『「私が笑ったら、死にますから」と、
水品さんは言ったんだ。 』の
イラストブックレビューです。
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「私が笑ったら、死にますから」と、水品さんは言ったんだ。 (ポプラ文庫ピュアフル す)
- 作者: 隙名こと
- 出版社/メーカー: ポプラ社
- 発売日: 2018/09/05
- メディア: 文庫
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地味で目立たない男子高校生、駒田の隣の席は病弱で、学校を休みがちな美少女、
水品さん。そんな水品さんが、ある日駒田に声をかけてきた。「15分で一万円の
バイトに興味はありませんか?」あやしげなバイトの真の目的と、水品さんが
決して笑わない理由とは。
クールな美少女、水品さんが駒田に持ちかけてきたバイトとは、駅の売店で
雑誌を買い、支持された電車の席に座ってその雑誌を読むというもの。
ぴったり15分で指示された内容は終了し、意味の分からぬままに一万円を
手にした駒田。考えるうちに、この行動の意味に思い当たり、それを水品さんに
伝えた駒田は…。
学校にはあまり来ることがなく無口で笑わない、クールな美人の水品さん。
口調は堅い、愛想なし。でも不意打ちをかけられると動揺する姿が可愛かったり
します。
対する駒田は地味。自己主張するでもなく、友だちがたくさんいるでもなく。
勉強も運動もごくごく普通の目立たない存在です。そんな駒田だからこそ、
水品さんに目をつけられたわけです。水品さんと、謎の美女、ホイミが手がける
仕事での活動は目立たないことが必須なのです。
軽快な駒田の語り口調で、美少女水品さんに振り回される様子がユーモアたっぷりに
描かれています。しかし、実は駒田も、水品さんも、ホイミもそれぞれに心に傷を
負っています。表向きのキャラからは、思いもよらぬような出来事を経験している
三人は、他人の幸せのために力を尽くしていくのです。
冷たい仮面の奥に隠された水品さんの深い悲しみ。その悲しみを少しずつ癒して
いくのは、彼女を大きく包み込むホイミのあたたかさ、そして彼女と共に前を向いて
歩いて行こうする駒田の押し付けないやさしさと強さです。そして水品さんを見守る
ことで、ホイミや駒田にも救われる部分があるのです。
破天荒なキャラクターが登場するドタバタ物語思いきや、不用意に人を傷つける群集の
心理や、日常から希望を見出すということ、生きていくということ、いろんな要素が
ギュッと詰まっています。ネット上で拡散されるニュースや、誰かに起こった不幸な
出来事に対して、嘲りや喜びの気持ちを向けていないか?自分自身に問いかけたく
なるような、気持ちが引き締まる物語でした。