ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

死神は地の果てまでも犯人を追い詰める

皇帝と拳銃と』の

イラストブックレビューです。

 
 

 

二人組の人気作家「四季社忍」の一人、和喜田が殺された。証拠となるものは処分したし、雨で流された。自分が捕まることはないはずだ。そう、「四季社忍」のもう一人の作家である自分、伊庭照彰の犯行を証明するものは何もない。そんな伊庭の前に現れたのは奇妙な二人組の刑事だった。

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犯罪を犯し、完璧だと犯人が思っていた四つの事件。異色の刑事が事件を解決していきます。モデルか俳優かと思うほど整った見た目をしている若い刑事、名前はいたく平凡な鈴木と、死神のような陰鬱な佇まいと話し方の中年、しかし名前は可愛らしい警部、乙姫のコンビで事件の捜査を進めます。

 

伊庭は、仕事の相方が土手をランニング中に撲殺。現場から少し離れた場所に隠してあった自分の自転車を取り出し、家に戻ります。マンションの前に停めておいた自転車は、雨が降ったことでタイヤについた現場の土も洗い流すはず。そして、タイミングの良いことに帰ってすぐに宅急便の配達が来たため、自分のアリバイを証明してくれることになったわけです。これで自分が犯人だと特定されることはまずないだろうと考えていたのですが。

 

またある時は、大学の副学長が、経費の不正使用を見つかり、経理担当者から脅されたため、経理担当を殺害。しかし、警察の捜査では殺された男はビルから飛び降りた自殺なのか、それとも他殺なのか判別がつきません。副学長が次の学長となることを邪魔するものは何もないはずと思われたのですが・・・。

 

死神と美青年の組み合わせは、まず人をギョッとさせます。犯人を疑うようなあからさまな態度は取らないものの、何を考えているのかわからない不気味さを漂わせる乙姫警部は、見た目だけでも犯人に圧力を与えているのかも。重ねられる質問に容疑者が、不備な点があったのかと不安を感じたあたりでスッと身を引いたりと、見事な駆け引きも見せてくれます。

 

暗く、鋭い目つきで、現場の小さな違和感から事件の真相に近づいていく乙姫警部の様子は、死神が首を切るための大きな釜を持って近づいてくるような、そんな不気味さを感じます。静かで暗い様子ながらも、時折見せるアイドルや俳優の事情にやけに詳しい知識を披露したりして、外見と内面のギャップは広がるばかり。ますます不可解な乙姫警部が気になって仕方ありません。

 

キャラの濃い警部ではありますが、それぞれの事件も練られたトリックであること、犯人の生々しい心境や焦りなどが手に取るように伝わることから、芯の通ったミステリ集と言えるでしょう。犯人を斬る死神警部の活躍に今後も期待が膨らみます。

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