ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

世の中のあらゆる不条理を乗り越えて 人間の真理を追求する女探偵

不穏な眠り』の

イラストブックレビューです。

 

 

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あらすじ

アラフィフの女探偵、葉村晶はミステリ古書店でアルバイト兼探偵業をしながら、店舗に住んでいる。ある日、フェアのために借り受けた「ABC時刻表」が何者かに盗まれた。その行方を追ううちに次々と新たな災難が降りかかり(「逃げ出した時刻表」)。相続で引き継いだ家に、いつの間にか住み込み死んだ女性の知人を探して欲しいとの依頼を受けた(「不穏な眠り」)。不運な女探偵、葉村晶のハードボイルドな推理小説

女探偵 葉村晶とはこんな人

ある時は命を狙われ、ある時は住む場所を失い、入院レベルの怪我も一度ならずある。女性の探偵、葉村晶は無敵のスーパーウーマンというわけではなく、経験値をもとに地道に探偵稼業をしているアラフィフの女性です。四十肩に悩まされ、夜の張り込みでは全身筋肉痛。忍び寄る老化と戦いながらお仕事をしています。

勤め先で盗難事件発生

大手の探偵事務所に勤め、フリーとなり、現在は古書店のアルバイトをしながら探偵稼業も行なっています。そんな葉村がある日突然背後から襲われ、昏倒します。しかもその際に、古書店で行うフェアの目玉商品として借りていた「ABC時刻表」が紛失していたのです。

普通の人間なら慌て騒ぐ所ですが、そこはアラフィフであり探偵です。現在の状況を分析し、店主に顛末を報告したのち(店主は入院中)、貸主の元へと向かいます。謝罪する葉村にひどい言葉を投げつけるのは貸主の箕輪重光。葉村も首筋にスタンガンを当てられて昏倒していたという、被害者でもあるわけなのですが、それなのに同情する気は皆無な様子の箕輪。大事な時刻表を紛失されたのだから無理も無いとも言えますが…。

探偵としての本領を発揮

ある意味サラリーマンよりも不条理な人物たちと関わる機会の多い葉村(それだけでも不運ですね)なので、ごく冷静に受け止め、散々相手に文句を言わせた後に「実は」と盗難後の経緯を説明します。防犯カメラに写っていた画像を示し、その人物について言及。言葉を失う箕輪。

そこには彼の知る意外な人物が写っていたのでした。

事件は解決したかのように見えたのですが

これにて一件落着か、と思いきやそうはいかず。時刻表はその人物の手を離れ、別の場所に移動。おまけに目玉であるその時刻表にまつわる事実が次々と明らかになってきて…。歪んだ感覚を持つ相手とのやりとりも、もはやベテランの域に達している葉村。駆け引きも冷静で、カッとなる部分は少なくなってきたように感じます。

葉村を動かすモチベーションとは

今回も、ハードに動き回った割には入ってきた金額が少ないとか、探偵に近いような古書店のアルバイト内容に対して、賃金は全く上向きになる様子がないとか、相変わらず気の毒な葉村の現況。着々と年をとり、日々の仕事をこなし、生きていく最低限の収入を得て暮らしていく。そんな彼女のモチベーションとは何なのでしょうか。

まとめ

事件や謎を通して関わる人間たちは、誰もが一癖あり、向かい合って話しただけでは到底理解できない面をいくつも持っています。探偵としての経験からひとつひとつ可能性を見出し、推理していく葉村は、作品を重ねるごとにそのスキルが向上していくのがよくわかります。

そうした探偵としての能力の向上も仕事のやりがいとしてはあるとは思いますが、何よりも、その能力の向上を持ってさえ、人間が隠すもの、見つけたいと思っているもの、それらを他人に明らかにされたいためにどのような行動を取るのかが予想できない面があるということ。葉村は、「人間」というものをどこまでも知りたいと考えているからこそ、不幸な目に遭い続け、老化現象に悩まされながらも、実入りの少ない探偵業を続けていけるのではないでしょうか。

 

このレビューは『nuko book』に掲載したものです。

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