ぬこのイラストブックれびゅう

ぬこのイラストブックれびゅう

雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

キーワードは「男と女」。その結末に思わず唸る、驚愕のミステリーたち。

ラストに驚くミステリーは数多く存在すると思いますが、あるキーワードが共通する
ミステリーを紹介したいと思います。そのキーワードとは「男と女」。
その性が話の重要なポイントとなるのです。

まずはこちらです。

 

レジまでの推理 本屋さんの名探偵

レジまでの推理 本屋さんの名探偵著者: 似鳥 鶏

出版社:光文社

発行年:2018

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本屋で働くスタッフたちが、日常の業務をこなしつつ、本屋さんに持ち込まれた奇妙な
謎を解いていきます。彼女から送られてきた本のラインナップの謎、盗まれた作家の
サイン本、落書きされた作家のサイン入りポスターの謎。

品出し、発注、レジ対応、フェア準備にポップ書きから万引き対応。
そして版元、取次と地方の小さな書店との関係、出版業界全体を巡る現状が物語を通して
非常にわかりやすく伝わってきます。本屋さんと謎は相性が良いのか、次から次へと
面白そうな謎が登場し、そして気がつくと姿が見えなくなっている店長が、鮮やかに
解決していきます。

万引き犯見逃しから始まり、どんどん雰囲気が悪くなっていく本屋さん。ある日、
脅迫メールがスタッフたちに届き、心配になって店を見に来たスタッフたちが目にした
状況と、本屋に危害を加えようとした犯人とは。

その犯人に思わず「あっ!?」と声が出てしまいます。それで、もう一度最初から
読み返してしまうのです。犯人自体にめぼしがついていた読者も、その正体には
意表をつかれるのではないでしょうか。性別への先入観がカムフラージュとなって
真実にフィルターをかけている物語です。

続きましてはこちらです。

 

湖底のまつり

湖底のまつり著者: 泡坂 妻夫

出版社:東京創元社

発行年:1994

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旅先で、増水した川の水に足を取られたところを助けてもらった紀子は、助けて
くれた男・晃二と一晩を共に過ごす。翌朝彼の姿はなく、近隣の住民に話を聞くと、
彼はひと月前に毒殺されたという。では、昨夜共に過ごした男はいったい誰だった
のか。そして、晃二はなぜ殺されたのか。

紀子と晃二が過ごした、薄暗い室内で過ごす夜。ダムの工事により沈んでいく村での、
最後の祭り。仄暗い闇と、決して華美ではないけれども、自然と溶け込んだ祭りの
景色が美しく、重厚な空気が漂います。
いくつものシーンや謎が存在し、それらがパズルのピースがはまるように少しずつ
空白を埋めていき、最後にはピタリと絵図が完成するのは見事です。

しかし驚くのはそのラスト。これも読後にはじめからまた読み返してしまうタイプの
本ですね。『レジまでの推理』と同じく、性別に関係があります。物語全体の描写が
とても雰囲気があって、空気にまで重みを感じる世界観なので、個人的にはこのラストはありなんじゃないかなと思っています。ミステリーでありながら、どこかファンタジーでもある、陰を帯びた美しいミステリーです。

「男と女」に対して、我々は多くの先入観を持っています。その思い込みを利用して
読者を上手に騙せるかどうかは筆者の腕次第、というところでしょう。 
上記の2作は、そんな騙しのテクニックもさることながら、書店の現状やスタッフの情熱、または男女間の恋愛やダムに沈んでいく村の悲哀など、そうした話の柱がしっかりとできているからこそ、ラストの意外性が生きていくのです。

「男と女」の問題については自信がある方も、そうでない方にも楽しめるミステリたちです。

 

※このコラムは『シミルボン』に掲載したものです。

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