ぬこのイラストブックれびゅう

ぬこのイラストブックれびゅう

雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

女はちょっとした毒を求めているものなのかも

夫以外 』の

イラストブックレビューです。

 

 

夫が急死した40代女性が夢中になったもの、離婚して子連れで実家に戻ると
父親の再婚話が出ていた30代の女性、戸籍の縛りに長年囚われていた60代の
女性。大人の女性たちの日常に起こる出来事を描く、6つの短編集。

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夫が急死した聖子は48歳。夫との間に子供はおらず、打ち込めるような趣味も
ない。そんな聖子の前に現れたのは、夫の姉の息子、つまり夫の甥。
夫の葬式にも姿を見せず、初めて対面した甥の一樹は28歳のフリーター。
これまで顔を見せられなかったことを説明する姿は、どうやら誠実な人間のように
思えるのですが。友人であり、法律に詳しい荻野さんには、そんな一樹に用心する
ように警告されます。

一樹と遺産についてのやり取りをするうちに、聖子は気づきます。
自分が一樹に夢中になっていることに。しかし、相手は20歳も年下なので、ペットや
夫婦間でできなかった子どものつもりなのだ、と自分に言い聞かせつつも、
一樹が進みたがっている方向についてアドバイスをしたり、資金援助までしようとします。

夫とは仲が良かったが、夫に対して情熱的な感情は一度も持たなかった聖子。
夢中になったアイドルもなし、子どももペットもいない、夫婦二人だけの生活は
とても穏やかでした。夫を失い、ぽっかりと心に穴が空いたようになってしまって
いた聖子は、自分には夢中になれるものがこれまでなかったことに気がつきます。

そこで登場するのが一樹です。彼は若くして夫の遺産の一部を手にすることになり
ます。聖子は騙されているのでは?とヒヤヒヤしながら読み進めていくと、一樹は
どうやら落ち着いた人間のようで、夢を実現すべく地道に頑張っていこうとして
います。そんな一樹のひたむきなところも好ましく感じる聖子は一樹の力になろうとします。

どこに着地するのかなと思いきや、「えっ!そう来たか!」というラスト。
聖子は夢中になれるものを得るために、どうやら高い代償を払うことになったようです。
それが夢の中ならどんなに良かったことか。夢中だからこそ、見えない部分が
できてしまったのかもしれません。

他にも、娘が不倫相手と結婚することになった女性や、離婚して子連れで実家に
帰ったら、父親の再婚話が待っていた、などちょっとフックがかかった大人の
女性たちの日常を描いた短編集です。

何かが引っかかっていて幸福を感じられない女性たち。しかし、その引っかかりは
意外性のあるラストでガラリと質が変わるのです。幸福と不幸は裏返し。そして立場が
変われば、その幸福と不幸は逆転したり、敵だった相手が味方になったり、また逆も
しかり。

とにかくいろんな女性の人生の一部を見せてくれます。幸福とは言えない
状況だったとしても、読んでいて不快にはならず、むしろ爽快さを感じるのは、
彼女たちがその毒を取り込み、それを力に変えていっている事が感じられるからかもしれません。