ぬこのイラストブックれびゅう

ぬこのイラストブックれびゅう

雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

足りないものを抱えた者同士が寄り添う形を描く

ファミリー・レス 』の

イラストブックレビューです。

 

姉と絶縁し、シェアハウスで暮らすOL。妻の親族に興味を持てない画家。
未来を考えないことで離縁された男。姉の忘れ形見である娘の、本当の母親に
なりたい女教師。何かが欠けた6人の男女を描く連作短編集。

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シェアハウスで暮らし始めたOLの希恵。姉が子どもを産み、実家の母親が
しきりと赤ん坊の写真をメールで送ってきます。同じシェアハウスに住む
毒舌の葉月に写真を見せるが、エイリアンみたいだとか、名前のつけ方の
センスが最悪だとか、相変わらず手厳しい発言です。

生活リズムが近い希恵と葉月は、食事の時間を共に過ごしたり、服の貸し借りを
したりしていています。やがて二人の距離は少しずつ近づいていきます。
そして、ある夜希恵は、姉の子供は自分が付き合っていた彼との間に
できた子だという事、胸に抱いていた姉への思いを葉月に吐き出します。

希恵は他人である葉月に、全てを理解して欲しいと思ったのではないのかも
しれません。それでも、母親から刷り込まれた考え方によって、姉を悪く思う
事ができず、相手を罵る言葉さえも発する事ができずに抱え続け、引き裂かれた
心の傷を、葉月の毒舌によって少しだけ癒される事ができたのです。

また、愛する妻の親族に興味を持てない画家の鉄平は、売れない絵を描いていて、
妻の万悠子が働く給料で生活を送っています。2人は何の問題もなく暮らしているの
ですが万悠子の親族からの風当たりが強いのです。そんな中、万悠子の従妹の結婚式に
二人で出席することになり、式の後には彼女の祖父母の家に泊まることになりました。

祖父は目が見えないのですが、家の中であれば問題なく生活できます。
祖母は鉄平の絵が理解できないことや、万悠子が働くことで生活していることに不満があり
鉄平に対する嫌悪感を隠そうとしません。説得する気もない鉄平でしたが、親族の中で
たった一人、万悠子との結婚を賛成したという祖父と、酒を酌み交わします。
そこで話題に出たのは、万悠子の子供の頃の話で・・・。

他人同士でありながら、万悠子を好きな部分が同じである祖父と鉄平。
そこには穏やかなつながりのようなものが感じられます。
全てを周囲にわかってもらえなくてもいい。そのつながりをわかるものだけが、感じ、
理解できればいいのだよ、と伝えてくれているようです。

ほかにも、何かが欠けている男女が登場し、何かを見つけていきます。

「家族」であるがゆえに近すぎて生じる葛藤、「家族」なのに遠すぎる戸惑い、
「家族」ではないからこそ感じる安堵と寂しさ。「家族」という名のピースが
欠けてしまった者たちが抱える孤独は、完全になくなることはないのかもしれません。
しかし、違う形で、その孤独が少しでも救われることがある。そんな瞬間を丁寧に
描いた、心が揺さぶられるような短編集です。

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