ぬこのイラストブックれびゅう

ぬこのイラストブックれびゅう

雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

価値観の奥にある「自分自身」を確立させること

 

 


あのこは貴族 』の

イラストブックレビューです。

 

松濤で整形外科医院を営む家の三姉妹の末っ子として育てられてきた華子。
女子校育ちの箱入り娘で、相手に尽くしすぎてしまうせいか、交際相手と長続き
しない。焦って婚活に取り組み、ようやく理想の相手、「青木幸一郎」と出会う。
順調に結婚話が進んでいくのだが、幸一郎には別の女の影があり…。

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箱入り娘の華子は二十六歳。東京の裕福な家庭に生まれ育ち、性格もおっとりと
していて控えめ。会社には勤めていましたが、付き合っている彼氏と結婚する
つもりで退職したところ、彼氏から別れを告げられてしまいました。華子は、仕事を
したいわけでもなし、何の取り柄もない自分は、結婚するしかないと思っています。

また、華子の家族も大方同じような意見で、彼女のために良い男性を紹介しようと
あれこれ働きかけてくれます。華子の祖母は特に良家の子女然とした方で、立派な
男性のもとに嫁いで、お相手に尽くすのが女性の幸せである、とはっきり口に出す
ような人。それに疑問を持つわけでもなく「そうかもなあ」と受け入れているのが
華子の素直というか、何も考えてないというか、可愛くもあり、頼りない部分でも
あります。

華子の婚活はさんざんです。どれもなんだかずれていて、疲弊ばかりが重なって
いきます。そんな時に出会ったのが、弁護士の青木幸一郎です。父と同じ幼稚舎からの
慶應ボーイ。見た目良く背も高く、身のこなしもスマートです。感情の機微に乏しく、
華子に対しても無関心のようにも見えるところが少し気になりますが、それを除けば
理想の相手です。結婚に向けてとんとん拍子に話は進みます。

しかし、幸一郎には長く関係を持った女性、美紀がいたのです。そして華子の友人と、
美紀との3人で話し合いの機会を持つのですが…。

東京の裕福な家に生まれ育った人間というのは、狭いエリアと狭い人脈で生きていて、
地方出身者から向けられる羨望の眼差しに無頓着です。庶民が彼らに感じる憧れや、
すごいなあという感覚が理解できない。まあ、生まれながらにしてある環境ですから、
当然とも言えますね。「価値観が違う」ってこういうことを言うのだなあとひしひしと
感じます。

ただ、そういった生まれ育った環境というのは、人が纏う洋服のようなものなの
ではないでしょうか。きらびやかな洋服を身にまとっていても、本人が何も考えて
いなかったり、自信のかけらも持っていなかったら素敵に見えませんよね。
逆に、着古したような、くすんでヨレヨレの洋服を着ていても、ハツラツとした
行動や、イキイキとした表情を持っていれば、輝いて見えるものです。

恵まれた環境に育ちながら、自分に自信が持てない華子。恵まれた環境であることを
認め、自分の道筋に沿って時に諦めながら、時に要領良く生きる幸一郎。そして、
幸一郎と関係を持つことで、こうしたセレブ生活の一部を楽しんでいた美紀。それぞれが持つ価値観が合う相手、合わない相手と出会い、自分自身を見直し、また新しい価値観を構築していく。そうやって自分自身をアップデートしていく彼らの姿に共感を覚えます。

それまでの価値観が壊されたときに自分自身の根っこはどうなるのか。
価値観がかわるたびに、揺るぎなくなっていく自分自身の中心を持つことが大切なのだということを教えてくれる物語です。

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