ぬこのイラストブックれびゅう

ぬこのイラストブックれびゅう

雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

歪んだ愛に喜び、苦しむ者たちを描いた物語

繭  』の

イラストブックレビューです。

 

33歳で、自分の店を持つ美容師の舞には、結婚して一年になる夫、ミスミがいる。
舞は、ミスミに暴力を振るってしまうことに悩んでいた。ある日、店の客で、
同じマンションの住人である希子と知り合い、交流を重ねるが、希子はある秘密を
持っていた

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優しい夫に、ふとしたきっかけで暴力を振るってしまう舞。夫のミスミは一切抵抗
せず、舞を責めるようなこともありません。止められない衝動に、自分はおかしいの
ではないかと悩む舞は、希子という女性と出会います。

初めは店の客としてやってきて、その後は舞がミスミに暴力を振るった後に自転車で
逃げ出し、転んでしまい、腹が立って原因となったゴミ集積所のゴミを片っ端から
放り投げていたところに、希子は通りがかったのです。何も言わず、広がったごみを
集めて袋に戻し、その袋を集積所に戻す希子。淡々と作業した後、自転車から落ちて
怪我をしている舞を手当てしてあげます。

一見地味な希子が華やかな舞を慕うような雰囲気に見えますが、実はそうでも
なかったりします。牽制しあっているというか、どちらも本心は出さないように、
気を使っているようにも見えます。しかし、今回のことをキッカケに二入は交流を
重ねていきます。

彼女たちの、何回会っても親密にならない違和感にザワザワします。
そして舞の夫、ミスミもまた違和感を感じさせる男です。
かつて美容師として舞と共に働いていましたが、上司のいじめに遭い、退職し、
その後は様々な店に勤めても数ヶ月でやめてしまう、という状況でした。
主に家で家事などを担当し、舞が心地よく家で過ごせるように整えています。

奥さんのDVに困りながらも、奥さんを愛し、彼女が快適に過ごせるように家を整える。いい旦那さんのようですが、実は希子ともともと知り合いで、舞と友達になるように仕向けたのはミスミだったのです。

この辺りからミスミの存在が、不気味に大きく広がっていきます。
舞はミスミに暴力を振るいますが、ミスミを愛していることは確かだし、彼を殴る
自分が嫌だと感じているのです。でもやはり殴ってしまう。それをミスミは受け入れる…。そのミスミの様子は舞を包み込み、やがてその愛で舞を窒息させてしまうようにも感じます。

頭でわかっていてもやめられない、衝動を抑えられないのは依存と言って良いでしょう。舞が依存していたのはミスミに対してなのでしょうか。それとも暴力に対して
なのでしょうか。

暴力、依存、愛情。一本の細い線の上で、危ういバランスで成り立っていた二人に
訪れる結末。暴力は他人だけでなく自分をも傷つけるのだということ、そして
恒常化する事であらゆる感覚が麻痺していくこと、そしてそれは、間違いなく
幸福という形とはかけ離れたものであること。そんなことを教えてくれる、
胸が重く、苦しくなるような物語です。

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