時代もの、特に江戸の物語は種類も多く、一定のファンがいると言っても良いのでは
ないでしょうか。とはいえ、個人的には、若い頃にはあまり手を出さなかったジャンル
です。ドラマの時代劇的なイメージがあり、悪を挫き、弱気を助ける!というお話を、
中高年のおじさんたちが電車で読んでいるものだろうと思っていました。世の中を作って
いく、切り開いていく、又は何かを守るような主人公の姿を自己投影するのかなと。
江戸の町を自分の会社に置き換えてですよ。
そんなわけで、あまり手が出なかったジャンルですが、ある時、会社のおばさまから
「読んでみる?」と勧められたのが
です。「読むの早そうだから一応五冊渡しておくね」とお借りしました。
日中は仕事しているし、帰ってから家事育児でそんなに読む暇ないから2週間くらい
かかっちゃうかなあと思いながら読んだら…あら大変!一晩で2冊。うおお止まらない!
続きが気になる!でも読んでたら明日起きれない!あああ〜!
というくらい一気に読んでしまいました。結局全10冊を1週間で読んだかな。
どの巻も号泣ポイントがあり、そこがまたいい。ため息をついてしまうような深い
感慨を与えてくれるのです。最後はもったいなくてペース落として読みました。
後の五冊はこちらです。
水害で両親を亡くし、天涯孤独の身となった少女、澪は大阪の名店「天満吉兆庵」の
女将に助けられ、奉公人として働きはじめます。澪はその味覚を認められ、料理の
修業に励みますが、火事により店が消失。女将の息子を頼り、江戸へとやってくるが、
息子は行方不明。
ふとしたきっかけで、蕎麦屋「つる家」の主人、種市から店で働かないかと声を
かけられ、働きはじめた澪。上方とに味の違いに戸惑い、失敗もあったが、
上方と江戸の良いところを合わせた料理作ろうと日々努力を続けます。
やがてその料理は評判を呼び「つる屋」は名店と呼ばれるようになっていくのです。
大阪から江戸へ。第1巻ですでに波乱万丈ですが、とにかく目の前のことをひとつ
ひとつしっかりとやっていこうという、澪の姿勢が気持ち良く、彼女の誠実な気持ちが
料理に現れてくるようです。壁は次から次へと現れますが、決して諦めることはありません。
上方と江戸の食材や調理の仕方、味付けの違い。そんな文化的な面に関する描写も、
非常に興味深いものです。そして、今のミシュラン的な「料理番付」なるものが江戸に
存在し、その評価を求めて料理人や店が苦労する姿は、現代とはそう変わらないのだな
とも感じます。
料理をはじめ、恋愛、友情、別れなど巻を重ねる度に要素が増え、展開していくため
これは一年に一冊づつ読んでいたら、続きが気になって頭がおかしくなりそうだな、
と思うくらいこの世界にのめり込んでしまいました。全巻出てから出会って良かった。
江戸も現代も、仕事の悩みや恋愛、生きていくことへの葛藤はその時代なりにあります。
大切なのはその姿勢、自分の芯はどうあるべきかを理解し、そこを貫くこと。
この物語の澪は、そんな事を読者に教えてくれるのです。
おじさまが読むジャンルだと思い込んでいてごめんなさい。
捕物帳とか正義の味方的な話以外にも、人生の機微を描いた、バリエーション豊かな
江戸物語はたくさんあることに気づいた一冊です。
みなさまももし入手される際には是非全10巻をまとめて、をオススメします。
※このコラムは『シミルボン』に掲載したものです。