ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

「知」の境界線は一体どこにあるのか?

知ってるつもり 無知の科学 』の

イラストブックレビューです。

 

 

人はなぜ、自らの理解度を過大評価してしまうのか。そうであるにもかかわらず、
高度な文明を発展し続けているのは何故なのか。認知科学者が、行動経済学から
人工知能までの研究結果を用いて、人間の知性の本質に挑む。

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「知」とは何か、その思考の仕組みや賢さの定義など、あらゆる方向から、様々な
研究結果をもとに、知性の本質について探究します。

行動経済学のような、ちょっとくだけた感じで楽しく読める本かな〜と取り掛かり
ましたが、全然違う!真面目だ!ちょっと論文ぽい雰囲気もあります。
ですので後書きまでで294ページのボリューム、読むのに時間がかかりました。

しかし、実験内容も面白いものがあるし、研究結果もなるほどね、と頷く内容ばかり。
これでまたひとつ「知ってるつもり」になっちゃったなあ、と思います。

まずは、人間はなぜ思考するのか。これについて、人間の脳の働きと、脳のある他の生物の行動と比較しながら考察をします。

すなわち脳は、有効な行動をとる能力を支えるために進化した。思考する動物は、短期的にも長期的にも自らを利するような行動をとる可能性が高く、ライバルよりも生き延びる可能性が高い。

つまり、環境に適した行動を取り、生き延びるために脳は発展していったと言えます。
そして、思考とは何か。これはスバリ「因果関係」です。ただし、自分の経験から
得られる因果関係の考察には限度があります。ですから、世の中には多くの物語が
溢れており、様々な教訓が含まれているのです。なるほど。たしかに、多くの物語を
読めば、物事について、様々な結果を予想することができますね。

次に、なぜ間違った考えを抱くのか。
私たちの頭の中には直感で判断する部分と、熟慮して考える部分があります。トイレの
仕組みを説明してほしい、という質問に対し、直感システムは「お安い御用だ!トイレのことは良くわかるよ!毎日使っているしね!」と反応しますが、熟慮システムはいざ説明しようとしてみると、言葉に窮するのです。つまり、「本物の知識」は自分自身の頭の中ではなく、別のところにあるのだとか!えっ!どこ!?

脳と身体、そして外部環境は協調しながら記憶し、推論し、意思決定を下すのだ。知識は脳内だけでなく、このシステム全体に分散している。

フムフム?身体も判断の際に使われていると。さらに外部環境の助けがあれば、自分一人の頭で考えなくても、あらゆる事柄を処理できそうです。つまり、トイレの仕組みを詳しく知らなくても、問題なく暮らしていけるわけですね。

そして興味深いのは、本書が提示する「賢さの定義」です。

このように考えると、知能はもはや個人の推論能力、問題解決能力ではなくなる。個人が集団の推論や問題解決プロセスにどれだけ貢献するかだ。

これは、集団で物事を進めていくためには、異なる能力を持った人がバランス良くいることが必要なのだということです。補完的能力が揃っていることで、認知的分業作業により、あらゆるニーズを満たすことができるのです。こうした場においては、個人の知能テストでの好成績が必ずしも有効ではない、ということになります。個人能力に自信のない自分には朗報です。ほかにも思考や知について、興味深い研究や結果をいくつも挙げています。

大切なのは、自分が無知であるという事を認めること。思考に錯覚が含まれていることを疑うこと。そう自覚することで、持って生まれた能力に関わらず、知性を磨き続ける事ができるのです。「知」の境界線を超えた時、新たな世界が広がるかもしれません。

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