ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

タフで不運な女探偵 最悪の事件に巻き込まれる

錆びた滑車  』の

イラストブックレビューです。

 

女探偵の葉村晶は、石和梅子という老女を尾行していたところ、梅子ともう一人の老女、青沼ミツエのケンカに巻き込まれ、負傷する。ミツエが所有するアパートに住むことになった葉村は、ミツエの孫のヒロトからある調査を依頼されるのだが…。

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挙動不審な母の行動を調べて欲しい、という息子からの依頼で石和梅子を尾行することになった葉村。アパート経営がうまくいかず、お金に苦労していたが息子夫婦を頼りたくなかった梅子は、昔からの友人であるミツエを尋ねます。ミツエの息子と孫が事故に
巻き込まれ、息子は死亡、孫は大ケガを負い、リハビリ中です。事故の賠償金でお金を
たっぷり持っているだろうからと、お金の無心にいったのでした。

そんながめつい梅子にミツエは怒り、二人はもみ合った末に外階段から落ちてきて
しまいます。葉村の上に。物語開始早々、額を切る怪我をする葉村ですが、怪我を
し慣れているため、これは致命傷ではないから大丈夫、と冷静に判断します。
カッコいいけど、そういうのがわかるほど色々とすごい目に今まで遭ってきたんだよねぇ…。

ミツエはほとんど住人のいないアパートの経営をしているのですが、葉村はその空いた
一室に住むことになります。口も頭も達者なミツエにあれこれと用事を言われて、
ミツエの用事を手伝ったりしています。そんな中、孫のヒロトからある依頼を受けます。自分が事故に遭った当日、なぜ現場にいたのかが思い出せないから調べて欲しいというのです。

引き受けるとも言わないうちにまた新たな事態が発生し、次から次へとトラブルに巻き
込まれていく葉村。何度も危険な目に遭い、あばらを折ったり、大きな権力の都合に
振り回されたりして、それはもう酷い目にあうのです。不運な女探偵と言われるのも
よくわかります。

薬を盛られ、何度も吐き、のたうつような痛みや苦しみの中でパニックを起こしそうに
なった時、こんな風に自分をなだめます。

大丈夫、苦しいだけ。痛いだけ。最悪でも死ぬだけ。大丈夫。

死ぬだけって!!大丈夫じゃないよ!!でも、自分を落ち着かせる冷静さが頭の片隅に
あるということですよね。さすが数々の修羅場をくぐってきただけのことはあります。

自分だったら、恐怖に足がすくんだり、心が折れてしまって動けなくなるだろうと思う
状況ですが、葉村は満身創痍でありながらも、真実に向かって突き進んでいきます。
彼女を奮い立たせる原動力は「怒り」。人の悪意、権力による支配への怒りです。

そうした権力により、留置場に数日閉じ込められてしまう事態になった葉村は

少し前なら自分の行動をバカバカしいと思うところだが、日本国民の身柄を不当に拘束しても、相手が探偵なら超オッケー。ってことらしいのが、今回の件であらためて身にしみていた。

いつもの皮肉な調子から、国家権力に軽々しく自分の身柄を拘束されたことに、
静かな怒りを感じます。国家のもとの活動下では一人の人間の動向などどうという
こともない、という目に遭った葉村は、自分の中に怒りの炎を燃やすのです。

何度も命の危険に遭い、悪意をぶつけられながら真実に向かっていく葉村は、
果てしなくハードボイルド。でも権力には足蹴にされるし、決してかっこいい
だけじゃない。そこがまた現実的で、説得力があるのです。頑張ってるのに
報われない、おまけに年とともに体力に不安も出てきた…という葉村は、
吉祥寺の古書店の二階で、今も書店のバイトをしつつ、依頼人からの調査を
待っているのでしょう。

探偵という仕事をやり続け、さまざまな人の感情を見てきた彼女から発せられる
言葉は、深い説得力を持って読者の心に響いてくるのです。

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