ぬこのイラストブックれびゅう

ぬこのイラストブックれびゅう

雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

髪から伝わる女たちの体温と生き様

髪結百花 』の

イラストブックレビューです。

 

 

遊女に夫を寝取られ離縁した梅は、実家に戻り、髪結である母の仕事を手伝いはじめる。花魁の紀ノ川や禿の少女タエ、そして吉原で働く女たちとのやりとりから、髪結としての自信と喜びを取り戻して行く。吉原を舞台に女の人生模様を情緒豊かに描く。

f:id:nukoco:20190531090631j:plain

まずは、えもいわれぬ美しさの花魁が描かれた表紙に釘付けに。左肩から振り返るその姿、伏し目がちな視線に何とも言えぬ妖しさと、哀しみ、そして腹を括った強さまでも
感じました。予算とスペースの関係で書籍は滅多に買わないのですが、こちらは表紙に誘われて手に取った一冊です。読み終えた今でも書棚から取り出しては表紙をじっと眺めています。花魁に取り憑かれたか?

江戸の吉原に出入りする髪結の梅。かつての旦那は遊女に寝取られたこともあり、
お客である遊女たちにいまひとつ心を開くことができず、先輩髪結の母のように
滑らかに遊女たちを褒めたり会話をすることがなく、ぎこちない仕事ぶりです。

しかし、花魁の紀ノ川はそういった気づかいや髪結の仕事ぶりには無頓着。そんな
紀ノ川と、梅にはじめて髪を結ってもらってから梅を慕ってくれる、禿の少女
タエたちと接するうちに、だんだんと髪結としての自分と、その仕事への熱意を
高めていくのです。

梅が、遊女の髪に触れ、そこから伝わる遊女たちの体調や匂いの描写にハッと
させられます。そして、髪から遊女の奥の奥までを理解する梅のプロの仕事ぶりにも
敬服してしまいます。遊女が発する直接的な感情描写よりも、髪から感じる
彼女たちの生活ぶり、生き様を描いた描写の方がより生々しくしく、彼女たちが
生きているのだという事をより強く感じさせるのです。

花魁として活躍していた紀ノ川は、吉原に入った時から自分の感情に蓋をして
きたようです。そうしなければ生きていけない場所であったのかもしれません。
一方、亭主を遊女に寝取られた梅も、怒りや哀しみの感情を整理しきれず、
くすぶっていた状態。そんな二人だから、響きあい、心を寄せ合ったのかもしれません。

吉原を舞台に生きる女たちは、自由とは縁遠い生き方をせざるを得ません。
しかし、それ故に覚悟を決めた時の力強さと輝きはとても大きなものだったのです。
遊女が子供を産み、育てることさえ決死の覚悟。そしてそれを助ける方もそれなりの
覚悟が必要です。

困難な状況の中で見出す女としての喜びは、遊女、髪結、元夫の今の妻など
それぞれの立場によって異なります。しかし、そんな立場の異なる女たちが
新しく生を受けた赤ん坊のために力を尽くします。それは、各自がそれぞれに
女の幸せを考え、理解したからなのでないでしょうか。

そんな女たちの熱がいつまでも余韻に残り、彼女たちの生き方に思いを馳せる物語です。

にほんブログ村 本ブログへ