」のメンバー、愛子は17歳。
幼い頃から気がつけば音に合わせて歌い、踊っている女の子でした。
日々レッスンに力を入れ、ライブに励み、握手会をこなします。
努力の甲斐があって、グループの認知度は少しずつあがっていき、
目標である武道館ライブが近づいてきた頃、彼女たちの周囲には
不穏な空気が漂いはじめます。

10代という、キラキラと輝いて、スピーディーに成長を遂げる少女たちが
身を投じた世界は、アイドルという戦場でした。
巷では、男女交際の発覚から頭を丸刈りにしたアイドルが出たり、
握手会の場で、刃物を持った男が乱入するという事件起こったり。
彼女らの一挙手一投足は動画で配信され、わずかな情報から身元や
行動を割り出される。そしてちょっとした言動で炎上。

NEXT YOUのメンバーも、レッスン中やライブの前後など、常に
カメラが入り、その様子を動画で配信しています。
情報があっという間に拡散される世界で、自分の光を振りまく少女たちは
自分の身を削って輝いているように見えてきます。

10代前半頃は、純粋に歌って踊るのが楽しい、それを見て喜んでくれる、
応援してくれるファンがいて嬉しい、といった気持ちで満ちていた
愛子ですが、次第に気持ちに変化が現れます。このままずっとアイドルを
続けるのか?そして自分に芽生えた、幼馴染への感情も愛子を混乱させます。

歌と踊りが好きだからアイドルを選んだ。
この家を離れたくないから、両親が離婚した時は父親を選んだ。
愛子がそうやって選んできたのは間違いないし、これからもいろんなことを
選んでいく。でも、今、この時に好きな相手を選ぶのは間違っているのだろうか。
選択が正しいとか、正しくないとか、誰の判断なのか。

彼女たちは非常に真摯に、アイドルという仕事と、自分自身に向き合って
います。もしかしたら、世の中でもっともプロ意識を求められる10代で
あるのかもしれません。その十字架は、彼女たちを光り輝かせ、そして
とてつもない重みを背負わせるのです。

彼女たちの選択は一瞬。そして、その結果はずっと続いていきます。
その選択が良かったかどうかは、自分たちが作り出す未来次第。
それに、世の中も自分も変わっていきます。だから自分の選んだ道を
真っ直ぐに進んでいくしかないのです。

朝井リョウの描くアイドルたちは、まっすぐで、不器用で、かわいくて、
とても人間的。現実の世界でのアイドルたちがどんな様子なのかはよく
わかりませんが、NEXT YOUが存在するならばちょっと応援したいな、
と思ってしまいました。アイドルたちが見る世界はどんな風に映って
いるのでしょうか。ファンや世間は、味方なのか、敵なのか。
ひた走る彼女たちに「良くやったね」と声をかけたくなる物語です。

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