ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

父の手紙に込められた子供達への愛

父からの手紙 』の

イラストブックレビューです。

 

 

10年前、妻と二人の子供、麻美子と伸吾を捨て、阿久津伸吉は失踪した。
二人の子供の元には、誕生日ごとに伸吉から手紙が届いていた。しかし、
結婚を控えた麻美子に思わぬ事態が訪れる。麻美子の婚約者が殺され、
弟の伸吾が容疑者として逮捕されてしまったのだ。弟を救うために奔走する
うちに、驚くべき父の真実が明らかになっていく。

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毎年誕生日に届く、父からの手紙には、娘の成長を温かく見守る様子が書かれています。失踪した伸吉は、子供達の前に姿は見せませんが、時折、遠くから子供たちの姿を眺めることがあるようなのです。子煩悩で、優しかった父親の気配を感じながら麻美子と伸吾は成長してきました。

そして、麻美子は高樹との結婚を控えていました。高樹へ対する愛情はないけれど、
家族ぐるみで付き合いのある山部の工場への資金援助を頼むために決めたのです。
弟の伸吾は、女にだらしない高樹との結婚に反対していましたが…。

その高樹が何者かに殺害され、伸吾が容疑者として逮捕されます。麻美子は
伸吾の無実を証明すべく、あちこち調べ始めます。そして、同時に描かれていく、
過去に殺人を犯し、刑期を終えて戻ってきた秋山圭一。彼らの人生が交わる時、
父、伸吉の失踪の秘密が明らかになっていくのです。

弟に迫る犯人への嫌疑、高樹の死によって絶たれた山部への援助。その結果、
父の古くからの友人である山部が自殺。迫り来る困難の数かずに、苦しみながらも
なんとか自分を奮い立たせ、麻美子は真実を追います。その健気さと強さは、
父親から受けていた愛情のおかげかもしれません。

当初、外に子供を作り、家を出て行ったと思われていた伸吉。ところが、そうではなく、秋山圭一の兄夫婦の家で起こった火災事故と密接な関係があったことが明らかになります。そして、圭一が犯した殺人も、その火災事故が関連しているのでした。

伸吉は家庭を大切にし、子供達をとても愛していました。それは麻美子と伸吾の
思い出から言っても間違いはありません。その伸吉が子供たちを置いて出て行って
しまった理由は、驚くべきものでした。

複雑に絡み合う、麻美子と圭一の現在と過去。次々と明らかになる事実に驚きの連続です。ミステリでありながら、父と娘の愛情、兄と弟の愛情など、家族をどこまでも愛し、大切にしていく者たちの姿が克明に描かれた人間ドラマです。

そして、ラストで明らかになる毎年届いていた伸吉からの手紙。この仕組みが明らかに
なった時、涙せずにはいられない、感動のミステリです。

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