ぬこのイラストブックれびゅう

ぬこのイラストブックれびゅう

雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

他者との関わりで明らかになる自分の形

読書人が集う『シミルボン』にて、インタビュー記事掲載!

https://shimirubon.jp/columns/1691046 

 

ナイルパーチの女子会 』の

イラストブックレビューです。

 

商社に勤める栄利子は、お気に入りの主婦ブロガー翔子と出会い、意気投合。
しかし、うまく距離をはかれない二人の関係は次第に変化していく。

 

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女子校出身で、父が勤めていた商社で働いている栄利子。
一人娘で親と同居。何不自由なく暮らしてきて、化粧や身体の手入れに気を使い、
男性が多い会社の中でも、周囲と衝突しないよう主張しすぎず、上手に
振舞っている女性、といったイメージ。

そんな栄利子が気に入っているのはとある主婦のブログ。
専業主婦で子ナシ、家事は好きではないから適当で、外食もしょっ中。
それが嫌味なく、ナチュラルに綴られていて、クスッと笑わせてくれる。
ブログに掲載されている写真の様子からすると、案外近所に住んでいるのでは
ないかと栄利子は推測します。

書籍化を持ちかけられ、出版社の人間と打ち合わせしたいたカフェに
偶然居合わせた栄利子は翔子に声をかけ、二人は意気投合。
メールアドレスを交換して、夜のファミレスで一緒にお茶したりします。

と、ここまでは何の変哲も無い女子の親しくなっていく経過なんですが、
ここから栄利子の人間性が徐々に明らかになっていきます。
栄利子には、女性の友達がおらず、翔子がたった一人の友達です。
その友達に対して、異様なほどどんどん間合いを詰めていきます。
連絡がつかないと心配するあまり、ブログの写真から場所を推測して翔子の
自宅マンションまで訪れてしまったり、翔子が起こす行動や言動に納得が
いかないとおかしいからなおせ!と翔子に訴えます。

翔子のほうも栄利子に対して「このひとちょっとやばいわ」と感じはじめ、
距離を置こうとするのですが、時すでに遅し。翔子を徹底的にマークした
栄利子は、彼女の行動を監視し、追いかけ、ついに翔子を脅すネタまで
手に入れます。それをちらつかせ、一緒に旅行に行こうと誘う栄利子。
女友達と言えば温泉じゃない?と。

友情じゃないわ、服従だわ…。
しかし栄利子も無傷なわけではありません。翔子を追う余り、会社に泊まり込み
会社のネットを使ってブログを検索したり、コメントを書きまくったりして
いたため、周囲に不審な目で見られはじめます。その上、今度は会社の派遣女性に
脅され、部署全員の男と寝ろ、と言われます。んな無茶な!と思いますが
栄利子も断らない。オイオイ。

栄利子という人間は、何を思って生きているのか。何をしたくて過ごして
いるのか。どのような人間なのか、ということが全く分からないのです。
両親は彼女の望む通り、なんでも与えて育ててきました。彼女は、両親に
とって良い娘であるように生きてきました。
満たされて生きてきたのに空っぽなのです。自分の本当の望みは何なのか
今になっても分からないのです。

友達がいたら、自分の輪郭をはっきりと映し出してくれると栄理子は
思ったのかもしれません。それはある意味合っていたと言えます。
なぜなら、翔子もまた、女性の友人がおらず、それどころか、他人を
必要としない人間だったからです。栄利子が翔子に惹かれたのも、自分と
同じ部分を持っていたからに他ならないのです。

他人と自分は全ての感覚を共有できるわけではありません。
とある部分が共鳴して共に喜びを感じることができるのは、基本的に
相手と自分は違うことを認識しているから。それは相手のことを認める
ことでもあります。認めることができなかった栄利子は、自分の
ことも認められなかったのでしょう。他人との関わりで自分を知る。
そんなことを教えてくれる、女の奥の奥までを描いた物語です。

 

 

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