ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

終われない人間の葛藤を描いた物語

終わった人』の

イラストブックレビューです。

大手銀行の出世コースから子会社に出向、転籍させられ、そのまま
定年を迎えた田代壮介。仕事一筋でやってきた壮介は新たな生き甲斐を
求め、居場所を探し、あがき続ける。壮介に再生の時は来るのか。

 

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団塊の世代に生まれ、努力して東大に合格。大手銀行で出世コースを
歩むも、子会社へ出向、転籍させられた時点でもとの銀行での役員に
なる可能性はなくなってしまい「終わった人」となります。

若い頃には努力して、人より抜きん出た結果を出した壮介は
プライドが高いです。頭がいいという自負があります。そして、
サラリーマンとして最も良い出世コースからは外れてしまいましたが、
待遇面では申し分ないですし、置かれた場所での仕事も決して手は
抜かずに、成果をあげてきました。

いざ定年を迎えた後は、時間を持て余し、愚痴をこぼし、うだうだして
います。会社では仕事もできるし偉かったけれども、会社という看板が
なくなると途端に動けなくなる典型的なタイプの人間であるようです。
それでも体は衰えないようにとジムに通いはじめますが、ジジババと
交流しては自分もジジくさくなってしまう、と必要以上の交流を
持とうとしません。その気持ちは分からなくもないですが、ちょっと
嫌なタイプですね。

しかし、完全に会社の看板を外された壮介が、だんだんとただの老人として
世の中から認識されていく様子には気の毒なものがあります。
また、定年後の延長を断ったことで、子会社の役員から一般社員扱いになる段階を
経ていないために、いきなり何の肩書きもない1人の老人となってしまうのです。
しかも63歳といえば、まだまだ頭も体も使える状態であるというのに、です。

再び勉強するべくカルチャースクールに通う、ベンチャー企業の顧問を
引き受ける…などなど、縁があって様々な活動に手を出し、再び花開く、と
思われた壮介ですが。

定年後の夫婦の様子、サラリーマンと自由業それぞれのメリットとデメリット、
親子関係に恋愛事情、そして故郷。60代の目線で様々な状況が描かれています。
感情の激しさや、猪突猛進具合の表現がやや古臭く感じる部分もありますが、
60代というのはまだまだやれる年代だ、ということがわかります。

人に「余りの生」などあるわけがない。
八十であろうが九十であろうが、患っていようが、生きている限りは
「生」であり、余りの生ではない。

この一文に全てが込められている気がします。
どんな年齢でも全力で生き、その証を残したい。それは人間の本能
なのかもしれません。そんな、終われない、終わらない人間の葛藤を
描いた物語です。

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