ぬこのイラストブックれびゅう

ぬこのイラストブックれびゅう

雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

おいしいスープのようにじんわりしみこんでいく物語

それからはスープのことばかり考えて暮らした』の

イラストブックレビューです。

 

よくいく映画館の隣町で、窓を開けると教会が見えるアパートへ引っ越してきた大里ことオーリィ。古い映画に出演する女優に恋をして、気に入ったサンドイッチ店に通い続ける。そんなオーリィにサンドイッチ店の店長が「うちの店で働かないか」と持ちかけてきて…。

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主人公は、次の就職先も考えず、会社をやめ、プラプラしている若い青年、オーリィ。
大家さんに心配されたり、自分自身でも仕事を見つけないとなあと考えながらも
映画館に通ってしまう日々。それは古い映画に出演する、ちょい役の女優を見るためで…。

独身、性格は穏やか、これといって目立った特徴もないオーリィは、ふわふわと日常を
過ごしています。お気に入りのサンドイッチ店に毎日通っていたら、店長からスカウト
されます。店で働きはじめ、やがてスープ作りを担当することになります。

映画館で見かける、綺麗なおばあさん。快活な大家さん。映画館にいる犬。
どれも柔らかな輪郭を描いて暖かく、湯気をまとっているかのような世界観です。
ぼんやりとした青年の印象だったオーリィも、周囲の人々と関わり、その人なりの
背景が少しずつ見えてくることで、なぜだか彼の印象もくっきりとしてきます。

おいしいスープは、様々な食材の旨味が複雑に絡み合って生まれてくるものです。
オーリィの作るスープは、何か1つの主役である食材がこれと言えない、言い方を
変えれば脇役全員が主役であるとも言えるものです。どんな食材が入っているかわかり、それぞれが引き立てあってなんともいえない優しいおいしさなのだとか。
そのスープを口にした人は、誰もが何かを思い出し、語りはじめます。

そんな心の扉を開くようなスープ、ぜひ味わってみたいものですね。人と人との関係も
優しさや思いやりが絶妙な素材に、感情が爆発してしまうことも時にはスパイスとなって、旨味が増し、深い味わいになっていくのかもしれません。街と人、ほんのささやかな日常と出来事が、暖かいスープを飲んだ後のような、指先まで暖かさがじんわりと染み込んでくるような、読後感の良い物語です。

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