ぬこのイラストブックれびゅう

ぬこのイラストブックれびゅう

雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

繋がりたい思いと、つながっている思い

読書人が集う『シミルボン』にて、インタビュー記事掲載!

https://shimirubon.jp/columns/1691046 

 

桜の下で待っている 』の

イラストブックレビューです。

 

面倒だけれど愛おしい「ふるさと」をめぐる感動作。
郡山、仙台、花巻…桜前線が日本列島を北上する4月、新幹線で北へ向かう
男女5人それぞれの行く先で待つものは。実家との確執、地元への愛着、
生をつなぐこと、喪うこと…複雑にからまり揺れる想いと、ふるさとでの
出会いをあざやかな筆致で描く。

 

f:id:nukoco:20180918093614j:plain

老いてから好きになった人と再婚し、先立たれた後に一人暮らしをする
おばあちゃんと、その手伝いに向かう大学生の孫。母親の七回忌でふるさとに
帰る30代の独身男性。彼の実家がある福島へ、はじめて訪れる女性。
立場も育ってきた環境も違う彼らが『ふるさと』というワードで繋がっています。
変わりゆくふるさとの景色、いまでも変わらない場所。歳をとった親や親せき。
大きな喜びではないけれど、みな大事なものとして、心に持っていることが
伝わります。

そして、最後にふるさとを持たないさくらが主人公となります。
両親が離婚し、結婚にあまり前向きなイメージが持てないさくら。
弟から、彼女と結婚の話が出ているが、結婚がいいものと思えない、
と相談を受けます。2人は両親のケンカに挟まれ、おどけたり静かに
したりして、互いに励まし合いながら生きてきたのです。

家族やふるさと。帰る場所のない姉弟。2人にとっては、特に大切だとも
いてくれてよかった、というものではなかったのです。
しかし、新幹線販売員の仕事をして、北の地へ向かい、戻ってくる人々を
見るうちにさくらは考えが変わってきます。

自分がどこかに帰るより、居心地よくするから誰かに帰ってきてほしいな。
遠くから、新幹線で来てほしい。私が見つけたきれいなものを一緒に見て、
面白がってほしい。そういうのがやってみたくて、家族が欲しいのかも。

うっとおしいこともあるけれど、心の底にはなんとなく存在していて、
いろんな人が繋いできて、今の自分がいる。
家族や親戚ってそんなもので、大人になってそこから離れた時に、
それが当たり前の事ではないのだということに気づく登場人物たち。

家族が、父や母といった役割だけの人間なのではなく、性別を持った
1人の人間であり、強い部分も弱い部分も持っているということ。
場所や時が離れたからこそ気がつくこと。そうした人たちと、場所と
つながっているということ。

場所と人は、自分の輪郭を際立たせる重要な役割を持っています。
そうしたものがあることで人は時に振り返り、自分の形を確認することで
また新しい明日への一歩を踏み出すことができるのかもしれません。
日頃、何も考えていなかった実家の家族やふるさとの景色を思い浮かべ、
近いうちに顔を出しに行ってみようか。そんな気持ちになる物語です。